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【第7話】湖の底は泥だらけ

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 フォマローに案内され、二人はリュンヌの部屋へ入った。
 そして案内するだけして、彼はすぐ仕事に戻った。
 部屋の中央に二人、ポツンと立ち尽くす。

 気まずい空気。
 リュンヌは背を向けたまま俯向き、何かを思案していた。
 
 部屋の隅には高そうな革製のイスと机。
 他の壁面は本棚が並び、彼女の読書家な一面が見て取れる。
 どんな本が好きなのか?
 キノーの中で強い好奇心が沸いたが、今はとてもそんな事を聞ける空気ではない。

「あの、お嬢様……先程はっ、失礼致しましたっ」

 ここは早々に、と。キノーは深々と頭を下げて謝った。

「私……そのっ……昔から張り切り過ぎてしまうところがありましてっ」

 必死の言い訳である。

「別にいーし。先に変なこと言ったのは私だしー」

 そう言いながら振り返るリュンヌだったが、彼女の視線は窓際へ向けられていた。

(ひょっとして……逃走経路を確保してるっ!?)

 ついさっき、自分の元から全力疾走していったのだ。そんなすぐ警戒が解かれるはずも無い。

(どうにかっ……どうにかしなければ……!)

 今までの失敗の数々。
 何をやっても、最後に必ずやらかす自分。
 きっとそういう人生なのだ。もう誰にも迷惑を掛けずにひっそりと生きよう。そう決心した日もあった。
 
 しかし、だ。
 こんな自分を、救ってくれる人が現れた。

 二度と無いであろう幸運。
 人生最後、唯一の望みだ。

(次で取り戻すっ……! 今度こそだっ!)

 キノーは改めて決意を固めた。


「そーだ、新人さーん。さっそくお願いしたいことできちゃったー」
「はいっ! 喜んでっ!!」

 威勢の良い返事に、リュンヌは目を細めた。

「じゃー、ちょっと出掛けよっかー」



 二人は邸宅を出て、村からも離れた。
 荒野をまたぎ、やがて小高い丘を越えて林の中へ。
 疎らに並んだ木々を抜け、道なき道を進むこと約二十分。茂みに囲まれた小さな湖にたどり着いた。

「わあ~。こんな場所があったんですねっ」

 湖には陽が射し込んでいる。
 何処か神秘的であり、同時にそこだけポッカリと穴が空けられた様な不自然さもあった。

「綺麗でしょ? 私の秘密の場所なんだー」
「えっ? そんな大切な所に案内してくれたんですかっ!?」
「まーね。今後の働きに期待を込めてねー」

 笑顔を向けるリュンヌに、キノーは目頭が熱くなるのを感じた。
 
「お嬢様っ……! 私っ! 精一杯頑張りますっ!」
「うん。じゃあさっそくなんだけど、湖から鍵を取って来て?」
「はいっ! 承知し…………え??」

 込み上げていた涙が、一瞬にして引っ込んだ。

「落としちゃったんだよねー。湖の中に」
「鍵を……ですかっ?」
「そー。宝物の鍵なんだー」
(何故そんな大事なものを……)

 湖は、近くで見ると黒く濁っていた。
 
「まー無理にとは言わないけどねー」
「大丈夫ですっ! お任せください!」


 ざぼんっ。


 大きな着水音を立て、キノーはすぐ様湖に飛び込んだ。

「……まじ?」

 彼女のあまりに思い切りの良い行動に、リュンヌは開いた口が塞がらなかった。
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