カレの愛しい幼馴染が僕のワザの虜になるまで ~パッと見NTRだが、実際はただ才能ある少女に剣術を教えてるだけの話~

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【クレスクントのその後】


 クレスクントはデアと言う類い稀なる才能を発掘したことで、王から多大な報酬を得た。
 更に王は子刀流(ねとうりゅう)を国の剣技として取り入れる事を正式に決定。
 師範役としてクレスクントが選ばれ、彼は王に仕える身となった。

 その直ぐ後の事だった。
 自らを“魔王”と名乗る魔界の者が、大陸全土を手中に収めようと動き出した。
 各国に放たれた魔獣の群勢。
 次々に奪われていく人間の土地。
 絶望が大陸を包み込もうとしていた。

 そんな中、颯爽と活躍したのはクレスクントに鍛えられ“剣聖”の称号を得た若き剣士デア。
 彼女によって魔王の野望はあっさり打ち砕かれた。
 それだけではない。
 剣聖デアの剣術、子刀流が広く知られ、一気に大陸で最も有名な流派に。
 同時に、英雄の師匠としてクレスクントの名も広く知れ渡る事となった。

 チャンスを掴み取った者として、クレスクントは成功者の代名詞とまでなるが……それも長くは続かなかった。
 彼には幼い頃から患っている持病があったのだ。
 様々な治療が行われたが回復するとはなく、やがてほぼ寝たりの生活となった。

 この事は『名声を手にした者に訪れた突然の不幸』として多くの人に衝撃を与えた。
 しかし当の本人は、いずれこうなる事を解っていたかの様だったと言う。
 数名の弟子に見守られながら、彼は静かに息を引き取った。
 享年27歳。

 葬儀は本人の意向により国内の門下生のみの参列で、しめやかに行われた。
 親族や配偶者はおらず、喪主はデアが勤めた。
 天涯孤独の身だった。

 国王も彼の死に酷く心を痛めた。
 毎年クレスクントの命日には公務を休み、墓に訪れている。


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【ルードスのその後】


 恋人のデアが剣の達人になった事を知った日から数日、ルードスは連絡を絶ってしばらく一人で寝込んだ。
 それだけデアの変貌はショックな出来事だったのだ。

 しかしある日、吹っ切れたように再びデアと連絡を取り始める。
 彼は解っていたのだ、デアが強さを求める理由を。
 
 寝込んでいる間、ルードスの頭の中にあったのはデアへの申し訳ない気持ちだった。
 自分が臆病者なせいで、彼女に危険な道を歩ませてしまった……そんな強い罪悪感や無力感があった。
 だが次第に気付く。
 それらの感情は彼女の為ではなく、結局自分の為でしかない、と。

 デアはルードスの為に、自ら強くなる道を選んだ。
 ならば自分はどうするべきか?
 彼女が戦いへ出るのなら、その帰る場所を守るのが自分の役目なのではないか?
 そう考えたのだ。

 毎日デアと通話しては、自分や彼女の両親の近況も伝えた。
 それはデアが剣聖となり、魔王討伐隊のリーダーとして名声を上げても変わらず行われたと言う。

 長らく病床に伏せていたデアの母親に関しても、ルードスは精一杯看病した。
 少しずつ貯めたお金で高価な薬を買い、遠慮されるのを回避するため密かに飲ませた。
 そんな彼の努力の甲斐あってなのか、やがてデアの母親の病気は完治した。

 
 大陸に平和をもたらし、英雄となったデア。
 彼女が故郷に戻ってくるまで2年が経過していた。
 様変わりした町並み。
 周囲の視線。
 2年間で何もかもが変わってしまった。
 そんな中、彼女の帰りを出迎えてくれた恋人のルードス。

「ルードス……遅くなっちゃってごめんね」
「大丈夫、いま来たとこだし」
 
 2年の月日が経っても変わらなかった、あの日と同じ笑顔。
 数日後、2人は町の教会にて双方の両親に見守られながら挙式をあげた。


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【デアのその後】


 英雄と一般庶民の夫婦生活。
 周囲からは「上手くいかないのでは?」と心配されていた。
 デアは若くしてあまりにも有名人であり、何より影響力もあった。
 何をするにもデアは人々から必要もされ、大陸全土から引っ張りだこ状態。
 一方で夫はただの庶民だ。
 どう見ても釣り合わない。
 結婚してもなおデアに求婚する貴族は後を絶たず、破局は秒読みとまで言われた。
 しかし周囲の人は知らなかった。
 2人の絆の強固さ。
 2人の想いの深さを。
 時に2人を別れさせようと画策する者もいたが、みな漏れなく悲惨な目にあった。

 結婚から一年後、2人の間に第一子が産まれた。
 デアはすぐさま育児の為の長期の休みを要求。
 渋る国王を秒で納得させ、子育てに専念した。
 この出来事から「英雄も育児」という流行語が生まれ、育児に伴う長期間休暇制度が作られるに至ったと言われている。
 
 ………
 
 ……

 …

 コンコンコンコンッ。

 ある日の晩の事である。
 玄関のドアを激しく叩く音が響いた。

「んもぅ~……こんな時間に誰?」

 我が子を寝かしつけたばかりのデアが、不機嫌そうにドアを開けた。
 すると。

「夜分遅く失礼します! 国王に命じられ、失礼を承知で参りました!」

 黒いローブに身を包んだ青年が、危機感を露わにした表情で立っていた。

「なんだァ……どうかしたのか?」

 ただならぬ空気にルードスも眠い目を擦りながらやって来た。
 連日の我が子の夜泣きで、彼は寝不足だった。

「剣聖デア様! 城が魔族に奪われましたッ!」
「魔族? まだ残党が居たってこと?」
「はい! 残っていた魔王の配下が国内に密かに兵力を蓄えていたらしく、突如上空から城を……!」

 デアは話を聞きながら、冷静に注意深く青年を観察していた。
 あらゆる戦い方を学んだ彼女の癖のようなものだった。

(嘘ではなさそう。この青年も城内で見たことあるし、魔力反応がないから魔族が化けてる可能性は極めて低いかな)

 自分や家族を狙った奇襲を疑ったが、どうやらそうではないらしい。
 と言う事は、彼の言った通り城が魔族の軍勢に占領されている。

「向こうの兵力は?」
「確認した範囲で、およそ3万」
「それはまた、けっこう溜め込んでたねー」

 そう言うと、デアは頭をポリポリ掻きながら深くため息をついた。

「デア……」

 疲れた瞳で、ルードスが見つめる。

「こっちは心配しなくていいからな」
「うんっ、ありがと」

 そう言ってくれると解っていたが、実際に言ってもらえて安心したのだろう。
 デアは強張った顔を緩め、「よしっ!」と気合を入れた。

「最悪のタイミングで攻めてきた事、めちゃめちゃ後悔させてやるっ」
「おうっ! 奴らに育休ってモンを教えてやれ!」

 夫と眠る我が子に出発前のキスを済ませると、寝巻きの上に薄手のコートを羽織った。
 さらに空中に手をかざす。
 すると野外の物置が勝手に開き、一本の煌びやかな剣が飛んで来た。

「おおッ! それは宝剣セプテントリオン! 人類の叡智と言われる魔法の剣が……まさか民家の物置にしまわれてるとは……」

 青年は感動と落胆の混ざった複雑な表情を浮かべ、準備を終えるデアを見つめた。

「よーし! そんじゃ一丁、国を救いに行ってくるかなっ」


 数時間後。
 魔族の軍勢はデア一人にめちゃめちゃに壊滅させられ、めちゃめちゃ後悔させられた。



 (今度こそ本当に)ーENDー
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