君たちはボクを王子様というけれど

2

危険な男
近づいてはいけない
関わってはいけない

脳内では激しい警告音がなっている

それなのに私は危険を感じたら早期撤退という指示を無視して、ノヴァに手を引かれてホテルの廊下を歩いている。

コツコツコツ

と、恐ろしいほど規則正しい靴音をノヴァはたてている。

コツコツコツ

靴音があまりにも規則正しくて落ち着かない。完全に彼のペースに呑まれている。

この男、人間よりも綺麗な顔をしたロボットだといわれた方が納得できる。360°どこを見ても隙がない。

こんな男がただの一般人であるわけない。
この人工的な雰囲気や完璧な仕草はどこかで訓練を受けていなければできないだろう。

やがて一つの部屋の前に止まると慣れた手つきでロックを解除した。

「こちらですよ」

下心なんて全くないですよ。
というよな紳士的な態度で彼は私の手をとりエスコートする。

一歩部屋に足を踏み入れれば身体が妙なざわめきを覚える。

気を許す気なんてサラサラないのにこの男の前にいるとなんだか無防備にされている気分だ。取り繕いなんて意味がないですよと言われているみたい。

「君、バスルームは使う？」

軽く首を傾げる。
その仕草ですら美しい。

「ええ」

私はバスルームに入り部屋に盗聴器が仕掛けられていないかを探った後にため息をひとつついた。

ノヴァ　キルシュブリューテが何を考えているのかさっぱりわからない。


彼は調べによると女をホテルに連れ込むなんてしないのに、、、、


ーーーーーーー

私は置いてあるバスローブを羽織った。部屋に戻るとノヴァは上半身裸でベッドに腰掛けていた。だが、この男は上半身裸でも涼やかで清廉としていてなんだか私がひどく場違いな気がした。

窓の隙間から入る光が彼の髪をキラキラと輝かす。

「プラチナブロンドが眩しい」

キラキラとあまりにも綺麗に輝くものだからつい思ったまま口に出すとノヴァはにっこりと微笑んで

「本当にプラチナブロンドだったかな？」

と、意味深に言った。

「え？」

恥ずかしくなって目を伏せると、靴先が見えた。徐々に彼は近づいてくる。あの規則正しい靴音をわざとらしくたてて。

エキゾチックな香りを撒き散らしながらゆっくりとゆっくりとこちらに近づいてくる。

威圧感を感じる。
身体が強張る。

柔らかで紳士的で清廉なノヴァ　キルシュブリューテには似合わない威圧感。

身体がすくんで恐怖を感じている。

彼の手が私の手に触れた。

「あたたかいね」

そういう彼の手は驚くほど冷たい。

こちらを見つめる瞳が蜘蛛の糸のように身体に纏わりついているような気がした。