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七日間の蜜月・1

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「美味しい! このお味噌汁、最高に美味しい!」

「良かったです。八百屋さんの奥様に教えてもらったんです。ナスをごま油で炒めてから……って」

 雪子が面接と単発バイトをして帰宅すると、夕飯が出来上がっている。
『おかえりなさい』という温かい声と笑顔での出迎え。
 心が安らぐ瞬間だ。 

 ナスの味噌汁に、チキンの照り焼き。アボカドとトマトのサラダ。
 もちろん雪子の大好きなビールまで。
 最高の夕飯。

 始は二日ほどで、家事をマスターしてしまった。
 しかも雪子も入った事がなかった近所の八百屋さんや肉屋さんと、仲良くなって安く買い物をしてくる。
 部屋もピカピカだ。
 今日は七日目の夕飯。

 雪子が勧めて、始もビールを飲む。

「やはり身分証明書がないとダメだと、仕事は断られてしまいました」

「……免許もないんだもんね。仕方ないよ」

 都会では免許を持っていない男性もいるにはいるが、彼は身分証明書も何も持っていない。
 それではバイトすら雇ってはもらえないのは当然だ。
 八百屋さんからはスカウトされたのだが、免許がないため働くことはできなかった。

「私もまたダメだった~」

 新入社員が入ったばかりの春に、人を雇いたい会社など殆どない。
 中途採用で、雪子の年齢だと渋られる。
 ハローワークでも雪子の望む仕事は殆どなかった。
 単発バイトはしているが、入るのは数千円。

 大丈夫! と始には言ってるが、少しの焦りが滲む。

「はぁ……」

「雪子さん、生活費を受け取ってください。俺はまだ現金はありますから」

「いいって! そんな余裕ないでしょ! それより今日の食材のお金は? 大丈夫だった?」

「色々おまけもしてくれたので、大した額ではありません」

 彼は現金を持っていると言っていたが、一体いくらあるんだろうか?
 雪子は不思議に思うが、さすがに聞いてない。
 
 無職の二人。

 でも夕飯後に小さなソファで始にもたれると何故か安心する。
 まだ七日……でもこれから、身分証明書もない彼をどう養っていこうか?

「本当はさ……」

「はい」

 静かに肩を抱いてくれる始。

「貴方は……」

 一度、家に戻って家族と話し合いをするべきでは? と言うべきなのはわかっている。
 でも、箱入り息子の彼を両親はもう閉じ込めて、二度と出てこられないようにするような気もする。

 それは……ただ単に自分が、もう彼と会えなくなるのを恐れているだけだ。

「雪子さん……?」

 この顔がよくて、身体もよくて、セックスも抜群で、料理も美味しい、男。
 いや、そんな事より一緒にいる安心感。
 なにもかも包んでくれるような優しさ……思いやり。
 まるで自分がいるべき場所のようなこの男が、好きで好きでたまらなくなってしまった。
 家に帰るのが楽しみになるなんて……考えた事もなかった。
 
「なんでもないの……始くん、しよ……? 触って……」

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