上 下
35 / 36

燃える愛・2

しおりを挟む
 誰よりも悔しいのはラファエルだ。
 その彼の言葉に、皆が頷く。

「そして、みんな聞いてくれーーー!!」

 朝の村に、響き渡るような大声。

「ヴァレンティーナが俺のプロポーズを受け入れてくれた!! 俺の妻になってくれるんだ!! みんなお祝いしてくれーー!!」

 ラファエルの婚約発表に、アリスとローズが抱き合って叫んだ。
 使用人も村人も、歓声をあげて拍手する。

「ラファエル様ー! ヴァレンティーナ様! おめでとうございますーー!!」

 暗い雨が続いていた村に、キラキラとした朝日が照らす。 
 村が、輝きに満ち溢れていく。
 皆が笑顔で祝福してくれた。
 ヴァレンティーナの胸元で、道場の鍵が揺れる。

 こんなにも沢山の見知らぬ人に囲まれて、それが冷笑や嘲笑いではなく皆が嬉しそうな笑顔。
 初めての経験だった。何もかも心が追いつかない。
   
「ラ、ラファエル……! 君は……もう! 突然に何を……!」

 言葉にならず、ヴァレンティーナの頬は真っ赤だ。
 恥ずかしさと、嬉しさと、なんだか涙が出そうだった。
 
「抱き上げて自慢したいのを我慢したんだぞ? ……ふふ、報告は早い方がいいじゃないか。撤回なんかしないのだから」

「だ、だからって……」

「責めるなら俺の部屋で……ゆっくり聞くよ」

 キスをするように耳元で囁かれて、アリスとローズがキャーと喜ぶ悲鳴を上げた。
 
「ば、ばか……!」

「じゃあ、俺達は休むとしよう」

 ラファエルは皆の祝福を笑顔で受けて、ヴァレンティーナの肩を抱く。
 メイド達が、我先にとバタバタと屋敷へ戻って行くのが見えた。

 駐在所からは馬車で、ゆっくりと屋敷まで送ってもらう。

 今は屋敷に入って、ラファエルの部屋へ向かっているところだ。
 恥ずかしくて下を向くヴァレンティーナの手を、ラファエルが優しく握って歩く。

 剣の修行でできたマメのある手も、ラファエルは愛しく握ってくれる。
 ラファエルの剣士で無骨な手も、また愛おしかった。

「傷は痛まないか?」

 駐在所の隣には、治療院も併設されている。
 この村の規模にしては、かなり質の良い治療院でヴァレンティーナも診てもらうことができた。
 普通の女性なら骨を折ったり、内臓を損傷する怪我を負っていたかもしれないが、ヴァレンティーナは唇の端が切れたのと腹部に軽い打撲を受けただけで済んだ。
 ラファエルがやきもきして待っている間に、治療術師が治してくれた。

「あの治療術師さんは、かなり優秀だな。もうどこも……前より具合がいいくらいだ」

「稽古で怪我したって、みんな行くからなぁ……あそこの治療術師さんは綺麗だろ?」

「あぁ。とても綺麗な人だった」

「そうなんだよなぁー美人で知識が深いから男達のアイドルさ。助手のメガネ君もかっこいいし、みんなの心も癒やされるってさ」

 ラファエルは、素直に人を褒める。
 アリスだけではない、男でも女でも、誰の事でも褒めるのだ。
 そんな簡単な事だったのに、恋心を患って、何も見えていなかった。
 
「ヴァレンティーナもとても綺麗だよ」

「ラ! ラファエル、君という人は……もう……」

「戦いの女神のようだ。剣を振るう姿は華麗で美しく、そして凛々しく強い」

「ばか! いや、あの違う……嬉しい……んだけど……恥ずかしくて……だめ……」

 握った手は離してもらえないので、片手で顔を覆う。
 逆にラファエルがその様子を見て、一瞬止まる。

「可愛いすぎて、俺は馬鹿になってるよ。すごく好きだ。好き。可愛い」

 ヴァレンティーナの可愛い仕草に、ラファエルは子供のように『好き』を繰り返す。

「……わ、私は……あの……その……慣れない……」

「お互いにゆっくり慣れていこう……とりあえず、一緒にお風呂に入って泥を落として温まろう」

「お、おふろ……」

 ラファエルの部屋の温泉。
 まさか一緒に入る運命が待っているとは夢にも思わなかった。
 しかし、一緒に入るということは……。
 
「……うん……ダメ……?」

 また可愛さと、男らしさの繰り返し。

「……だ、ダメじゃない……」

 優しく微笑むラファエルに導かれて、二人で部屋へ入っていく……。

 部屋は、二人を祝福するように豪華に彩られ準備されていた。

 オレンジの香りが二人を包んで、ラファエルの優しさがヴァレンティーナを包む。

「優しいな……ラファエルは」

「俺のお嫁さんに、こんな女神がなってくれるって言うんだぜ? この世で一番優しくするし、大事にする」

 自分がまさか誰かの『お嫁さん』になるだなんて……。
 あの白豚息子との婚約が決まったときには一切思わなかった感情が、心を満たしていく。
 望まれる事がこんなにも嬉しいだなんて。

 そしてこの幸せな想いを、ラファエルにもあげたい。
 母のことで傷を負った少年の心を、癒やしてあげたい。
 
「……私もだ。絶対に君を一人にしない……」

「ヴァレンティーナ……剣に誓って……?」

「剣に誓って……」
 
「俺も誓うよ……愛してる」
 
 二人で手を取り合って愛を確認し、キスをした。

 気高く美しいヴァレンティーナと、皆に慕われる剣豪ラファエル。
  
 ラファエルの素直で雄々しい愛で、癒やされ、浄化され、愛されて……。
 初めての愛に燃える二人を、ベッドの傍らの剣4つが見守っていた――。
 
 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら

キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。 しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。 妹は、私から婚約相手を奪い取った。 いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。 流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。 そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。 それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。 彼は、後悔することになるだろう。 そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。 2人は、大丈夫なのかしら。

[完結]幻の伯爵令嬢~運命を超えた愛~

桃源 華
恋愛
異世界アレグリア王国の 美しき伯爵令嬢、 リリス・フォン・アルバレストは 男装麗人として名高く、 美貌と剣術で人々を 魅了していました。 王国を脅かす陰謀が迫る中、 リリスは異世界から 召喚された剣士、 アレクシス・ローレンスと 出会い、共に戦うことになります。 彼らは試練を乗り越え、 新たな仲間と共に 強大な敵に立ち向かいます。 リリスとアレクシスの絆は 揺るぎないものとなります。 力強い女性主人公と ロマンティックな愛の物語を お楽しみください。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

処理中です...