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伝えられる想い・1

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「やめろぉ!! 触るな!! ……いやだっ!!」

「ヴァレンーーーーーーーーーーーーー!!」
 
 まるで輝く光のような大声。
 ヴァレンティーナに跨っていた男が、ふっ飛ばされた。
 どこからか、大きな木の枝が投げつけられたのだ。

「やばい! ラファエルだ!!」

 ギョッとした男達の声。

「……ラ……ラファエル……」 
 
「ヴァレン!! お前ら……絶対に許さんぞ」

 男達に土の上に転がされたヴァレンティーナを見て、ラファエルは静かに呟く。
 怒りに震えたその声には、殺意が滲み出て紅いオーラのように夜の空気を揺らす。
 
 男達はそのラファエルの怒気だけで、後ろに一歩下がった。

「ち、近寄ったら……こいつがどうなるか……」

 男の一人が、ナイフを取り出した。
 倒れたヴァレンティーナの首元に当てようと動いたのだが……。

 男が吹っ飛んだ。
 
 先程のヴァレンティーナよりも更に速く、ラファエルが右手の剣で殴打したのだ。
 峰打ちだが、肩の骨が砕けているかもしれない。

 そして鎖で拘束されたヴァレンティーナを、左手で抱き上げ立ち上がらせた。

「ラ、ラファエル……」

 黒い雲が流れ、満月の光が二人を照らす。
 ヴァレンティーナの口元に、殴られた時の血が滲んでいた。

「もう大丈夫だ。少し待っていてくれ」

 抱き寄せた耳元で、ラファエルが囁く。

 数人残った男達は、人質も即奪われ困惑しているがラファエルの殺意は止まらない。

「お前ら……俺の大切な人に、こんな手出しをしやがって……許さん!」

 ラファエルがもう一刀の剣を抜いた。
 右手、そして左手にも剣――。

「……二刀流……!?」

 自分に巻かれた鎖をどうにか解きながら、ラファエルの構えを見て驚く。
 逃げようとした男、道場に火を点けようとした男。剣で襲いかかる男。
 全てを一瞬で叩きのめす。

「強い……」

 これが封印されたラウドュース剣術……!!
 圧倒的な強さだった。
 ヴァレンティーナと同じ、剣に捧げた人生が見てわかる強さだった。

 両刃の大剣での二刀流剣術を見るのは、ヴァレンティーナにとって初めて……いや……何か胸の奥で疼く。

「ラファエル……ラファエル」

「ヴァレン……!!」

 ふらりとよろけたヴァレンティーナを、ラファエルはすぐに二つの剣を収め抱きとめた。
 鎖が絡みついたせいで、シャツのボタンが飛んでしまっている。
 胸元の膨らみの間に揺れた道場の鍵が無事だったので、ヴァレンティーナは安堵した。
 
 ラファエルは自分のジャケットをヴァレンティーナにかけると、ヴァレンティーナを抱き締める。
 突然の抱擁。

「あぁヴァレン……!」
 
「えっ……あ、あの……ラ、ラファエル……」

「来るのが遅くなってすまない。こんな怪我をさせて……ごめん」

「あ、あの……いや……ラファエルのせいではないし……こ、こんなもの、か、かすりきずだ……」

 彼の逞しい胸に、抱かれている。
 信じられない。
 こんな時に不謹慎だと思いながら、心臓の鼓動が高鳴る。
 そういえば、先程のラファエルの言葉……。

「何を言う。女性の顔に……こいつら本当なら全員ぶっ殺したい」

 ラファエルはヴァレンが女だと、知っていた……? わかっていた……?

「そ、そんな……ラファエル……」

「愛しい人をこんな目に合わせた奴らだ……必ず裁きを与える……!」

「い、いと……えっ」

「でもまずは、ヴァレン……行こう」

「ひゃっ」

 ラファエルはヴァレンティーナのレイピアを拾ってから、軽々とヴァレンティーナを抱き上げた。

「あ、歩けるよ」

「俺が離したくないんだ」

 飛び跳ねた心臓が更に、飛び跳ねる甘い言葉。
 
「わ、わ、わ、私は重たいし」

「重たくないよ。女性一人運べる筋力くらい、あるから気にしないでほしい」

 やはり、『女性』は聞き間違いではなかった。
 女性として扱われている……とヴァレンティーナは驚く。

「お、女だと知っていたのか……わかっていたのか……?」

「えっ? ……最初はごめん、綺麗な男だと思った……って、俺は色々と誤解をしたって謝ったけど……わからなかった?」

 逆にラファエルも、驚いた顔をする。

「えっ……あ、あの誤解をしたって……私とアリスと恋人のことかと……」

 アリスとの恋人関係を聞かれて、女だと思っているとは思わなかった。
 
「あ……あぁ……そうか。それも聞いたな。すまない……俺は本当に何もかも下手くそだな。女同士でも恋人ってあるから」

「……えっ……?」

「うん。ローズが昔から女の子に恋をする子だったから、女性同士でも恋人同士でも有り得るのかと思ってさ……」

「ローズ様が」

「そう……だからヴァレンの恋人なのかって気になったんだ……だから聞いた」

「それは……つまり……ええっと……」

「つまり、ヴァレンに恋人がいるのか、フリーなのか気になって聞いたんだよ」

 ラファエルの真っ直ぐな言葉が、ヴァレンティーナの心をドキリとさせる。

「……女だと……わかってたんだな……」 

「うん。これだけ話をして姿を見ていればわかるよ。夜中の茶会からもしかして? と思ったんだ。山では男だとばっかり思ってて……失礼した。ごめん」

「いや……私が男の格好をして、そう装っていたのだから……でも、よくわかったな……と」

 なんだかお互いにドキドキしているのが、わかる会話。

「剣術と一緒に基本的な医療術も習ってたから、男女の骨格が違うのは知ってたし……剣さばきを見て確信した」

「そうか……」

 ほんの少しの時間なら誤魔化せると思ったが、剣士のラファエルを誤魔化し続けるなどできるはずもなかった。

「手加減したのか……?」

「まさか! 俺は剣士として精一杯戦ったさ」

「……よかった……」

「それは絶対だ。最高に強くて、最高に楽しかった。で見ているうちに、剣術もそうだけど頭も良くて話も楽しい……だから俺は君を魅力的な女性だと思って、見ていたよ」 

「なっ! そ、そんな! アリスはどうするんだ!!」

 ラファエルの言葉で顔が熱くなるが、妹分のアリスを思えば叫ばずにいられない。
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