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二刀流令嬢・ラファエルの村を見学する・3
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「お! 雨が上がったぞ」
雨が上がった村を、また馬で歩く。
土の道路もしっかりと整備され少しぬかるんではいるが、排水もしている。
「子供達は元気でいいな!」
「あぁ、とても可愛かった。……歌であんなに感動したのは初めてかもしれない」
「ヴァレンは歌ってくれなかったな?」
「わ、私は音痴なんだよ!」
楽器はそれなりに弾けるが、歌だけは声が低いのでソプラノなど出ない。
なので、苦手意識があるのだ。
「歌ってくれよ~」
「ば、バカを言うな!」
「いいじゃん。歌ってくれよ~~」
後ろから抱き締められて、ヴァレンティーナの肩に顎が乗せられ、ラファエルが冗談を言う。
しかしヴァレンティーナは心臓が飛び出しそうだ。
「た、手綱を持て!」
「あはは」
ラファエルは笑っているが、ヴァレンティーナは心臓を押さえて熱くなった頬を見られないようにマントのフードをかぶった。
それからまた少し馬を歩かせる。
ラファエルが道を歩く主婦達に手を振って挨拶をされ、ラファエルは、それに倍の大きさの声で応える。
何故かもう『ヴァレン様ーー!』との声も……。
「はは、もうヴァレンの事も広まっているな。通いで屋敷に来てくれている者もいるから」
「皆が歓迎してくれるなんて……私は……そんな資格は……ないのに」
ラファエルにも、まだ素性を一つも話していない。
貴族社会では、婚約破棄をされ、親にも勘当され……とんでもない令嬢だ。
アリスのように、なんでもできるわけではない。
誇れるものは剣だけ――剣仲間だと思ったラファエルは、何もかも持っていた。
この村が楽園のように見えて、そして自分は相応しくないと思える……。
「ヴァレン? ……君さえ良かったら……ん?」
そう言いかけたラファエルの空気が、一瞬で張り詰める。
「あいつら、またか……!!」
「え!?」
「飛ばすぞ!」
何か小さな小屋の前に、二人の女声と、数人の男。
しかし男達は、なんと鎧を身に着けている。
「おい! 何故、許可なく村に入ってる!!」
ラファエルが叫び、空気を悟ったヴァレンティーナは馬から颯爽と降りて怯える女性の間に入った。
「ラファエル様!」
女性二人はヴァレンティーナが背後に守り、更にその間に馬から降りたラファエルが入る。
「村の女性に何の用だ!?」
「あぁ? なんで村に入るのにお前の許可がいるんだよ?? 黙れ!」
「視察だよーーー!! 坊っちゃん~~~!!」
鎧を着ているのに、下品な顔で明らかにラファエルを挑発したような声で応える。
「視察に来るなど聞いていないぞ!」
「うるせぇえええ! 此処の土地はぁ! てめぇのもんじゃねぇんだよ! これからダサック様が納める事になるんだからなぁ!!」
「そのような話は、ダサック殿の個人的な思案だろう。彼の父上からは、この村は俺達にずっと任せると言われている。勝手な絵空事で村の人に乱暴を働くと許さんぞ」
「なぁに~~~!?」
「おいおいおい!! 見ろよ! 綺麗な女でも連れてきたかと思ったら男か!!」
「本当だ。女じゃないのか……美青年じゃねーか」
男がヴァレンティーナを見て、ニヤニヤする。
下等な者も一瞬見とれる美しさが、ヴァレンティーナにはあるのだ。
「女にトラウマでもあるんでしょ~~?? 童貞坊っちゃん~~~!!」
「女嫌いのラファエルちゃん~~!! 女が怖いんでちゅか……!!」
「俺の事はいくらでもバカにすればいいが、客人を巻き込むな!!」
「一度も女ができたことがないなんて不能だって噂だぜ!? ガハハハハ!!」
ラファエルにとって、手出しできない相手だから彼等はこれだけ調子に乗っているのだ。
それはヴァレンティーナにはすぐにわかった。
だが、どうしても怒りが吹き出して――抑えられなかった。
ヴァレンティーナは柄のまま、レイピアを振り上げた。
一般的にはベルトに柄はしっかりと固定しているものだ。
だが曾祖母のマルテーナは、柄のまま相手を殴る――という剣術も編み出した。
なので特殊なベルトで、楽に着脱できるようになっている。
マルテーナ剣術・その18『柄打撃』
ラファエルをバカにした男達の頬が、ヴァレンティーナの打撃によって震え倒れた。
弾くようにして、かなりの手加減をしているので、口の中が切れる程度の傷で済む。
「いてぇ!」
「いだ! てってめぇえええ!!!」
「私は、旅人のヴァレン。もう此処を去る人間だ。だから不快なお前らを殴打した。文句があるなら私に言え!!」
精一杯の演技をして、レイピアを構える。
「……っ! ヴァ」
「私は、お前らのような卑怯者は大嫌いだ! 人を罵倒したいのならば、それ相応の覚悟をしろ!! 大勢で罵り、言葉で人を斬ろうとする卑怯者め……!! 真剣勝負ならいつでも受けるぞ!」
助けた女性二人も、息を飲む凄みだった。
ヴァレンティーナは、ただ必死だったのだ。
鎧の男達は、暴言を吐きながら、馬に乗って逃げていった。
ラファエルは女性二人に、気を付けて帰るように言うと、彼女たちは何度も頭を下げて帰って行った。
「ヴァレン……」
「あ……」
雨が上がった村を、また馬で歩く。
土の道路もしっかりと整備され少しぬかるんではいるが、排水もしている。
「子供達は元気でいいな!」
「あぁ、とても可愛かった。……歌であんなに感動したのは初めてかもしれない」
「ヴァレンは歌ってくれなかったな?」
「わ、私は音痴なんだよ!」
楽器はそれなりに弾けるが、歌だけは声が低いのでソプラノなど出ない。
なので、苦手意識があるのだ。
「歌ってくれよ~」
「ば、バカを言うな!」
「いいじゃん。歌ってくれよ~~」
後ろから抱き締められて、ヴァレンティーナの肩に顎が乗せられ、ラファエルが冗談を言う。
しかしヴァレンティーナは心臓が飛び出しそうだ。
「た、手綱を持て!」
「あはは」
ラファエルは笑っているが、ヴァレンティーナは心臓を押さえて熱くなった頬を見られないようにマントのフードをかぶった。
それからまた少し馬を歩かせる。
ラファエルが道を歩く主婦達に手を振って挨拶をされ、ラファエルは、それに倍の大きさの声で応える。
何故かもう『ヴァレン様ーー!』との声も……。
「はは、もうヴァレンの事も広まっているな。通いで屋敷に来てくれている者もいるから」
「皆が歓迎してくれるなんて……私は……そんな資格は……ないのに」
ラファエルにも、まだ素性を一つも話していない。
貴族社会では、婚約破棄をされ、親にも勘当され……とんでもない令嬢だ。
アリスのように、なんでもできるわけではない。
誇れるものは剣だけ――剣仲間だと思ったラファエルは、何もかも持っていた。
この村が楽園のように見えて、そして自分は相応しくないと思える……。
「ヴァレン? ……君さえ良かったら……ん?」
そう言いかけたラファエルの空気が、一瞬で張り詰める。
「あいつら、またか……!!」
「え!?」
「飛ばすぞ!」
何か小さな小屋の前に、二人の女声と、数人の男。
しかし男達は、なんと鎧を身に着けている。
「おい! 何故、許可なく村に入ってる!!」
ラファエルが叫び、空気を悟ったヴァレンティーナは馬から颯爽と降りて怯える女性の間に入った。
「ラファエル様!」
女性二人はヴァレンティーナが背後に守り、更にその間に馬から降りたラファエルが入る。
「村の女性に何の用だ!?」
「あぁ? なんで村に入るのにお前の許可がいるんだよ?? 黙れ!」
「視察だよーーー!! 坊っちゃん~~~!!」
鎧を着ているのに、下品な顔で明らかにラファエルを挑発したような声で応える。
「視察に来るなど聞いていないぞ!」
「うるせぇえええ! 此処の土地はぁ! てめぇのもんじゃねぇんだよ! これからダサック様が納める事になるんだからなぁ!!」
「そのような話は、ダサック殿の個人的な思案だろう。彼の父上からは、この村は俺達にずっと任せると言われている。勝手な絵空事で村の人に乱暴を働くと許さんぞ」
「なぁに~~~!?」
「おいおいおい!! 見ろよ! 綺麗な女でも連れてきたかと思ったら男か!!」
「本当だ。女じゃないのか……美青年じゃねーか」
男がヴァレンティーナを見て、ニヤニヤする。
下等な者も一瞬見とれる美しさが、ヴァレンティーナにはあるのだ。
「女にトラウマでもあるんでしょ~~?? 童貞坊っちゃん~~~!!」
「女嫌いのラファエルちゃん~~!! 女が怖いんでちゅか……!!」
「俺の事はいくらでもバカにすればいいが、客人を巻き込むな!!」
「一度も女ができたことがないなんて不能だって噂だぜ!? ガハハハハ!!」
ラファエルにとって、手出しできない相手だから彼等はこれだけ調子に乗っているのだ。
それはヴァレンティーナにはすぐにわかった。
だが、どうしても怒りが吹き出して――抑えられなかった。
ヴァレンティーナは柄のまま、レイピアを振り上げた。
一般的にはベルトに柄はしっかりと固定しているものだ。
だが曾祖母のマルテーナは、柄のまま相手を殴る――という剣術も編み出した。
なので特殊なベルトで、楽に着脱できるようになっている。
マルテーナ剣術・その18『柄打撃』
ラファエルをバカにした男達の頬が、ヴァレンティーナの打撃によって震え倒れた。
弾くようにして、かなりの手加減をしているので、口の中が切れる程度の傷で済む。
「いてぇ!」
「いだ! てってめぇえええ!!!」
「私は、旅人のヴァレン。もう此処を去る人間だ。だから不快なお前らを殴打した。文句があるなら私に言え!!」
精一杯の演技をして、レイピアを構える。
「……っ! ヴァ」
「私は、お前らのような卑怯者は大嫌いだ! 人を罵倒したいのならば、それ相応の覚悟をしろ!! 大勢で罵り、言葉で人を斬ろうとする卑怯者め……!! 真剣勝負ならいつでも受けるぞ!」
助けた女性二人も、息を飲む凄みだった。
ヴァレンティーナは、ただ必死だったのだ。
鎧の男達は、暴言を吐きながら、馬に乗って逃げていった。
ラファエルは女性二人に、気を付けて帰るように言うと、彼女たちは何度も頭を下げて帰って行った。
「ヴァレン……」
「あ……」
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