男装の二刀流令嬢・ヴァレンティーナ!~婚約破棄されても明日を強く生き!そして愛を知る~

兎森りんこ

文字の大きさ
上 下
19 / 36

二刀流令嬢・ラファエルと朝稽古する・2

しおりを挟む
 そこから少し雨に打たれ、離れの道場に二人で行った。
 基本的には、外で修行をするものだが雨でも風でも修行がしたい! という変わり者は道場を作る。
 
「こんな道場を作るのは、数代前の剣狂いしかいないって……はは。曾祖父の時にさ、剣狂いの時代だって言われただろ」

「あぁ! 私の曾祖母も……」

 曾祖母マルテーナが二刀流剣術を編み出した頃だ。
 しかしラファエルに、マルテーナの話はしないほうがいいだろうとヴァレンティーナは思い直す。
 自分の正体がバレてしまう。

「ヴァレン?」

「いや、平和が一番なのはわかっているが、剣技全盛期というのは少し羨ましいよな。剣豪達と剣を交え、自分の高みを追いかけ……剣に生きる」

「あぁ! わかるよ」

「わかってくれるか、ラファエル」

 男同士で貴族という身分もなければ、こんなにも気持ちが通じあえるのか……とヴァレンティーナはまた感動してしまう。
 いや、それはラファエルが相手だからだろうか。

「俺も今、道場をして生徒も増えて剣では生きていることになるのかもしれないが……本当は、もっともっと強いやつと戦ってみたい」

 わかる、わかると思う。
 そして、この目の前の剣士が強い事を……お互いに理解している!

「ラファエル、身体を温めたら手合わせをしよう」

「いいのか?」

「当然だ。見た目はお前の方が腕っぷしはいい。だが、遠慮などするなよ」

「へへっ言うじゃないか」

 ヴァレンティーナも日々、鍛えてはいるが女の筋肉には限界がある。
 逆にラファエルは肌寒いのにシャツを袖までまくり、がっしりとした筋肉質なのがわかる。
 これは……マルテーナ剣術をどこまで封印できるかな? とヴァレンティーナは思った。

 屋敷から少し歩いた庭の先に道場はあった。
 ラファエルが鍵を開けて、中に入る。

「おお……素晴らしいな」

「だろ? これまでの稽古の気迫が伝わってきて、気持ちが凛とする」

 古いが大切に使われた道場は、ヴァレンティーナの家にあった道場とよく似ており懐かしさで涙が滲み出そうになる。
 そして準備運動と道場内を軽く走った。
 ガウンはもう脱いでいるが、ゆったりとしたシャツとジレは女性的な身体の膨らみを隠してくれる。
 ラファエルは自分を男と接しているし、わかりはしないだろうとヴァレンティーナは思う。

 自分の女性としての魅力があまりに欠落しているのだな……とも思った。

 そして手合わせ。
 もちろんヴァレンティーナは一般的な一本の剣での剣術も相当だ。
 二刀流は正式な試合では認められない事も多い。
 
 二人の白熱した木刀での手合わせは、あっという間に長い時間が過ぎた。

 床に寝そべる二人。

「はぁ……はぁっ……流石だなヴァレン」

「はぁ……はぁ……そちらこそ、流石だ。ラファエル先生」

 構え向かい合った時から、わかっていた。
 いや、剣士の直感がこの男はできるとわかっていた。

 もちろん木刀とはいえ、当たれば大怪我をする。
 荒唐無稽に突っ込んで剣を振るのではなく、剣技の流儀を極めた者だけがわかる動きがあるのだ。
 相手の強さを知りながら、この太刀筋は通用するのか!? という期待で剣を振るう。

 ラファエルはその期待を裏切る事はなかった。
 一振りするごとに興奮し、更に追撃への返しで興奮する。

「いや~すごかったな。全く余裕がなかった」

「何を言うラファエル、ところどころで笑っていただろう!」

「それは圧倒されて……なんか嬉しくてさ。君も笑っていたぞ、ヴァレン」

「ふふ……私もだ。嬉しくて、楽しくて」

「あははは! 俺達は最高の剣術バカだという事がわかったな!」

 ラファエルが笑って、ヴァレンティーナも笑った。
 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

【完結】待ち望んでいた婚約破棄のおかげで、ついに報復することができます。

みかみかん
恋愛
メリッサの婚約者だったルーザ王子はどうしようもないクズであり、彼が婚約破棄を宣言したことにより、メリッサの復讐計画が始まった。

いつの間にかの王太子妃候補

しろねこ。
恋愛
婚約者のいる王太子に恋をしてしまった。 遠くから見つめるだけ――それだけで良かったのに。 王太子の従者から渡されたのは、彼とのやり取りを行うための通信石。 「エリック様があなたとの意見交換をしたいそうです。誤解なさらずに、これは成績上位者だけと渡されるものです。ですがこの事は内密に……」 話す内容は他国の情勢や文化についてなど勉強についてだ。 話せるだけで十分幸せだった。 それなのに、いつの間にか王太子妃候補に上がってる。 あれ? わたくしが王太子妃候補? 婚約者は? こちらで書かれているキャラは他作品でも出ています(*´ω`*) アナザーワールド的に見てもらえれば嬉しいです。 短編です、ハピエンです(強調) 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿してます。

呪いを受けて醜くなっても、婚約者は変わらず愛してくれました

しろねこ。
恋愛
婚約者が倒れた。 そんな連絡を受け、ティタンは急いで彼女の元へと向かう。 そこで見たのはあれほどまでに美しかった彼女の変わり果てた姿だ。 全身包帯で覆われ、顔も見えない。 所々見える皮膚は赤や黒といった色をしている。 「なぜこのようなことに…」 愛する人のこのような姿にティタンはただただ悲しむばかりだ。 同名キャラで複数の話を書いています。 作品により立場や地位、性格が多少変わっていますので、アナザーワールド的に読んで頂ければありがたいです。 この作品は少し古く、設定がまだ凝り固まって無い頃のものです。 皆ちょっと性格違いますが、これもこれでいいかなと載せてみます。 短めの話なのですが、重めな愛です。 お楽しみいただければと思います。 小説家になろうさん、カクヨムさんでもアップしてます!

[完結]幻の伯爵令嬢~運命を超えた愛~

桃源 華
恋愛
異世界アレグリア王国の 美しき伯爵令嬢、 リリス・フォン・アルバレストは 男装麗人として名高く、 美貌と剣術で人々を 魅了していました。 王国を脅かす陰謀が迫る中、 リリスは異世界から 召喚された剣士、 アレクシス・ローレンスと 出会い、共に戦うことになります。 彼らは試練を乗り越え、 新たな仲間と共に 強大な敵に立ち向かいます。 リリスとアレクシスの絆は 揺るぎないものとなります。 力強い女性主人公と ロマンティックな愛の物語を お楽しみください。

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

義姉でも妻になれますか? 第一王子の婚約者として育てられたのに、候補から外されました

甘い秋空
恋愛
第一王子の婚約者として育てられ、同級生の第二王子のお義姉様だったのに、候補から外されました! え? 私、今度は第二王子の義妹ちゃんになったのですか! ひと風呂浴びてスッキリしたら…… (全4巻で完結します。サービスショットがあるため、R15にさせていただきました。)

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

処理中です...