上 下
15 / 36

二刀流令嬢・ラファエルとの話にワクワクする・1

しおりを挟む
 疲れて空腹の皆が、楽しそうに茶会を始めた。

「あぁ腹が減った! 俺の大好きな串焼き! 美味そうだ!」

 そういうラファエルの前の皿には、ぐちゃぐちゃになった紫リンゴと豚肉の串焼きが盛られていた。
 彼はどんな御馳走よりも前に、ルークからのプレゼントを一番に食べたのだ。

「うん! 美味いぞ! ルーク、ありがとうな」

「ラファエル……ごめんね……俺がパーティーをぶち壊して……ごめんなさい」

 下を向くルークの頭を、くしゃっと撫でてまた串焼きを頬張る。

「ぶち壊されてなんかいるものか、パーティーなんて明日すればいいんだ。悪いのは罠を張った野盗だ。今回のことで更に俺は家族に恵まれている幸せ者だとわかったさ。でもなルーク、お前もお前を必死に探してくれた人達に、精一杯感謝してしっかり御礼をするんだぞ」

「うん……うん!」

 しばらく涙を拭って笑っていたが、ルークはすぐにうつらうつらし始めて隣に座ったヴァレンティーナにもたれかかる。
 メイドのドナとニナも母親ではなさそうだった。

「ルークの御両親は……」

「赤ん坊の頃、この屋敷の玄関に……母親の手紙と共にルークは屋敷にやってきた。みんなの可愛い子供で、俺の弟でもある」

 ラファエルが自分の着ていたカーディガンを、ルークにかけた。
 
「そうか。彼が皆に愛されているのが、よくわかる」

 ルークの寝顔は、穏やかで安心しきっている。
 この村で、ラファエルの家は母親が最後に託した場所だった。
 そしてこの男の子は、健やかに育っている。
 アリスを見つけた時の事を、ヴァレンティーナは思い出した。

 アリスを助けたいと願ったのは自分自身だが、人を一人背負うのは並大抵のことではない。
 あの時の母と、屋敷の大人達の愛。
 そしてこの屋敷のラファエルと皆の愛を重ね合わせ、ヴァレンティーナは心が熱くなるのを感じた。

 ルークは腕っぷしのいい男が、微笑みながら担ぎ上げて運んでいった。

「今日は本当にありがとうな。何度御礼を言っても足りないよ」

 二人の視線が交わる。
 氷のようだと言われる蒼い瞳と、煌めく琥珀の瞳。 

「こちらこそ、二人で山越えをしていたら遭難していたかもしれない……助けて頂いたのはこちらの方だ」

「あそこの山は、低そうに見えるが二段階で高さが出る山でなかなか越えるのに時間がかかる。それに今回の嵐はまるで想定外だ。今夜から大荒れになるとはな……最悪な偶然が重なってしまったけど、結果よかった。今日明日……いたいだけ、ゆっくり屋敷で過ごしてくれ」

「嵐がおさまるまで~お願いします~!」

 アリスが美味しそうに、ハムのサラダを頬張りながら言う。

「アリス」

「あはは! あぁ、もちろんだ! アリス、長居してってくれ! ヴァレン、酒ならウイスキーもあるし珍しいコメから作った酒もあるぞ。飲めよ」

「いえ、私は次は紅茶をいただきます」

「酒は苦手か? それともやはり、ヴァレン。お前は剣を志す者なんだろう……?」

 ラファエルは嬉しそうに微笑み、ヴァレンティーナは少し身構える。

「……何故、そうだと?」

「風呂上がりの夜中の茶会でも帯剣しているし、この部屋に入った時に、広さを確認する目が剣士のそれだ。それに何よりあの野盗は剣が立つことで恐れられている奴らだ。それをたった二人で返り討ちにするとは……かなりの強者つわものだ」
 
 野盗成敗の話はいいとして、帯剣や部屋に入るなり剣を振るえるかの確認を知られてしまったとヴァレンティーナは内心焦る。
 アリスは当然のように剣を置いてきていた。
 焦るというよりは、恥ずかしさで頬が熱くなりそうだった。

「し、失礼をした。長年のクセで……つい」

「何故だ? 俺は嬉しいんだ。久々に剣士に出逢えたからな」

「えっ……」

「俺も剣を志す者ってわけだ」

 そう言ったラファエルは、ソファに立てかけた自分の剣を撫でる。

「ラファエル、やはり君もか!」

「あぁ。明日は手合わせ願いたい!」

「て、手合わせ……?」

 ヴァレンティーナの瞳が、キラキラと輝く。
 まるで少女が、薔薇の花束を受け取った時のようだった。

 屋敷ではもうアリスが、ヴァレンティーナが手加減をして手加減をして手合わせできる程度。
 令嬢である身のヴァレンティーナと、本気の手合わせをする剣士など誰もいなかった。

「ヴァレン? ……気を悪くしたか……?」

「えっ!! いや、いや……是非願いたい!!」

 嬉しさで一瞬止まったヴァレンティーナを見て、ラファエルは困らせたと思ったようだ。

「ほ、本気で頼むぞ!」

「もちろんだ」

「そうか! そうか……! あぁ楽しみだな!」

 子供のように笑ってしまいそうなのを、ヴァレンティーナはなんとか誤魔化す。
 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

リアンの白い雪

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。 いつもの日常の、些細な出来事。 仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。 だがその後、二人の関係は一変してしまう。 辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。 記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。 二人の未来は? ※全15話 ※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。 (全話投稿完了後、開ける予定です) ※1/29 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

大嫌いな令嬢

緑谷めい
恋愛
 ボージェ侯爵家令嬢アンヌはアシャール侯爵家令嬢オレリアが大嫌いである。ほとんど「憎んでいる」と言っていい程に。  同家格の侯爵家に、たまたま同じ年、同じ性別で産まれたアンヌとオレリア。アンヌには5歳年上の兄がいてオレリアには1つ下の弟がいる、という点は少し違うが、ともに実家を継ぐ男兄弟がいて、自らは将来他家に嫁ぐ立場である、という事は同じだ。その為、幼い頃から何かにつけて、二人の令嬢は周囲から比較をされ続けて来た。  アンヌはうんざりしていた。  アンヌは可愛らしい容姿している。だが、オレリアは幼い頃から「可愛い」では表現しきれぬ、特別な美しさに恵まれた令嬢だった。そして、成長するにつれ、ますますその美貌に磨きがかかっている。  そんな二人は今年13歳になり、ともに王立貴族学園に入学した。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

処理中です...