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二刀流令嬢・ラファエルと出逢う・3
しおりを挟むやっと麓に着いて、自警団に報告。
ルークの捜索は終わり、山奥の野盗を捕まえに団員が出発した。
するとラファエルが自分の馬とルークが連れてきた馬を、自警団の屋根付きの馬駐めに置いて、ヴァレンティーナの元に駆け寄った。
「水も滴るいい男だが、寒かっただろう。俺が馬車の運転を代わるよ。幌の中で少しでも温まった方がいい」
「え、いやしかし」
「わぁ、ありがとうございますー! そうですよ、ヴァレン様。もう身体を壊してしまいます。何度も交代しようと言っているのに……」
幌からアリスが言う。
「男というのは、そういうものだ。大事な女には苦労はさせたくないものだよ、なぁ? ヴァレン」
「ん……あ、あぁ」
「でも、寝込んでしまったら元も子もない。大事な女を泣かせないのも、いい男の務めだ」
「ふふっ……君は言葉が上手いな。……ありがとう。寒くなってきたところだ、じゃあ頼む」
「あぁ。さぁアリスと一緒に暖まれ」
アリスとヴァレンティーナを恋人同士だと思っているようだ。
席を代わると、オレンジの香りがする。
この男の香水?
なんだか懐かしいような感情がこみ上げたが、幌へ移ると香りは消えた。
ルークはすっかり熟睡している。
「ヴァレン様……ヴァレンティーナ様。濡れた服は全部脱いだ方がいいですよ」
「わかっているが……」
「私が必ずお隠ししますから、お早く!」
「わかった……」
こんなところで恥じるわけにはいかないが、ヴァレンティーナとて令嬢だ。
まさか揺れた馬車の中で……外で、男の後ろで、着替える事になるとは。
「着替えたら休んでろよ~~」
馬車を操りながら、ラファエルが言うのが聞こえた。
「君も寒いだろう」
「俺は防寒着ばっちり着込んでるから。汗の蒸れは逃す最新高級品だ。心配ありがとな。俺の家はもう少し先なんだ」
小さな麓村は通り越す。
思った以上に雨が酷い。
旅の始まりに、とんだ災難だ。
しかし、数日でかなり遠くまで来たとは思う。
着替えを済ませて、アリスが毛布と一緒に抱きついてきた。
「はぁ~ヴァレンティーナ様~こんなに冷えて……」
「大丈夫だよ」
冷えた身体が徐々に温まってきた。
アリスもうつらうつらとヴァレンティーナの肩で眠りだした頃、ようやく馬車が止まる。
雨風が更に強くなっている。
だが、ワイワイと明かりを持った人達が馬車に集まってくるのが見えた。
ヴァレンティーナは御者台のラファエルの元へ行く。
「着いたのか」
「あぁ。着いたぞ。ルークもお嬢さんも寝てるか……もう少し中にいてくれ」
ラファエルは御者台から降りて駆け寄ってきた人達の前に降り立つ。
「ラファエル様! ルークは!?」
「無事だ! 後ろに乗っている! 俺のためにプレゼントを用意しようとしてやった事だ! 誰もルークを叱らないでくれ!」
メイドの格好をした中年女性二人が、倒れ込みそうになる身体を抱きしめ合う。
「この嵐だ、もう探しに行ってる者はいないな!? もう外は危険だ。皆、屋内に入ろう」
確かに風も強くなっている。
雨は更に激しい。
「ラファエル様、この馬車は……!?」
更に厳ついヒゲを生やした中年男が、ラファエルに問う。
嵐の音がひどく、皆が大声で話す。
「これはルークを助けてくれた二人の馬車だ。御礼をするためにも俺が連れてきた! 夜中で悪いが、客人の用意をしてくれ!」
「皆! ラファエル様の話はわかったな!」
「「「はい!」」」
駆けつけた者全員が、よく通る声で返事をした。
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