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二刀流令嬢・颯爽と家を出る
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勘当されたヴァレンティーナは、一度部屋へ戻り身支度を整える。
祖父の形見のシャツの上にジャケット、マント。
手袋を嵌め、帽子を被る。
全て男物だ。
トランクには過去に剣術大会での賞金で買った男物のシャツとズボンの着替え。
自分で貯めた少しの金貨。
母の肖像画が入った懐中時計。
そして我が魂の二本の剣。
荷物をまとめて屋敷を出る……が。
「アリスに、みんな……」
とっくに旅支度を済ませたアリスと、寂しそうだが笑顔の使用人達。
ヴァレンティーナの前には一台の幌馬車が用意されていた。
「これは……」
「私達使用人からの贈り物でございます。この屋敷の財産とは無関係です」
一番安い幌馬車でも馬付きでは、かなりの高額だろう。
ヴァレンティーナも、この時ばかりは涙腺が緩む。
「皆を置いて家を出る私に……こんな」
「ヴァレンティーナ様は、私どもにとって輝く星でした」
「そうです! いつも私達に優しくしてくださった!」
「ヴァレンティーナ様! バンザイ!」
横暴な父と妹に、使用人達も我慢の限界だった。
「みんな、ありがとう。皆と共に過ごせた事だけで、この家に生まれて良かったと思える」
ヴァレンティーナの苦悩を知っている、使用人達皆が涙を滲ませた。
「ヴァレンティーナ様、剣術をやめないでくださいね!」
ヴァレンティーナから剣を教わっていた、庭師の若い男が言う。
「当然だ。君もマルテーナ剣術の後継者として、皆を守るために精進してほしい」
「はい!」
それからは、使用人一人一人がヴァレンティーナに対して別れの言葉と共に選別を色々と渡してくれた。
お金を渡してくる者もいて、遠慮したがどうしてもと言われて受け取った。
小さな可愛い娘は、ヴァレンティーナの頬にキスをして似顔絵を渡した。
ヴァレンティーナは屋敷の使用人みんなに愛されていた。
屋敷の窓から父と妹が、怒鳴っているが誰も相手にしない。
「それで……アリスは」
「御一緒致しますよ~もちろん!」
アリスも旅支度をして、メイド服ではないワンピースにマントを羽織っている。
そして腰には二刀流。
彼女もまた、マルテーナ剣術の使い手だ。
「どんな旅になるかも、わからないんだよ」
「お嬢様はなんでも、自分でお出来になるけれど稽古は一人じゃできませんでしょ?」
アリスも、手にいっぱい餞別を持っている。
幼い頃から一緒だ。
何を言っても考えを変えないのもわかってる。
ヴァレンティーナは、ふーっと息を吐いたがその顔は微笑んでいる。
「そうだな。今後もよろしく頼むよ。……では行くか」
「はぁーい!」
馬車の御者台に、ヴァレンティーナは先に上がってアリスに手を差し出した。
この男前っぷりが、メイド達の心を鷲掴みにしているのだ。
「ヴァレンティーナ様! お戻りになる時は是非我が家に泊まってください!」
「いつでも帰ってきてください! 家くらいみんなで作りましょう!」
「ヴァレンティーナ様ーーー!! ずっとお慕いしてました!!」
「みんな、ありがとう」
そう言って、二刀流令嬢ヴァレンティーナは勘当された家を離れ旅をすることになったのだ。
祖父の形見のシャツの上にジャケット、マント。
手袋を嵌め、帽子を被る。
全て男物だ。
トランクには過去に剣術大会での賞金で買った男物のシャツとズボンの着替え。
自分で貯めた少しの金貨。
母の肖像画が入った懐中時計。
そして我が魂の二本の剣。
荷物をまとめて屋敷を出る……が。
「アリスに、みんな……」
とっくに旅支度を済ませたアリスと、寂しそうだが笑顔の使用人達。
ヴァレンティーナの前には一台の幌馬車が用意されていた。
「これは……」
「私達使用人からの贈り物でございます。この屋敷の財産とは無関係です」
一番安い幌馬車でも馬付きでは、かなりの高額だろう。
ヴァレンティーナも、この時ばかりは涙腺が緩む。
「皆を置いて家を出る私に……こんな」
「ヴァレンティーナ様は、私どもにとって輝く星でした」
「そうです! いつも私達に優しくしてくださった!」
「ヴァレンティーナ様! バンザイ!」
横暴な父と妹に、使用人達も我慢の限界だった。
「みんな、ありがとう。皆と共に過ごせた事だけで、この家に生まれて良かったと思える」
ヴァレンティーナの苦悩を知っている、使用人達皆が涙を滲ませた。
「ヴァレンティーナ様、剣術をやめないでくださいね!」
ヴァレンティーナから剣を教わっていた、庭師の若い男が言う。
「当然だ。君もマルテーナ剣術の後継者として、皆を守るために精進してほしい」
「はい!」
それからは、使用人一人一人がヴァレンティーナに対して別れの言葉と共に選別を色々と渡してくれた。
お金を渡してくる者もいて、遠慮したがどうしてもと言われて受け取った。
小さな可愛い娘は、ヴァレンティーナの頬にキスをして似顔絵を渡した。
ヴァレンティーナは屋敷の使用人みんなに愛されていた。
屋敷の窓から父と妹が、怒鳴っているが誰も相手にしない。
「それで……アリスは」
「御一緒致しますよ~もちろん!」
アリスも旅支度をして、メイド服ではないワンピースにマントを羽織っている。
そして腰には二刀流。
彼女もまた、マルテーナ剣術の使い手だ。
「どんな旅になるかも、わからないんだよ」
「お嬢様はなんでも、自分でお出来になるけれど稽古は一人じゃできませんでしょ?」
アリスも、手にいっぱい餞別を持っている。
幼い頃から一緒だ。
何を言っても考えを変えないのもわかってる。
ヴァレンティーナは、ふーっと息を吐いたがその顔は微笑んでいる。
「そうだな。今後もよろしく頼むよ。……では行くか」
「はぁーい!」
馬車の御者台に、ヴァレンティーナは先に上がってアリスに手を差し出した。
この男前っぷりが、メイド達の心を鷲掴みにしているのだ。
「ヴァレンティーナ様! お戻りになる時は是非我が家に泊まってください!」
「いつでも帰ってきてください! 家くらいみんなで作りましょう!」
「ヴァレンティーナ様ーーー!! ずっとお慕いしてました!!」
「みんな、ありがとう」
そう言って、二刀流令嬢ヴァレンティーナは勘当された家を離れ旅をすることになったのだ。
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