男装の二刀流令嬢・ヴァレンティーナ!~婚約破棄されても明日を強く生き!そして愛を知る~

兎森りんこ

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婚約破棄された二刀流令嬢・2

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「お二人は、とてもお似合いです。それでは婚約破棄された私は、この場を去りましょう」

 人殺し扱いされたヴァレンティーナだが、にっこりと微笑み礼をする。
 淑女の挨拶ではない。
 騎士のような礼だった。
 そして彼女が顔をあげた時。

「しかし、我がマルテーナ剣術を罵倒する事は……許しませんよ」

 静かで低く……冷たい声。
 そして瞳に宿る、殺気。
 面白がっていた貴族達も、一瞬止まって静寂した――。

「ひぃ……っ」

 白豚息子はドラゴンに睨まれたかのように、ひっくり返った。
 婚約破棄ショーから殺人ショーに!?
 ヴァレンティーナなら、テーブルにあるフォークやナイフでもそれが可能だ――と彼女の実力を知っている男達が息を呑んだ。
 金髪娘も青ざめる。

 静寂――と緊張。

「はいはい~お嬢様、お帰りですね~?」

 その空気を飛ばすような明るい声がした。
 白豚の怯えた顔を見て、アリスはあらあらと目を丸くする。わざとである。

「あらまぁ~! 弱いものいじめはダメですよ? お嬢様」

「アリス」

 アリスと呼ばれた赤色髪ツインテールの娘は、メイド服を着ていた。
 そしてヴァレンティーナの灰色に赤い刺繍の入ったマントと、二刀の剣を持っている。
 マルテーナ剣術は、レイピアと短剣を使うのだ。

 ヴァレンティーナはその二つの剣を受け取った。

「ひぃーーーー!!」

 この状況で剣を渡すなぁ! と白豚息子が更に悲鳴をあげて涙を流す。
 金髪娘もぺたりと座り込んだ。

「皆様、楽しいパーティーの邪魔をして申し訳ありません。我が流派『マルテーナ剣術』は曾祖母が編み出した二刀流剣術です。歴史はまだ浅い……ですが人を守る素晴らしい剣術です。誤解されませんように」

 ヴァレンティーナがベルトを巻いて、二刀を腰に差しマントを羽織る。
 彼女がロングドレスの裾のリボンを外すと、両側のスリットからパンプスではなくブーツ姿の足元が見えた。
 
「行くよ、アリス」

「はぁい!」

 最後にギロッと白豚息子を睨むと、白豚息子は恐怖で失禁したようだった。
 その様子に、金髪娘がドン引きしているのも見てとれる。

 ヴァレンティーナが颯爽とマントとブーツで闊歩して退場する姿は、貴婦人達が見とれるほどの勇ましさだったという。
 今日のパーティーに出席した貴族達は最高のショーが見られたと、各地での語りべになるだろう。

 しかし馬車の中でヴァレンティーナはまた溜息をつく。

「問題は山積みだ」

「そうですねぇ」

「父上に激怒されるな」

「でしょうねぇ」

「はは、そうだよなぁ」

 姉妹のように育ったメイドのアリスは、誤魔化しもフォローもしないのでヴァレンティーナは笑ってしまった。
 しかしヴァレンティーナの心も、少し肌寒く心地よい風のようにスッキリしたように感じる。

 何があっても強く生きる女、ヴァレンティーナの物語が始まった――。
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