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火曜日・二人の未来その3
しおりを挟むそして美味しい夕飯はデザートの時間へ……。
「えへへ、デザートは季節フルーツのタルト~シャインマスカットでーす」
「わあー! 贅沢!! 美味しそうね!」
「でしょ~! 利佳子への気持ちいっぱい込めたから」
「もう……ありがとう」
白ワインにもぴったりのデザート。
ミニタルトを切り分けて、渡されたと思うとキスされる。
ちゅっと……軽いキスなのに、ドキリとする。
「ソファで食べる?」
「えぇ……そうね」
映画を見たソファのローテーブルへ、タルトとワインを運んだ。
「りゅうは……どうして、1人暮らしなんてわざわざしているの?」
「え~? ん~っとね」
美味しい美味しいとタルトを食べながら、ふいに利佳子は隆太朗に聞いた。
隆太朗の実家は、此処からもそこまで遠くない。
通勤圏内と言える。
隆太朗がワインを飲みながら考える。
「う~ん。少しでも大人になりたいから」
「……それが理由?」
「お、おかしいかな……自立したかったし」
「いいえ。立派だなと思って」
「こうやって彼女も家に呼べるし」
へへっと隆太朗が笑う。
可愛い笑顔。
キラキラ眩しくて、輝いてて……眩しすぎる。
だからダメ……。
こんなの続けてちゃいけない。
未来のある若者なんだから……。
「ごちそうさまでした……貴方のケーキは本当に美味しい……。立派なパティシエになってね……食器洗うわね」
「えっ……うん……立派にはなりたいけどさ。片付けなんかいいよ。時間がもったいないもん」
立ち上がろうとした利佳子の手を掴んで、また座らせた。
「今日もホラー映画を見る?」
「ホラーは今日は勘弁して! これ見ようかなって思って」
隆太朗がローテーブルの引き出しから、タブレットを取り出した。
「なに?」
「写真、えへ」
アルバムのアイコンに触れると写真の一覧が出てきた。
「あー懐かしいわね……」
「引いたりしない?」
「え? あ……そういうことね」
「うん。利佳子との写真」
「一緒に撮ったものだもの。引いたりしないわ」
利佳子の家のリビング。
高校の制服姿の隆太朗と、利紀と、利佳子が3人で写っている。
「これが初めて会った時の写真なんだよね~土曜日の特別行事の後でさ」
「あーそうね。初めて家にあそびに来たんだわ。何も用意もなくって慌てたのよ」
「そうなんだよね~ごめんね、非常識で」
「そんな事ないわ。あなたはずっと遠慮してた」
利紀がノリで無理矢理連れてきて『姉ちゃん! こいつ親友の隆太朗!』と言ったのを覚えている。
両親を早くに亡くして姉が育てている環境で、少し変わった面もある弟。
思春期以降に友達を家に連れてきたのが初めてで利佳子は、感激……というか感動すらしたのだ。
「利紀がお友達連れてきたーって利佳子がたこパしてくれたんだよね。用意してないのに! って言いながら」
「そうだったわね~懐かしい」
「俺、カップ麺でも買ってくるかって言ったら……たこ焼きパーティーが始まってすごくびっくりしたし感激したし」
「寄せ集めだったはずよ」
「そんなことない、すごいな~って感動したよ」
思い出しながらクスクス笑ってしまう。
冷凍のタコやウインナーで作った、有り合わせのたこ焼きだったのに……。
「トシのお姉さん……すごい美人さんで優しくって一目惚れしちゃったんだ」
「えぅ」
変な声が出た。
隆太朗は微笑む。
「優しいのもキッカケだから、一目惚れじゃないかな? あはは。 でもその日に俺は……恋しちゃったんだよ」
ドキドキする気持ちを隠すように、利佳子はワインを飲む。
隆太朗はそのまま次の写真へ進む。
「これ、夏休み。利紀が好きだった先輩に彼氏ができてヤケ焼き肉の時」
「あーあはは」
弟も失恋するようになったんだ、と思ったものだ。
一生懸命に利紀を励まそうとしていた隆太朗を思い出す。
「この時に、利佳子が俺に『好きな子いないの?』なんて無邪気に聞いてくるからさ」
「えっ……言ったかしら」
「告白しそうになったけど、高一で告っても絶対フラれるなって堪えた」
「……そんな……」
確かにそれはそうだけど、つまり高校三年間ずっと隆太朗は自分のことを?
「これ庭で花火やった日、利佳子がスイカとか焼き鳥とか用意してくれて」
「あったね……」
「利佳子はビール飲んでて、ちょっと赤くなって可愛かった」
「な、なに言って」
「あ~これはトシには見せられないけどトシの初代彼女と、おでんパーティーやった時」
家の炬燵での写真。
利佳子は遠慮したのだが、隆太朗に入ってと言われて四人で撮った写真だ。
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