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月曜日・うわさのイケメンくん・その1
しおりを挟む少し寒いが、清々しい朝。
だけど、心は少し複雑で重い。
隆太朗は朝が早いので、利佳子に気遣ってメールは来ない。
叔母さんにも断りのメールをしたのだが、利佳子の性格を知っている叔母だ。
『急がなくていいのよ~またお互いの都合を合わせてゆっくりね☆』なんていう返信が届いた。
写真を見ただけでお断り……それでは当然、叔母さんも引かないのも当然だ。
叔母さんのグイグイくる善意には随分助けられたのもある。
断る理由……。
断る理由……隆太朗。
いつの間にか、隆太朗の事を考えていた。
一週間のお試し恋愛。
それだけだったはずなのに……。
いや、何も変わらない。
はずなのに……なんて思うような状況にはなっていない。
利佳子ブレインは冷静で、いつでも最善の道を選ぶ。
「課長~今日、大丈夫ですかぁ~?」
「えっ? えぇ、大丈夫」
お昼休み。
今日も何故か、みんなに囲まれての昼食の最中。
珍しく、ぼんやりとしてしまっていた。
新人さんにまで気遣われてしまう。
A定食のサバ味噌を口に運ぶ。
「そういえば~土曜日のテレビに出てたお菓子屋さんに、すっごいイケメン出てて日曜日に見に行っちゃったんですよー」
前に座っている女性二人が話し始める。
店の名前も一致、つまりイケメンというは隆太朗の事だ。
事務員さんと新人さんは、一瞬止まって話を聞いている。
「あ~私も見ましたよぉ~~あの男の人……」
新人さんが話し始めてギクッとする。
まさか『課長の~彼氏さんですよ~』なんて!?
「私も見たけど……課長! このサバ味噌すっごく美味しいですよね!」
新人さんの口を止めようと、事務員さんが大声を出した。
「そ、そうね。とってもコクがあって美味しいわよね」
その横で新人さんが、ちょっと膨れてる。
「私だって、そこまで気遣いなくなくないですよ~……」
新人さんが拗ねるように小声で言った。
事務員さんと新人さんのやり取りに、全く気付かず周囲の女子社員の流行のお菓子屋とそこのイケメンの話は続く。
「私、あの人見たくて日曜日に店に行っちゃったんですよね~」
ギクッとしてしまう。
キャッキャしている社員さん二人は、新人さんよりは年上だがまだまだ若く可愛い。
愛想もあって仕事もできる。
素敵な子達だと思う。
「リアルでは、どうだったんですか?」
「かっこよかった~どうやったら知り合いになれるんだろ? とか考えてお兄さんの切ってたフルーツのケーキ買って帰りましたよ~あぁ~身近に推しができちゃった!」
「いーですねー! 私も会社帰りに行ってみよっかな!」
彼女達の話を、利佳子はニコニコを聞いていた。
別に悪気があるわけでもない。
隆太朗は、そう素敵な男の子なのだ。
イケメンで優しい雰囲気、仕事に対する真剣さ。
悪印象をもつ人はいない――むしろこうやって好印象をもたれる存在。
かたや自分は、仕事に必死で『愛想がない』『怖い』と影で言われ続けてきた。
可愛いワンコの天使みたいな男の子と、堅物恐怖上司な女。
更に年の差……。
ずーんと利佳子の心は重くなる。
そして、ふと気付く。
終わらせるのに、どうして……?
ずっとこの繰り返し。
利佳子ブレイン働け。
利佳子ブレイン働け。
どんな酷い事を言われて別れた次の日だって、瞼を腫らさずにやってきた女だ。
「課長、今度行ったら見てみてくださいね~イケメンパティシエ!」
「えぇ、わかったわ」
笑顔で話し終え、ランチの片付けが始まって皆がいなくなる。
新人さんと事務員さんに挟まれた。
「課長~~ダイジョブですよ~課長が恋人なんだから自信もってくださいよ」
「えっ……あの私は」
「そうですよ。しっかりカレシさん捕まえてくださいよ! 私達応援してますから」
「ち、ち」
『違うの。明日の夜にはお別れなのよ』とは言えなかった。
言う時間がなかった。
だけじゃなく、なんだか胸が痛んで言えなかった。
「最初はめっちゃびっくりしたけど~、お似合いだなって私は思ったんですよネ~」
「あんたは~ホント、一言多いのよ。素敵でしたよ。彼氏さんと課長」
「あは……ありがとうね」
曖昧に笑うしかなかった。
また残業を終えて、家へ帰る。
今後、利紀の恋人を家に招く用意もしなければ……と思う。
でも本来なら彼女の家へ利紀が挨拶に行くのが先?
いや、そんな事は二人でしっかりと話し合っているはずだ。
これ以上は弟の方が経験者になっていくんだろうなと思う。
「……はぁ~俺の屍を越えていけ……だわね」
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