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日曜日・叔母さんからの、まさかの提案・その2

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「うわ、イケメンじゃん」

「ぎゃ!! 利紀!!」

 後ろから覗き込まれて、利佳子は悲鳴をあげた。

「そんなびっくりしなくても……なんとなく話わかったけどさ」
 
「もう、盗み聞きなんて、やめてよ!」

「別に普通に後ろで聞いてたっつーの。もっかい見せてくれよ。この人が義理の兄貴になるかもしれないんだから」

 パッとスマホを奪われる。

「コラ! 何言ってるの! 別に会うなんて言ってないわよ」

「頭良さそうだし、落ち着いてる~~! ふーん、リュウよりいんじゃないの?」

「そんな事ないわよ」

「へぇ?」

 利紀がニヤッと笑った。
 あ、これはしてやられた……と利佳子は思う。

「そ、そういう意味じゃなくて……なんでもないわよ」

「じゃあ、やっぱこっちの男にするの? あ、おばさんから追加情報。大手企業の管理職!?」
 
「す、すごいわね……」
 
「それに比べて……リュウはまだ見習いだしな……」

 昨日の店での女の子達の話を思い出す。

「給料も安いって言ってたし……結婚して、子供ができた時の事を考えたらな……あ、いやなんでもない。でも姉ちゃんだって、結婚はしたいとか思うよね?」

 結婚……?
 子供……?
 一瞬、彼にそっくりのふわふわ笑顔の可愛い子どもが脳裏を横切る。
 慌てて消した。

 ……今のは……。

「バカね! そんな未来考えた事ないわ! 結婚? するわけがないでしょ」

 バカね! と弟に言ったんじゃない。
 自分に言った。
 利佳子ブレインがおかしい。
 利佳子ブレインがバカになっている。

「え!? 結婚する気ないって!?」

「そーよ! これからも私は、独身お局! それしか考えてない。隆太朗君も、このイケメンさんも悪いけどお断りよ。あんたが出てったら、猫ちゃんでも飼おうかしら~って考えてたの」

 一人暮らしになったら、猫を飼う事はずっと考えていた。
 ここ数日、考える時間がなかっただけ。

「あ~……えっと……急いだ事を言って悪かったって。最近、彼女とそういう話ちょっとしててさ」

「もちろん利紀は間違っていないわ。転勤族になるのなら、しっかり彼女と話し合っておいたらいいと思う」

「うん……でもさ、俺も安月給だけど……彼女はとりあえず結婚してくれるって言ってくれたから」

「結婚……あんたが……?」 

「そう、俺さー卒業、就職と同時に結婚するよ」
 
「そう……そうなの……良かったじゃない……そう、そうなのね……」

「うん」

 唐突な弟の結婚報告。
 破天荒な弟なので、こんな時に! とは思わない。
 むしろ、こうやって話したい時に気持ちを言う弟だから、口下手な自分とうまくやってこれたと思っている。

「だからさ、姉ちゃんにも世界で一番幸せになってほしいんだよ」

「え? 私? なに言ってるの~心配しなくても大丈夫よ。世界で一番幸せは、あなた達がなりなさい」
 
「だからさ、姉ちゃんも……」

 利紀は、歯がゆさそうな顔をする。

「ちゃんと、あんたの結婚費用も準備してあるから」

「はぁ? そんな事言ってないって! このイケメン兄貴でもいいと思うよ。会ってリュウと比べてみてもいいんじゃないの? 俺はリュウの親友でもあるけど、姉ちゃんの弟なんだから幸せになってほしいんだって!」

「だから、今で十分に幸せだから」

 可愛い小さな弟が、此処まで大きくなった。
 私が育てた。
 立派に育てた。
 そして結婚して、この家を巣立っていく。
 ジワジワと込み上げる喜び。

 この満足感と幸せだけでいいじゃないか、と利佳子は思う。

 だって、きっといつか飽きられて捨てられてしまう。
 今までだって、そうだった。
 あんな若い男の子、これから若い女の子と出逢って、利紀のように若い二人で結婚する。
 弟の親友と気まずくなるわけにはいかない。

 自分には、利紀の結婚を見守る使命がある。
 
「一週間でお別れするのに、何をどうするのよ? さ、うどん食べよ」

「姉ちゃん、でもさ……」

「今更、男とあーだのこーだの~? できるわけないでしょ。うどん食べましょ!」

 そう、一週間でお別れするのに、何をどうするの?
 利佳子ブレイン再始動。
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