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土曜日・はたらく隆太朗・その2
しおりを挟む「……私、どうして店に来ちゃったんだろ……そう、有意義な予定が何もなかったからよ」
利佳子は隆太朗が切っていたフルーツのケーキを買って帰った。
客はどんどん増えてきているように見えた。
夕飯はケーキだけにした。
人気店だけのことはある、厳選した素材にプロの技。
スポンジ、クリーム、そしてフルーツが引き立てあっている。
「すごく美味しい……」
ここに隆太朗の切ったフルーツが使われているのが感慨深い……と最後まで味わった。
夕方の地域ニュースで、隆太朗の店が注目スポット! で紹介されていた。
明日にはもっと混むだろう。
今日は無理だろうなと思いつつ、なんとなく隆太朗の家の近くのコンビニに車で来てしまう利佳子。
店からきっとこの道を通るはずだ。
深夜12時を過ぎてから、隆太朗からメールがきた。
『まだ起きているかな? 遅くなってしまってごめんなさい、今から家に行っていいですか? 少しでも顔見たくて……』
「あ!! そっかいつも直接……来ていたのよね! 私、バカだわ」
慌てて電話を掛ける。
『利佳子、ごめんね。起こしちゃったかな?』
「あ、あの今りゅうの家の近くなの! ごめんね!」
『え?』
「あ、えーっとコンビニに用があって……来ちゃったの」
『えっ!? そうなんだ!! わぁ! じゃあすぐにそっち行くね! ヘブンだよね!?』
「そ、そうよ」
利佳子の家の近くにコンビニがあるのでバレバレだ。
でも、きっと家に来たら彼の負担が増える。
それを回避しただけのこと。
「利佳子ーー!」
人気のないコンビニの駐車場のすみっこ。
車中で待っていた利佳子に、隆太朗が声をかけた。
「ごめんね。自転車だって知ってたのに、頭がまわらなくて」
利佳子ブレインの能力が低下しすぎでは? と不安になってしまう。
「いやいや! 嬉しいよ。少し乗っていい?」
助手席へ乗り込む隆太朗に、コンビニの買い物袋を渡す。
「うん、これお茶とおにぎり……よかったら」
「わ! 嬉しいよ! お腹空いてた! ありがとー! あっエビマヨと昆布!」
「好きだもんね」
「う、うん……! めっちゃ嬉しい! 最高の彼女すぎる……!」
「えっ」
「ありがと~!」
利佳子をぎゅっと抱き締める。
端っこの駐車場だったので、誰にも見られることはないが……。
この真っ直ぐな愛情にいつも戸惑ってしまう。
「来てくれて、ありがとう……ありがとう! すっごい嬉しい」
「ふふふ……私なんかに会えてそんな喜んでくれるの、りゅうくらいよ」
「利佳子は『なんか』じゃないよ。最高の存在。……でも俺だけでいいよ」
「え?」
「こんなに利佳子に会えて喜ぶ男は、世界で俺だけでいいな」
「……え ……」
「だって、俺が世界で一番利佳子が好きだから」
両手で頬を包まれて、宝物に触れるような仕草での優しい口付け。
コンビニの光が瞳に映って、キラキラに輝いて、見えた。
10分だけの時間なのに、その時間が……尊く感じた。
何度もキスをして、その間には利佳子ブレインは作動しなかった。
名残惜しそうに隆太朗が車を出て行ってから……数十分後に利佳子はやっと車を走らせた。
帰り道の道は、すごく暗く感じて……寂しく感じた。
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