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土曜日・はたらく隆太朗・その1
しおりを挟む晴れてはいるが、寒い朝だった。
確実に秋は深まっている。
利佳子は、こっそり隆太朗の働いているケーキ屋さんへ行ってみた。
此処の有名パティスリーは観光客も多い。
駐車場もごった返すのを知っているので、交通機関を使ってやってきた。
客達は、店内のケーキやお菓子に感激の笑顔を見せている。
隣にはカフェもあって、整理券が配られていた。
大盛況だ。
「本当に、すごいわね……」
店内は綺羅びやかだが、この店で働くのも狭き門だと聞く。
隆太朗が受かった時は、盛大にお祝いしたのを思い出す。
「あ……」
厨房がガラス張りになっていて、そこに隆太朗がいた……!
真剣な顔でフルーツを切っている。
いつもの柔らかい表情の彼とは、全くの別人。
「……りゅう……」
思わず呟いてしまった。
まだまだ修行中でも、夢の第一歩を叶えて一生懸命頑張る姿に利佳子は胸を打たれる想いだった。
「ねぇ~あの人、めっちゃかっこよくない!?」
「ホントだね!? あんなイケメンでパテシィエとか最高じゃん」
利佳子と同じようにガラス窓から見ていた若い女性二人が、キャッキャと話していた。
隆太朗の隣には女性が二人。他に男性はいない。
イケメンとは、明らかに隆太朗のことだ。
その時、何か作業の指示を受けた隆太朗が、偶然こっちを見た。
「!」
利佳子も目が合った事に気付いた。
隆太朗は驚きで目を丸くしたが、にこっと笑う。
嬉しそうで照れたような、いつもの笑顔。
そして、すぐ作業に戻る。
胸が疼く。
「あ~ん、あたしの方見て笑ったし! あんなイケメンと付き合いたい!」
「イケメンには、可愛い彼女いるに決まってんじゃん~!! でもパティシエ見習いだったら給料安いと思うんだよね~」
「あ~……それはイヤかも! いくら顔がよくてもね~……それだけじゃね~男は金だよね」
女性二人の勝手な話をつい聞いてしまい、ムカムカと腹が立ってしまった事に気付く。
いやだわ。
何もおかしな事は言ってはいない。
相手の収入も当然に重要な部分である事は理解できる。
それなのに、何故かムカムカしてしまった。
顔がいいだけでは、ない!
彼は……彼は……お金なんかじゃないの……!!
そんな事よりも、もっと……もっと……!!
彼は……?
カタカタと利佳子ブレインが想いを削除し始める。
何を考えているのだろうか。
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