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木曜日・あなたは私に会いに来る。その2

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「よし! 今日も頑張りましょう!」

 制服に着替え、オフィスに一歩出れば仕事用・利佳子ブレインはフル回転!
 今日も先輩社員に恐れられても、後輩社員に怖がられても、仕事は的確!

「今日はもう、帰っていいわ。後は私がやるから。お疲れ様、帰り道気をつけて」

 課長は、真面目で厳しい。
 課長は近寄りがたい……でも本当は優しい人だ。

 帰り際には、皆がそう思うのを利佳子は知らない。

 利佳子も残業を終えて急いで帰宅したが、それよりも隆太朗の帰りは遅かった。
 それでも玄関を開けるとニコニコ顔で立っている。
 自転車で飛ばしてきたのか、頬が赤い。

「わざわざ、来てくれたのね」

「わざわざじゃないよ。今日ちょっと指導が厳しくて凹んだから、利佳子の顔見れて良かった。これお土産」

 透明なケースに入れられた、色とりどりのマカロンを渡された。

「ありがとう……大丈夫? 珈琲でも……飲んでいく? 利紀はいないんだけど……」

 ぴこぴこと尻尾が見えるような嬉しそうな顔になる。

「トシいないの? じゃあ二人っきり!? って喜ぶ俺って酷いね」
 
 あははと笑う素直な言葉に、利佳子も笑ってしまった。

「じゃあ20分くらいお邪魔します。夜遅くにごめんなさい」

 何度も遊びに来ているリビング。
 でもこんな状況はもちろん初めて。

 珈琲を淹れようと台所に立つと、後ろから抱き締められる。

「あっ……」

「ごめん……駄目だった?」

 すごく年下なのに、彼の腕にすっぽり収まってしまう。
 胸がキュンとしてしまう。
 違う、違うと思いながら珈琲を求めていた手は、上下にパタパタ揺れただけ。
 
「だ、駄目……じゃない……のだけれど、私もあまり慣れていない……というか……あの……」

 慣れてる年上ぶろうとしても、どうしてもうまくいかない。
 やはり隆太朗に抱き締められると、利佳子ブレインはブレブレで機能低下してしまう。
 それならば、経験がないと言った方がまだいいだろう……との苦肉の策だ。

「俺だって……全部初めてだよ。……だからめちゃくちゃ嬉しいです……だからいっぱいしたくなる……自制利かなくてごめんね……でもあったかくて嬉しい……」

「……うん……」

 耳元の声がくすぐったい。
 温かい体温が伝わると、心の芯がホッとするような感覚……。
 
「……あのさ、利佳子……」
 
「ん?」

「俺……だから昨日のキスが初めてだったんですけど……」

 隆太朗が話すたびに息が耳元にかかる。

「あ、そ、そう」

 自分なんかは何年ぶり?
 
「下手じゃなかった……?」

「えっ」

「いや、あの……それと……無理やりだったかな……とか」

「だ、大丈夫」

「良かった……」
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