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水曜日のおうちデート・その5「もっとキス」
しおりを挟む下ろしていたのに、わざわざ髪をひっつめた。
口紅も引き直し、キリリ! と隆太朗の前に現れる。
「利佳子さん……利佳子」
完全仕事モードの利佳子に、隆太朗はまた敬語を使いそうになる。
「今日は素敵な夕食へのお招き、ありがとうございました……いえ、ありがとう」
「いえいえ! こちらこそ! 今、タクシー呼んだよ。10分くらいだって……お金は俺が払うからこれ持ってって」
可愛い小さな封筒を渡される。
わざわざ用意したようだった。
「いいのよ。そんな事気にしないでちょうだい。私は、大丈夫だから」
結局、こう可愛くない姿に男は呆れるか母親みたいに依存されるだけ。
でもそれは自分のせいだ……と心が暗くなる。
「利佳子」
隆太朗は、そんな利佳子を包むように抱きしめた。
「俺が来てもらってるから……受け取って」
「でも」
「いいの。言う事聞いて……? 強い利佳子も好きだけど、今は俺の彼女なんだから……」
口ごもってしまう。
こんな反応をされたのは初めてだ。
「遅くまで、ごめんね」
抱擁を解かれ優しく封筒を渡されて、利佳子はそれを自然に受け取ってしまう。
「りゅう……今日、楽しかった……お料理もケーキも美味しくて……嬉しかった……ありがとう……」
隆太朗の優しい想いが伝わってきて……不器用だけど、伝えたくなった。
「利佳子……か、可愛すぎる……」
いつものキリリとした利佳子が、まるであどけない少女のように見えた隆太朗。
抱き寄せられて、また口付けされた。
「んっ……りゅ……」
「可愛い……たまんないよ……んっ」
今度は隆太朗の息が荒くて、切なそうな声。
舌が入ってきたことに、驚きながらも抵抗はできなかった。
「……好き、利佳子……はぁ……」
「んっ」
背中を優しく撫でられ、熱くゾクゾクっと胸に響く。
絡んだ舌は、一緒に飲んだレモンハイの味がした。
まだ残ったレモンタルトのあるテーブル。
二人は抱き締めあって、隆太朗からのキスは続いた。
利佳子は、何も考えられず男の愛情なのか欲情なのかを受け止めた。
その時、スマホが鳴った。
パッと、冷静になったように隆太朗が離れる。
「あっ……タ、タクシーだね」
隆太朗も顔が赤くて、利佳子も顔が赤い。
息も荒くて……お互い興奮した男女の顔をしていた。
お互いの口が唾液で光って……隆太朗の唇に自分の口紅がついているを見て利佳子の胸が疼く。
「じゃあ、ありがとう。行くわね」
「あの、俺……」
「謝らなくていいわ」
「……うん、下まで送るね」
このままだと、隆太朗が土下座でもしそうな雰囲気を感じたので利佳子は何事もなかったようなふりをした。
タクシーの前まで、手を握られて……。
「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい! メールするね!」
タクシーに乗って、ふうっと息を吐いた。
でも、すぐメールが来る。
『今日は来てくれてありがとう。最高の夜でした。とても楽しくて、でも嫌われていないか心配です』
嫌い……?
嫌いになんか、なるわけがない。
『私もとても楽しかったです。嫌うなんてとんでもない。あと六日よろしくね』
精一杯の大人としてのメールを打った。
キスくらいいいよ。でもあと六日だよ……という告知。
利佳子ブレインは完璧だ。
彼と後腐れなく、友達の姉に戻る。
だけど、あの抱擁が、あの口づけが……。
自分を女だと、思わせるようなあの心にぶつかる感情……。
絡み合う舌を思い出して、利佳子はふうっと……息を吐く。
今、何を思えばいいのか。
利佳子ブレインも動かないまま、タクシーに揺られた。
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