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水曜日のおうちデート・その3「隆太朗からのお詫びの品」

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 イスに座ったままの利佳子は、動けない。
 隆太朗の胸元にぎゅうっとされる。

「大好き……めちゃくちゃ大好き……」
 
 繰り返される愛の言葉に、ドキマギしながら隆太朗の背中をそっと撫でた。

「あ! ご、ごめんなさい!」

「い、いいえ。紅茶が……ブロークンリーフなら蒸らし時間は三分よ」

「あ!」
 
 隆太朗は気づき、台所へ飛んで行く。

 はぁーと利佳子はやっと息ができたと心臓を押さえる。
 冷静なふりをしたが心臓はドキドキしまくっていた。
 隆太朗が紅茶を淹れるまで、何度も深呼吸して利佳子ブレインを起動させる。

 あれは幼少の頃の弟とのハグと同じだ! そう思えばいい!

「ごめんなさい。なんか感極まっちゃって」

 ティーカップを二つ、お盆に乗せてきた隆太朗。

「い、いいのよ。なんてことないわ。おほほ」

 変に見栄を張ってしまう。
 でも隆太朗はホッとしたような顔をする。それを見て利佳子も内心ホッとした。

「どうぞ、食べてください」

 頬の紅い隆太朗の前でそっとレモンタルトを口に運ぶ。

「うん……とっても美味しい!」

 そう伝えた後の隆太朗の微笑み。
 優しい朝陽のような笑み。

 ドキンとしてしまった。
 この胸の高鳴りは……?

 まさか……いいえ! そんな事はない!
 彼と恋愛だなんて……ありえない、そう思わなければいけない。
 利佳子ブレインは妄想を中断させた。

 それからは美味しいお茶の時間。

「あと、これなんだけど……同僚の方に俺のせいで合コン断っちゃったお詫びに」

 隆太朗が大きめの紙袋を持ってきた。

「え?」

「俺の店のお菓子の箱詰め、荷物になっちゃうけど渡してくれる?」

「そんな……」

 利佳子もお詫びを考えていたが、まさか隆太朗がそこまで考えていたとは……と驚く。
 隆太朗の店は、他県から訪れる人も多い有名菓子店だ。
 ケーキやお菓子の詰め合わせは贈答用として喜ばれ、利佳子も何度も利用している。

「こんな立派なの……相当な値段でしょ」

「せめてものお詫びです」

「私からもお詫びするつもりだし、昼に話した時は、まだ参加者が全員了解したわけではないから……という事で店の予約もまだなのよ。だからきっと大丈夫。でもお気遣いありがとう」

「そっか! よかったぁ」

「ありがとう。絶対に喜ぶわ」

「いつか、俺が作ったお菓子でも贈答用になれるように頑張らないと」

「りゅうのお菓子でも、十分に美味しいのに……」

「ありがとう! 俺なんかまだまだお詫びにならない……でも頑張るよ」

 若者が夢に向かう凛々しい笑顔。
 利佳子も頷いた。

 その後、片付けはいいと言われてしまう。
 それから二人で、有料公開が始まったばかりの映画を見ることにした。

 レモンのチューハイとポテトチップスを準備。
 少し暗くして……映画が始まる。

「利佳子、怖いの大好きなんだもんね」

「ストレス発散になるのよー! わぁ観たかったんだ」

 夢中で見る利佳子の横顔を、隆太朗はじっと見つめていた。
 鍵のかかった屋敷に閉じ込められた男女グループを襲う、最悪の殺人鬼物語が始まる!!

 映画鑑賞後。
 ぎゅーっと隆太朗に抱きつかれた利佳子。

「も、もう終わったから、ね?」

「怖い、怖い……怖い~~グロかったよぉ」

「そうね、そうね。ごめんね。初心者向けじゃなかったわね」

「うえーん」

「私が悪かったわ。怖かったわね。よしよし……よしよし……」 

 怖がる隆太朗は本当に幼子にしか見えず、ドキドキはしない。
 まるでゴールデンレトリバーに抱きつかれてるようだと、背中をナデナデした。
 
「もうっ! 俺はぁ犬じゃないよ!」

「だって、わんちゃんみたいなんだもの」

「やっぱり! 俺のこと犬だと思ってあやしてた!?」

「うふふ! だってぇ!」

 つい大笑いしてしまって、頭を撫でた手を笑う隆太朗が掴んだ。
 それもくすぐったいと、大笑いしてしまったらバランスを崩してドサッと隆太朗に押し倒される格好になった。

「あ……っ」
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