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逃走中※アユム視点
しおりを挟むまさかの……いや、想像してたけどザピクロス様の浮気グセのせいで修羅場中。
でも決着がついたのかな?
絶縁を叩きつけられて、ザピクロス様は口を大きくあけて呆然としている。
灰になる一歩手前のアライグマ状態だ……。
そしてエイシオさんも、同じように愕然としている……。
俺も、ど、どうしようと頭のなかが軽くパニックだ。
「私はもう、そんなあなたになんか興味はないの! これからは勇者と、転移者殿と一緒に私も暮らすのよ」
突然の、テンドルニオン様の言葉。
つまりはザピクロス様の次に、テンドルニオン様が俺達と一緒に暮らすってこと?
エイシオさんが、悲壮に溢れた顔をしている……。
地獄に落とされる前の人のようなげっそりとして……。
エイシオさんのオーラが、ムンクの叫びのようにうっすら見える……!!
「アライグマが……またアライグマに……アライグマチェンジ……しただけじゃないか……」
ぶつぶつとエイシオさんの言葉がかすかに聞こえる。
あぁ、エイシオさん!!
「うふふ、人間の食べ物を食べるのは私も楽しみだわぁー転移者殿のお料理にお酒に……うふふ」
テンドルニオン様は、何か妄想をしているのか料理本を取り出して、楽しそうに読み始めてるっっ!!
「アユム……!」
「は、はいエイシオさん……!」
「行こう……!」
「えっ?」
エイシオさんがザッと立ち上がり、荷物を背負う。
慌てて俺もテーブルの横にあった荷物を手に持って、一緒に立ち上がった。
そんな俺をエイシオさんは抱き上げる。
お、お姫様抱っこされちゃった!?
「わぁ!」
「テンドルニオン様! 私たちは急用を思い出しましたのでこれにて失礼致します! ごちそうさまでした!」
「えぇ!? 勇者!? なにを!」
突然のエイシオさんの言葉に、テンドルニオン様は驚く。
壁で呆然としていたザピクロス様もハッ!? となってこちらを見た。
「それでは失礼!」
「あぁ! 勇者!! 転移者殿!!」
テンドルニオン様が止める間もなく、エイシオさんは俺を抱いたまま走り出した。
「エイシオさん!」
「あぁ、僕はもうアライグマに間に挟まれるのはまっぴらごめんだよ! アユムとあの家で二人だけで一緒に暮らすんだ……!」
「……エイシオさん……」
「いいだろう? アユム! 帰ったら結婚式をしよう! 僕とずっと一緒にいてほしい!」
抱き上げたまま、エイシオさんはすごいスピードでテンドルニオン様の神殿内を走る走る。
そんな状況なのに、エイシオさんの言葉が俺の心に熱く刺さって……。
今までも沢山、幸せになる言葉をくれた。
でも、今の言葉がすごく嬉しくて嬉しくて、目が熱くなって涙が溢れてくる。
「……はい! エイシオさん大好きです!」
俺は強くエイシオさんの首もとに抱きついた。
エイシオさんは額から汗を流しながら、走る荒い息のまま『やったぁー!』と叫ぶ。
走って走って、二人で手を取り合って俺たちは逃走した。
逃げ出しちゃったのは悪い事かもしれないけれど、ごめんなさい神様達。
今はどうか二人っきりの時間をください。
キラキラ輝く笑顔。
大好きなエイシオさんの笑顔。
それが嬉しくって、俺も笑顔になる。
人って怖いだけだと、思ってた。
言葉って傷つくだけだと、思ってた。
自分に価値はないと思っていた。
キラキラでみんなに好かれている人に、悩みはないと思ってた。
でも、それは間違っていた。
人ってこんなに温かくて。
言葉ってこんなに嬉しくって。
俺なんかにも価値を、愛をくれる人がいた。
どんな人にも苦悩があって、俺なんかの愛でも救えることもわかった。
見つけてくれて、ありがとう。
出逢ってくれて、ありがとう。
俺は此の異世界で、愛する人と出逢える事ができました。
※次回最終回です。
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