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出逢った旅人※エイシオ視点
しおりを挟む嵐の洞窟。
突然に飛び込んできた人影に僕はアユムを背中に隠す。
この雨風で僕の鼻も利かなかったか。
「いやーなんていう災難だよ!」
「あら先客がいたわね」
若い男女の旅人……。
短剣を持っているが、冒険者ではない……一般の旅人か。
「だ、大丈夫ですか?」
二人共かなり濡れている。アユムが心配そうに二人に声をかけた。
「アユム、腕輪の力を見せてはいけないよ」
「は、はい」
僕はこっそり囁く。
アユムの力が知れ渡ると、面倒なことになる。
優しいアユムが慌てて頷いた。
「いや~かなり濡れてしまったよ~君達も避難してきたのかい?」
「あぁ、突然の嵐だったね」
「驚いたよ。草原では立ってもいられない状態で……洞窟がなかったらどうなっていたかわからないよ」
「此処を見つけたのは偶然かい?」
「あぁラッキーだった」
僕達と大して変わらない年頃の男。
つい警戒してしまうが、筋肉隆々というわけでもない。
やはり普通の村人か……?
短い茶色の髪も服もびしょ濡れだ。
「うう……寒いわ」
水色のボブヘアーの女性は濡れた身体を自分で抱くようにして震えている。
かなりの軽装だ。
これは凍えるだろう。
「エイシオさん、焚き火をしましょう!」
「あぁ、そうだね。旅は道連れだ、すぐに火を起こすから一緒に温まろう」
「それはとても助かる、ありがとう!」「ありがとう」
僕達はすぐに火を起こし、二人は着替えて四人で焚き火を囲んで暖を取っていた。
アライグマもアライグマらしく話さず、僕の膝の上で丸まっている。
いつもこうだったら可愛いのに。
「さぁどうぞ、簡易的なものですがスープです」
「ありがとう」
「すごく美味しそうよ」
アユムが温かいスープを作ってくれて二人に渡した。
男はダニー、女性はシャンディという恋人同士だそうだ。
「短い旅だと思って軽装にしすぎたよ……」
「食料は何もなかったから本当に助かったわ」
毛布を貸してもまだ震えていた二人はスープを飲んでやっと温まってきたようだ。
「パンもありますから、卵とベーコンを焼いてチーズを炙ってトッピングしましょう」
「いいのかい? 二人の食料が……」
「かなり多めに買ってあるので大丈夫ですよ」
そう、アライグマ用の食料を考えてかなり大量に備えてある。
「エイシオさんもスープをどうぞ」
「ありがとう」
「あの……失礼ですが、貴方はもしやエイシオ・ロードリア様では……?」
「さっきから気になっていたんです」
暗い洞窟でフードをかぶりっぱなしにしても相手に警戒されるだけだしと思って僕は獣耳を見せていた。
やっぱり気付かれたか。
「あぁ、僕はエイシオ・ロードリアだ」
「やっぱり!」
「きゃー! 感激です! お留守だと伺ってたので!」
「……留守とは……?」
「はい、僕達はロードリア様のお屋敷に向かっているところなんです」
なんだ……こんな若者二人が家にどういう用事だ。
「そうだったのか……まぁ僕達は家には向かってないんだけどね」
「道中はご一緒できなさそうですか、それは残念です」
あまり詳しく聞かない方がいいか……。
屋敷の誰かの知り合いだろう。
「エイシオ様がお戻りになるまでは滞在予定だったのですが、じゃあこの奇跡的な出逢いに感謝して今採寸してもいいかもしれませんね」
「そうね、この嵐が去るまでは時間もありそうなのでいかがでしょうか?」
僕が戻るまで滞在? さいすん?
「さいすんとは、どういう事だい?」
「もちろん、結婚式のご衣装ですよ」
結婚式の衣装だって!?
驚きのあまりに僕は膝にいたアライグマを忘れて立ち上がってしまった。
アライグマがゴロゴロと転がっていく。
結婚式の衣装ってどういう事だ……。
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