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嵐が来る※アユム視点
しおりを挟む黒い雲はあっという間に俺達の頭上を覆い、風が吹き荒れ大雨が降り始めた。
「アユムは幌の中にいるんだ!」
俺を馬車の屋根部分へ、入れというエイシオさん。
「でも! エイシオさんだけがそんな」
エイシオさんはカッパを着て、一人で馬車を操っている。
「僕は大丈夫だ! 荷物が濡れないように移動させて、カバーをかけるのを頼むよ!」
「はい!」
「アラ……ザピクロス様! この天候どうにかできないんですか!?」
「あぁ~? 天気なんかどうにもできぬ~自然と神は荒ぶるものじゃあ……ふああ」
ザピクロス様は幌の中でぬくぬく、とペット用の寝袋に入っていく。
幌はかなり丈夫だけど、風に煽られて大きく左右に揺れる。
俺は幌の後ろを閉めて、防水のシートで荷物をくるんだ。
「アユム! ここも閉めるよ!」
幌の前面もエイシオさんが、閉めようとする。
そしたら俺だけ幌の中で、エイシオさんは馬車を運転しながら一人雨に打たれ続けるってことだ!
「荷物の雨よけは終わりました! やっぱり俺もそっちに行きます!」
「まだ休める場所まで距離がある! アユムが風邪をひいたら大変だ」
「でも!」
言ってる間も酷い雨がバサバサと幌を揺らし、エイシオさんにかかっている。
「大丈夫! 馬達も頑張ってくれているが、あまり無理はさせられない。この先の山に洞窟があるんだ。そこで雨風をしのごうと思う!」
「エイシオさん!」
「こんな事は慣れっこなんだよ! 平気だよ!」
「わ、わかりました……すみません……」
「荷物番も大事な仕事だよ! 馬車が揺れるから酔わないように」
「はい……」
「アユム、大丈夫だ」
……そうだよな。
俺が隣に座ってたって、どうにもならないし……。
辺りはもう日が暮れたように暗くなって、雷鳴も轟いている。
さすがにテンドルニオン様の指輪もあるし雷は落ちないよな……。
あ! 風で揺れまくる、幌の端っこから雨が!
俺は慌てて支える。
「ぐーぴーぐーぴートウモロコシ……」
ザピクロス様は、寝ちゃったみたい。
エイシオさんが凍えませんように、降りたらすぐに火で温めよう。
何度かエイシオさんに声をかけながら、それでもその時間は不安で果てしなく長い時間に感じた。
「よし! 洞窟に着いたぞ」
森の中の洞窟。
馬車が通るルートを少しズレた場所にある巨大な洞窟だ。
洞窟に入って幌馬車は入り口付近の濡れない場所に置いて、馬を連れて更に雨風が避ける奥までやってきた。
「ありがとう、頑張ってくれたね」
俺は火の腕輪の力で濡れた馬を乾かし、洞窟内を流れる小さな川で水を飲ませて休ませる。
「エイシオさんも……」
カッパを着ていたとはいえ、エイシオさんの髪の毛もモフモフ耳も綺麗な顔もずぶ濡れ。
慌てて腕輪パワードライヤーで乾かす。
「ありがとうアユム」
「いえ、すぐに火を起こしますね」
「その前に少し」
「えっ……」
エイシオさんに抱き寄せられて、キスされる。
ん……今日はいつもみたいに触れるだけじゃなくて、ちょっと長くて……舌が……甘い……。
「……ふぅ……まだ足りないけど……離れていた寂しさは紛れたかな」
「だ、だから俺も隣にって言ったんです……」
「大事な恋人は安全な場所にいてほしいんだよ……でも今日はくっついて寝てもらうよ」
洞窟の外では雨風がまだ激しい。
此処まで来る時まで必死の思いだったのに、今はエイシオさんにドキドキする。
キスがエッチでドキドキした……。
「ふえーん。転移者殿どこーー!? 暗いよー」
幌で寝かせたままにしていたザピクロス様が起きたらしい。
「まるで赤子だ……」
エイシオさんがちょっとうんざりした顔で言う。
「あはは、行ってあげましょう」
俺達が幌場所に向かうと、洞窟の外からびしょ濡れの旅人二人が飛び込んできた。
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