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僕はあたふたしている※エイシオ視点

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 僕達は女主人に案内されて、中庭を見ながら長い廊下を歩く。

 アユムは、とてもニコニコしている。

 もしかして……先程の女性との事を、思い出しているのだろうか。

 アユムは女主人にも彼女を怒らないように頼み、最後は皆がほっこりした雰囲気になった。

 アユムは自分を無能というが、確かにあの時の場は和み、女性達はアユムに好印象を抱いただろう……。

 皆、美人揃いだった。

 だからニコニコしているのだろうか。

 確かに、確かに、当然のことだ。
 可愛い女性を見て、男としてニヤけるのは当然のこと。

 女主人もかなりの美人だ。

 うん、当然だ……当然……誰だってニコニコする美人だよ……。

 うあーっ! いやだーーー!!

 当然なんだと思おうとしてるのに、何故か僕は脳内で『いやだ』と叫んでしまう。

 いつの間にか、部屋に着いていた。

「うわぁー素敵なお部屋ですね! 海が見える!」

「はい、海を見渡せる、源泉掛け流しの露天風呂もございます。隣のお部屋から通じておりますので」

「えっ!? 部屋に露天風呂!? それにこの部屋だけじゃないんですか?」

「はい、このお部屋の他にリビング、寝室、洗面所、内風呂、露天風呂、テラスもございます」

「わわわわ……すごい」

 アユムが、ワタワタしている。
 純朴なところが、可愛らしいんだ。

「もうすぐ夕陽が見えますので、是非露天風呂でお楽しみください」

 女主人は出て行った。
 彼女が淹れてくれた、お茶を飲む。
 靴を脱いで床に座るのは、変な感覚だ……。

 二人っきり。
 静かな時間。

 僕がさっき話した雑学を、また嬉しそうに話しながらアユムは温泉まんじゅうを食べる。

「エイシオさん、どうかしましたか?」

「いや……」

「疲れましたか? それとも怪我が痛みますか?」

「大丈夫だよ……アユムは嬉しそうだね」

「そりゃこんな豪華すぎる部屋で温泉です。すごく嬉しいし、楽しいです」

「良かった」

「それに……」

 それに!?

 それに、なんなんだ!? アユム

 さっきの女性と仲良くしたいので、間に入ってくれませんか?
 とか言われたらどうしよう!

「それに……」

 ど、どうして恥じらうような顔をするんだ。

「あの……」

 可愛い……照れながらニコニコしてる。
 好きな子を打ち明ける時の、恥じらいだったらどうしよう!?

 怖い聞きたくない!

 でも……僕は同居人として、彼の幸せを見守りたいという気持ちがある。
 だから……しっかり彼の気持ちを聞かねば。

 アユムの、アユムの幸せが一番なんだ!

「ど、どうしたのかな? アユム」

「あ、あの……」

「うん」

「さっき、エイシオさんが俺のことを大事な連れだって……言ってくれた事が嬉しくて」

「えっ……」

「へへ……ありがとうございました」

「あ……」

 ア、ア、ア、アユムーーーーーっ!!
 アユムーーーーーっ!!
 アユムーーーーーっ!!

 アユムーーーーーーーーーー!!!

「当然だよ」

 平静を装って僕は微笑んだ。

 アユムーーーーーーーーーー!!!
 可愛いーーーーーーーーーー!!!

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