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すると幸代は、
「やぁね、冗談よ、冗談。いくら何でもそりゃまずいわよね。それに耕一君の彼女に悪いし」
くすくす笑いながら言って、
「冗談はさておき、そろそろ…」
そう言いながらテーブルを片付けようと席を立った。
「あ、いいよいいよ、後で俺が片付けとくから」
耕一は幸代を手で制しながら立ち上がった。
そして玄関先まで来て、耕一は、
「それじゃ、駅まで送るよ」
と言いながら、下駄箱に置いてある社用車のキーをつかんだ。
けれども幸代は、
「何馬鹿言ってんのよ。酔っ払い運転じゃない。いいわよ、ここまでで」
笑いながらそう言って、靴を履いた。
「本当にいいの?送らなくて」
耕一がもう一度聞くと、幸代はうなずいた。
「無理矢理付き合わせちゃったみたいで、何か悪かったなぁ」
耕一が申し訳なさそうに言うと、幸代も首を横に振って、
「ううん、とんでもないわ。とても楽しかった…ごちそうさま」
と言った。そして、
「それじゃ…」
そう言ってドアノブに手をかけた。
耕一はそれを見ながら、
「それじゃ…」
と一言だけ言った。
幸代は振り返ってにこりと笑いながら、静かにドアを閉めた。
廊下を歩く足音が聞こえなくなるのを確認してテーブルに戻ると、耕一は少し呆れ返った。
七面鳥は全部平らげてあり、ケーキは半分くらいしか残っていない。
フライドチキンも1/3くらいが骨だけになっていて、お菓子やおつまみも似たようなものだった。
「よくもまぁ、二人だけでここまで食い散らかせたもんだ…」
耕一は思わず声に出してしまっていた。
あまりの凄さにテーブルを片付ける気も失せてしまい、リビングのソファにごろんと横になった。
ゴッ。
何か固いもので頭を殴られたような感覚で、耕一は目を開けた。
どうやら知らないうちにうたた寝をしてしまったようだ。
辺りを見回すと、沙奈絵がシャンパンの空きビンを逆手に持って立っていた。
その空きビンの底でこづかれたのだろう。
「あれ…仕事、終わったんだ」
耕一が少しぼけた声で言うと、沙奈絵は黙ってうなずいて、
「くれぐれも、って言ったのに…こんな事だろうと思って、寄ってみてよかったわ」
と、少し呆れた口調で言った。
そしてテーブルを見て、
「誰か来てたの?グラスが二つあるけど」
と聞いた。
耕一は目をこすりながら、
「あぁ。夕方、高校の時の同級生と偶然逢ってね…盛り上がっちゃった」
と答えた。
さすがに女性が来てたとは言えなかったけど、嘘ではなかった。
沙奈絵は、
「ふーん…」
と言ったきり、その先に突っ込もうとはしなかった。
けれどもまだ呆れた口調で、
「盛り上がるのはいいけど、鍵開けっ放しにしたまま寝てると不用心よ。たまたまあたしが立ち寄ったからいいものの…」
そこまで言って、沙奈絵は「あ」と思い出したような表情になり、
「そうそう、ポストにこんなのが入ってたわよ」
沙奈絵がポケットをまさぐって、耕一の目の前に「これ」と言って差し出した。
彼女に人差し指には、『くいだおれ人形』のキーホルダーがぶら下がっていた。
耕一が黙ってそれを受け取ると、沙奈絵はテーブルに乗っている食べ残しを見て、
「ねぇねぇ、あれ、余ってんでしょ?少しもらって帰っていい?」
と聞いた。
耕一は手のひらに乗せたキーホルダーを見つめながら、生返事をした。
その返事を聞いて沙奈絵は、
「サンキュー」
と言って、早速食べ残しを物色し始めた。
そして冷めたフライドチキンを密封パックに詰めながら、
「それってさ、あの大阪名物のお人形でしょ?」
と聞いてきた。
耕一はまた生返事をした。
「なかなかしゃれてるね、それ。買ったの?」
沙奈絵の言葉に、耕一はポケットから出した鍵をキーホルダーを付けながら、
「クリスマス・プレゼント。今日逢った同級生が置いてってくれたんだ」
と答えた。
「やぁね、冗談よ、冗談。いくら何でもそりゃまずいわよね。それに耕一君の彼女に悪いし」
くすくす笑いながら言って、
「冗談はさておき、そろそろ…」
そう言いながらテーブルを片付けようと席を立った。
「あ、いいよいいよ、後で俺が片付けとくから」
耕一は幸代を手で制しながら立ち上がった。
そして玄関先まで来て、耕一は、
「それじゃ、駅まで送るよ」
と言いながら、下駄箱に置いてある社用車のキーをつかんだ。
けれども幸代は、
「何馬鹿言ってんのよ。酔っ払い運転じゃない。いいわよ、ここまでで」
笑いながらそう言って、靴を履いた。
「本当にいいの?送らなくて」
耕一がもう一度聞くと、幸代はうなずいた。
「無理矢理付き合わせちゃったみたいで、何か悪かったなぁ」
耕一が申し訳なさそうに言うと、幸代も首を横に振って、
「ううん、とんでもないわ。とても楽しかった…ごちそうさま」
と言った。そして、
「それじゃ…」
そう言ってドアノブに手をかけた。
耕一はそれを見ながら、
「それじゃ…」
と一言だけ言った。
幸代は振り返ってにこりと笑いながら、静かにドアを閉めた。
廊下を歩く足音が聞こえなくなるのを確認してテーブルに戻ると、耕一は少し呆れ返った。
七面鳥は全部平らげてあり、ケーキは半分くらいしか残っていない。
フライドチキンも1/3くらいが骨だけになっていて、お菓子やおつまみも似たようなものだった。
「よくもまぁ、二人だけでここまで食い散らかせたもんだ…」
耕一は思わず声に出してしまっていた。
あまりの凄さにテーブルを片付ける気も失せてしまい、リビングのソファにごろんと横になった。
ゴッ。
何か固いもので頭を殴られたような感覚で、耕一は目を開けた。
どうやら知らないうちにうたた寝をしてしまったようだ。
辺りを見回すと、沙奈絵がシャンパンの空きビンを逆手に持って立っていた。
その空きビンの底でこづかれたのだろう。
「あれ…仕事、終わったんだ」
耕一が少しぼけた声で言うと、沙奈絵は黙ってうなずいて、
「くれぐれも、って言ったのに…こんな事だろうと思って、寄ってみてよかったわ」
と、少し呆れた口調で言った。
そしてテーブルを見て、
「誰か来てたの?グラスが二つあるけど」
と聞いた。
耕一は目をこすりながら、
「あぁ。夕方、高校の時の同級生と偶然逢ってね…盛り上がっちゃった」
と答えた。
さすがに女性が来てたとは言えなかったけど、嘘ではなかった。
沙奈絵は、
「ふーん…」
と言ったきり、その先に突っ込もうとはしなかった。
けれどもまだ呆れた口調で、
「盛り上がるのはいいけど、鍵開けっ放しにしたまま寝てると不用心よ。たまたまあたしが立ち寄ったからいいものの…」
そこまで言って、沙奈絵は「あ」と思い出したような表情になり、
「そうそう、ポストにこんなのが入ってたわよ」
沙奈絵がポケットをまさぐって、耕一の目の前に「これ」と言って差し出した。
彼女に人差し指には、『くいだおれ人形』のキーホルダーがぶら下がっていた。
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と聞いた。
耕一は手のひらに乗せたキーホルダーを見つめながら、生返事をした。
その返事を聞いて沙奈絵は、
「サンキュー」
と言って、早速食べ残しを物色し始めた。
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と聞いてきた。
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「なかなかしゃれてるね、それ。買ったの?」
沙奈絵の言葉に、耕一はポケットから出した鍵をキーホルダーを付けながら、
「クリスマス・プレゼント。今日逢った同級生が置いてってくれたんだ」
と答えた。
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