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ボディの横っ腹にでかでかと『××製薬』と書かれているライトバンが停っている。
耕一は両手に荷物をぶら下げて、そのライトバンに歩いていく。
シャンパンの入った袋を地面に置いて、車のキーを出し、鍵を開ける。
後ろのドアを開けて荷物を積み込もうとしていると、
「手伝うわ」
幸代がそう言って、袋を一つ持って後ろの席に置こうとした。
けれども幸代は、
「…なに、これ?」
思わず口に出してしまった。
外回りのまま帰ってきたので、後ろの荷室には納品用の薬の詰まった段ボール箱が山積みになっているが、問題は後ろの座席だった。
今耕一が買ってきた物以外にも、既に荷物が積んであったのだ。
ケーキ屋のでかい箱が一つ。
おもちゃ屋の袋に入った、クリスマスツリー用の電飾キットと山ほどのクラッカー。
お菓子やおつまみがぎっしり詰まった段ボール箱。
クリスマス・リース。
極めつけは後部座席の床に直接置いてある、高さ80センチはありそうなゴールドクレストの鉢植えだった。
「…耕一君、クリスマス配送のアルバイトもしてるの?」
幸代が思わず聞くと、
「いや、違うよ。どうして?」
耕一はあっさりと言った。
「だって、こんなに一杯積み込んで…」
幸代のその言葉を全く気にしないように、
「あ、これ?全部俺の家で使うんだよ」
と言った。
「何十人のパーティー?」
「俺一人」
耕一の言葉を聞くと、幸代は呆れ返った表情になって、
「ホント、変わってないわね」
と言った。
「本当は、『俺一人』じゃなかったんだけどね」
車を運転しながら、耕一は言った。
「『俺一人』じゃないって?」
幸代が聞くと、
「今付き合ってる彼女が、今夜仕事が忙しくて抜けられないんだと」
耕一はそう答えた。
それを聞いて、
「ふーん、それでか…バカ買い、ヤケ食いの癖が治ってないと思ったら、それが理由だったのか…」
幸代は何となく納得したような表情で言って、
「でも、こんなに一杯買い込んで、残っちゃったらもったいないわねぇ…」
何の気なしにそう続けた。
「それじゃあ、俺に部屋に来て一緒に食べるか?確かに一人じゃ食べきれないし」
耕一が冗談ぽく言うと、幸代はしばらく考えて、
「…いいの?」
と答えた。
そんな答えが返ってくるとはまさか思っていなかった耕一は、
「え?」
と思わず言ってしまった。
「あ…やっぱり迷惑だったかしら?」
幸代のちょっと引け目がちな言葉を聞いて、
「え?いやいや、そう言うことじゃなくって。まさか本当に来てくれるとは思ってなかっただけで…」
耕一はちょっと早口になりながら答えた。
「本当に迷惑じゃないの?」
「あぁ、一人でいるのもなんだし、こっちの方こそ大歓迎だよ」
「じゃぁ、お言葉に甘えて…」
車は駅前をそのまま素通りして、耕一の部屋へと向かった。
「ちょっと待って。今、鍵開けるから」
耕一はそう言って、両手一杯に持った荷物を下ろして、ポケットの中をゴソゴソとさぐった。
やがて鍵を出してドアノブに差し込もうとしたとき、つい手が滑って鍵を廊下に落としてしまった。
「あら、鍵だけなの?」
幸代はキーホルダーも付いていない鍵を拾い上げて、耕一に渡した。
耕一は鍵を受け取って、
「キーホルダー、すぐにダメにしちゃうんだ」
と、鍵を鍵穴に差しながら答えた。
幸代はそれを聞きながら、
「物持ち悪いわね。わたしなんか、ほら」
そう言って幸代は、バッグから鍵を取り出してみせた。
そこには高校の修学旅行で大阪に行った時、皆で冗談で買った『くいだおれ人形』のキーホルダーがぶら下がっていた。
「物持ちいいなぁ」
耕一は感心した口調で言った。
耕一は両手に荷物をぶら下げて、そのライトバンに歩いていく。
シャンパンの入った袋を地面に置いて、車のキーを出し、鍵を開ける。
後ろのドアを開けて荷物を積み込もうとしていると、
「手伝うわ」
幸代がそう言って、袋を一つ持って後ろの席に置こうとした。
けれども幸代は、
「…なに、これ?」
思わず口に出してしまった。
外回りのまま帰ってきたので、後ろの荷室には納品用の薬の詰まった段ボール箱が山積みになっているが、問題は後ろの座席だった。
今耕一が買ってきた物以外にも、既に荷物が積んであったのだ。
ケーキ屋のでかい箱が一つ。
おもちゃ屋の袋に入った、クリスマスツリー用の電飾キットと山ほどのクラッカー。
お菓子やおつまみがぎっしり詰まった段ボール箱。
クリスマス・リース。
極めつけは後部座席の床に直接置いてある、高さ80センチはありそうなゴールドクレストの鉢植えだった。
「…耕一君、クリスマス配送のアルバイトもしてるの?」
幸代が思わず聞くと、
「いや、違うよ。どうして?」
耕一はあっさりと言った。
「だって、こんなに一杯積み込んで…」
幸代のその言葉を全く気にしないように、
「あ、これ?全部俺の家で使うんだよ」
と言った。
「何十人のパーティー?」
「俺一人」
耕一の言葉を聞くと、幸代は呆れ返った表情になって、
「ホント、変わってないわね」
と言った。
「本当は、『俺一人』じゃなかったんだけどね」
車を運転しながら、耕一は言った。
「『俺一人』じゃないって?」
幸代が聞くと、
「今付き合ってる彼女が、今夜仕事が忙しくて抜けられないんだと」
耕一はそう答えた。
それを聞いて、
「ふーん、それでか…バカ買い、ヤケ食いの癖が治ってないと思ったら、それが理由だったのか…」
幸代は何となく納得したような表情で言って、
「でも、こんなに一杯買い込んで、残っちゃったらもったいないわねぇ…」
何の気なしにそう続けた。
「それじゃあ、俺に部屋に来て一緒に食べるか?確かに一人じゃ食べきれないし」
耕一が冗談ぽく言うと、幸代はしばらく考えて、
「…いいの?」
と答えた。
そんな答えが返ってくるとはまさか思っていなかった耕一は、
「え?」
と思わず言ってしまった。
「あ…やっぱり迷惑だったかしら?」
幸代のちょっと引け目がちな言葉を聞いて、
「え?いやいや、そう言うことじゃなくって。まさか本当に来てくれるとは思ってなかっただけで…」
耕一はちょっと早口になりながら答えた。
「本当に迷惑じゃないの?」
「あぁ、一人でいるのもなんだし、こっちの方こそ大歓迎だよ」
「じゃぁ、お言葉に甘えて…」
車は駅前をそのまま素通りして、耕一の部屋へと向かった。
「ちょっと待って。今、鍵開けるから」
耕一はそう言って、両手一杯に持った荷物を下ろして、ポケットの中をゴソゴソとさぐった。
やがて鍵を出してドアノブに差し込もうとしたとき、つい手が滑って鍵を廊下に落としてしまった。
「あら、鍵だけなの?」
幸代はキーホルダーも付いていない鍵を拾い上げて、耕一に渡した。
耕一は鍵を受け取って、
「キーホルダー、すぐにダメにしちゃうんだ」
と、鍵を鍵穴に差しながら答えた。
幸代はそれを聞きながら、
「物持ち悪いわね。わたしなんか、ほら」
そう言って幸代は、バッグから鍵を取り出してみせた。
そこには高校の修学旅行で大阪に行った時、皆で冗談で買った『くいだおれ人形』のキーホルダーがぶら下がっていた。
「物持ちいいなぁ」
耕一は感心した口調で言った。
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