大将とマリちゃん

松田 かおる

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「金曜日」のこと

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「ねー、大将?」
「なんだい、マリちゃん?」

「もう昨日の話なんだけどさ、昨日は『ブラック・フライデー』とかだったらしいよ?」
「ブラック・フライデー?」
「そう」
「なんだか聞き慣れないなぁ、何それ?」
「あたしもよく知らないんだよね…どれどれ」

たぷたぷ。

「…アメリカで流行ってるみたい。 なんでも『感謝祭の次の日の金曜日で、どのお店も売り上げが上がる日』らしいよ?」
「ふーん…」
「だよね。 昨日もうちはいつもと変わらず大賑わいだったから、そんなの関係ないもんねー」
「確かにそうだなあ。 それに『ブラック』って聞くとあまりいいイメージを感じないしねぇ… 」
「あ、なんかわかるかも」
「『ブラック企業』とか『ブラックマンデー』とか」
「あ、それ知ってる。 世界中で株が暴落した時のことでしょ? 大学で習った」
「随分と昔のことなのに、よく知ってるね」
「うん、教授が『大損した』って言ってたから、なんとなく覚えてた」
「だから『ブラック』って表現は、どうもしっくりこないんだよなあ」
「そう言えばさ、もう一つ金曜日で何かあったよね?」
「『プレミアム・フライデー』?」
「そうそうそれそれ! 最近聞かないよね」
「そう言えばほとんど聞かなくなったなぁ」
「あまり流行らなかったのかなあ」
「特にどうする…とかじゃなかったしね。 うちの店も特になにもしなかったし」
「そんなことしなくても、お客さん来てくれるもんね」
「それはありがたい限りだよ」
「その反動で、土曜の今日は暇かもしれないね」
「あまりありがたい事じゃないけど、毎日忙しいだけなのも何だしね」
「そうそう、こうして大将とのんびり雑談できるくらいの方がちょうどいいんだよ」
「雑談ばかりも困るけどね」
「『忙中閑あり』」
「うまいこと言うねえ」
「でしょー? だから今日の賄い、奮発してね?」
「それとこれとは別。 さ、開店準備して」
「労働者搾取だあ、『ブラック居酒屋』だあ」
「人聞きの悪いこと言わないの」
「ぶー」
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