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王様ゲーム
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とある高校。昼休み。
「ねぇ美奈、話があるんだけど」
「ん、なぁに、トモ?」
向かいでお弁当を食べていた智子に話しかけられた美奈は、メロンパンをくわえたまま顔を上げて、
「お金ならないわよ」
と言った。
智子は少し呆れ顔で、
「…相談に乗って欲しいんだけど」
と言うと、
「保証人にならならないわよ」
本気で言っているのか冗談で言っているのかわからない美奈に、
「どこの世界に同級生に保証人を頼む高校生がいるのよ」
智子は真剣に言葉を返した。
「そうじゃなくって、和弘君の事」
智子が続けてそう言うと、
「あぁ、その事ね。あんた…まだ告白して…なかった…の?」
メロンパンを飲み込みながら美奈は言った。
「だってなかなか機会がなくて…」
「そりゃ…あんた…機会がない…って言ったって…」
「あの、美奈…」
「なに?」
「食べるか喋るか、できればどっちかにして欲しいんだけど…」
「…あ、ごめんごめん」
美奈はそう言うと、きっちり五分間かけてメロンパンを食べて、パック牛乳を片付けた。
「…で、あたしにどうして欲しいの?」
と口元を拭きながら美奈。
「うん、美奈だったら何とかできるんじゃないかな、って思って…」
「何とかねぇ…」
美奈はそう言ったきり真剣な目つきになって、黙りこんでしまった。
「…美奈?」
智子の呼びかけに対して、美奈は、
「…そのタコさん、おいしそうね…」
とのたまった。
智子は心底呆れ返って、
「…あげるわよ」
と、弁当箱を差し出した。
「サンキュー」
言うが早いか、美奈は弁当箱に手を延ばし、タコさんウインナーを一つしっけいした。
美奈は口をもぐもぐさせ、
「わかったわ、他ならぬタコさんのため、何とかしてみましょうか」
そう言って辺りをきょろきょろ見回した。
「えーっと、あ、いたいた。ねぇー、ゆ・た・か・くぅーん」
そう言って美奈は彼氏の豊を呼ぶと、
「…おまえが『くん』付けで呼ぶと、絶対なんかあるんだよなぁ」
とか言いながらやって来た。
「あんた、和弘君と親しかったよね」
美奈が聞くと、
「え?あぁ、そうだけど」
大した用事でなかった事に安心したのか、豊はほっとした口調で答えた。
「今度の土曜日、あたしとトモがあんたの家に遊びにいくから、あんた、和弘君を呼びなさい」
美奈のあまりにも決め付けた口ぶりに、
「なんで俺がそんなこと…それにそんな事急に言われても、和弘にだって予定が…」
と豊は反論した。
もっともな反応である。
しかしその言葉をなんとも思わないかのように、美奈は
「何とかしなさい、わかったわね」
きっぱりと言った。
その口調に豊は、
「ちょっと待て、だから何で俺が…」
と言いかけたところ、美奈は急に優しい口調に変わり、
「ねぇ、豊くん…あなたこの間あたしのお弁当箱から、ミートボール持ってったわよね」
と言った。
その言葉を聞いて豊の表情は固くなった。
「いや、あの、あれは…」
しどろもどろになった豊を玩ぶように、
「あれ、最後の一個だったのよねぇ…」
どこか遠いところを見るような視線で、美奈は続けた。
やがて豊は観念したのか、
「…わかったよ、何とかしてみるよ」
それを聞いて美奈は、
「あら悪いわねぇ、何だか無理矢理やらせちゃってるみたいで」
にっこり笑ってそう言った。
豊は黙っていたが、目は何か言いたそうだった。
「あ、それからお菓子と飲み物、あんたが準備するのよ」
そして土曜日。
智子,美奈,豊,そして和弘。
この四人が集まって、豊の家でささやかなパーティーが催されていた。
お菓子、ジュース、それと「ストロベリー○○」とか「バイオレット××」とかいうラベルが貼ってある瓶が何本か。
アル・カポネが見たらどんな顔をするだろう。
まぁそれは置いといて。
同じクラスの連中が集まっているので、主にクラスメートの噂やら先生の悪口なんかで盛り上がっていた。
「さぁっ!盛り上がってきたところで!」
美奈が口を開いた。
「せっかく男女四人が集まったんだから、もうちょっと盛り上がる催しをしましょう!さてここで問題です。四人集まって盛り上がる催しと言えば?」
「…麻雀?」
豊がぼそっと言った。
部屋の中に軽快な音が響き、美奈の後ろで豊が頭を抱えながらのたうち回っていた。
美奈はそれを無視して、
「盛り上がる催しと言えば、これよ、こ・れ」
そう言いながら美奈は、荷物の中から小振りな王冠モドキを取り出した。
その王冠モドキには、大手ハンバーガーチェーンのマークが入っていた。
確かこれは持ち出し禁止だった様な気がしたけど、美奈はそんな事ちっとも気にしていなかった。
「王様!げぇーむっ!」
やたらとテンションが高い。
「もうルールは一々言わなくてもわかるわよね、はい、じゃこれ」
そう言いながら美奈は各人に大きめのキャラメルくらいのものを手渡した。
見るとそれぞれ「一萬」「二萬」「三萬」「四萬」と刻み込んであった。
麻雀の牌である。
智子が「一萬」、豊が「二萬」、和弘が「三萬」で美奈が「四萬」。
「番号札ね。それと…」
みんなの目の前に将棋の「歩」が四枚転がった。
「表が出た枚数が番号札と同じだからね」
麻雀牌に振り駒。
一歩間違えれば賭博の風景だが、健全なゲームである。何も後ろめたいことはない。
「じゃ、始めましょうか。あたしから振るよ」
そう言って美奈は振り駒をした。
じゅうたんの上で、駒が勢いよく転がっている。
やがて最後の一枚が動きを止めた。
「お…最初の王様は…トモちゃーん!」
そう言って美奈は、智子の頭に王冠モドキを被せた。
そして被せながら、
「チャンスだからね」
と耳打ちした。
智子の心臓はドキドキして、他のみんなに聞こえてしまうんじゃないかと思うほどだった。
三人の視線が智子に集中する。
智子はグラスに入ったピンク色の飲み物を一気に飲み干して、深呼吸を一回。
やがて思い切って口を開いた。
「さ…三番の人に命令します。三番の人は…」
「ねぇ美奈、話があるんだけど」
「ん、なぁに、トモ?」
向かいでお弁当を食べていた智子に話しかけられた美奈は、メロンパンをくわえたまま顔を上げて、
「お金ならないわよ」
と言った。
智子は少し呆れ顔で、
「…相談に乗って欲しいんだけど」
と言うと、
「保証人にならならないわよ」
本気で言っているのか冗談で言っているのかわからない美奈に、
「どこの世界に同級生に保証人を頼む高校生がいるのよ」
智子は真剣に言葉を返した。
「そうじゃなくって、和弘君の事」
智子が続けてそう言うと、
「あぁ、その事ね。あんた…まだ告白して…なかった…の?」
メロンパンを飲み込みながら美奈は言った。
「だってなかなか機会がなくて…」
「そりゃ…あんた…機会がない…って言ったって…」
「あの、美奈…」
「なに?」
「食べるか喋るか、できればどっちかにして欲しいんだけど…」
「…あ、ごめんごめん」
美奈はそう言うと、きっちり五分間かけてメロンパンを食べて、パック牛乳を片付けた。
「…で、あたしにどうして欲しいの?」
と口元を拭きながら美奈。
「うん、美奈だったら何とかできるんじゃないかな、って思って…」
「何とかねぇ…」
美奈はそう言ったきり真剣な目つきになって、黙りこんでしまった。
「…美奈?」
智子の呼びかけに対して、美奈は、
「…そのタコさん、おいしそうね…」
とのたまった。
智子は心底呆れ返って、
「…あげるわよ」
と、弁当箱を差し出した。
「サンキュー」
言うが早いか、美奈は弁当箱に手を延ばし、タコさんウインナーを一つしっけいした。
美奈は口をもぐもぐさせ、
「わかったわ、他ならぬタコさんのため、何とかしてみましょうか」
そう言って辺りをきょろきょろ見回した。
「えーっと、あ、いたいた。ねぇー、ゆ・た・か・くぅーん」
そう言って美奈は彼氏の豊を呼ぶと、
「…おまえが『くん』付けで呼ぶと、絶対なんかあるんだよなぁ」
とか言いながらやって来た。
「あんた、和弘君と親しかったよね」
美奈が聞くと、
「え?あぁ、そうだけど」
大した用事でなかった事に安心したのか、豊はほっとした口調で答えた。
「今度の土曜日、あたしとトモがあんたの家に遊びにいくから、あんた、和弘君を呼びなさい」
美奈のあまりにも決め付けた口ぶりに、
「なんで俺がそんなこと…それにそんな事急に言われても、和弘にだって予定が…」
と豊は反論した。
もっともな反応である。
しかしその言葉をなんとも思わないかのように、美奈は
「何とかしなさい、わかったわね」
きっぱりと言った。
その口調に豊は、
「ちょっと待て、だから何で俺が…」
と言いかけたところ、美奈は急に優しい口調に変わり、
「ねぇ、豊くん…あなたこの間あたしのお弁当箱から、ミートボール持ってったわよね」
と言った。
その言葉を聞いて豊の表情は固くなった。
「いや、あの、あれは…」
しどろもどろになった豊を玩ぶように、
「あれ、最後の一個だったのよねぇ…」
どこか遠いところを見るような視線で、美奈は続けた。
やがて豊は観念したのか、
「…わかったよ、何とかしてみるよ」
それを聞いて美奈は、
「あら悪いわねぇ、何だか無理矢理やらせちゃってるみたいで」
にっこり笑ってそう言った。
豊は黙っていたが、目は何か言いたそうだった。
「あ、それからお菓子と飲み物、あんたが準備するのよ」
そして土曜日。
智子,美奈,豊,そして和弘。
この四人が集まって、豊の家でささやかなパーティーが催されていた。
お菓子、ジュース、それと「ストロベリー○○」とか「バイオレット××」とかいうラベルが貼ってある瓶が何本か。
アル・カポネが見たらどんな顔をするだろう。
まぁそれは置いといて。
同じクラスの連中が集まっているので、主にクラスメートの噂やら先生の悪口なんかで盛り上がっていた。
「さぁっ!盛り上がってきたところで!」
美奈が口を開いた。
「せっかく男女四人が集まったんだから、もうちょっと盛り上がる催しをしましょう!さてここで問題です。四人集まって盛り上がる催しと言えば?」
「…麻雀?」
豊がぼそっと言った。
部屋の中に軽快な音が響き、美奈の後ろで豊が頭を抱えながらのたうち回っていた。
美奈はそれを無視して、
「盛り上がる催しと言えば、これよ、こ・れ」
そう言いながら美奈は、荷物の中から小振りな王冠モドキを取り出した。
その王冠モドキには、大手ハンバーガーチェーンのマークが入っていた。
確かこれは持ち出し禁止だった様な気がしたけど、美奈はそんな事ちっとも気にしていなかった。
「王様!げぇーむっ!」
やたらとテンションが高い。
「もうルールは一々言わなくてもわかるわよね、はい、じゃこれ」
そう言いながら美奈は各人に大きめのキャラメルくらいのものを手渡した。
見るとそれぞれ「一萬」「二萬」「三萬」「四萬」と刻み込んであった。
麻雀の牌である。
智子が「一萬」、豊が「二萬」、和弘が「三萬」で美奈が「四萬」。
「番号札ね。それと…」
みんなの目の前に将棋の「歩」が四枚転がった。
「表が出た枚数が番号札と同じだからね」
麻雀牌に振り駒。
一歩間違えれば賭博の風景だが、健全なゲームである。何も後ろめたいことはない。
「じゃ、始めましょうか。あたしから振るよ」
そう言って美奈は振り駒をした。
じゅうたんの上で、駒が勢いよく転がっている。
やがて最後の一枚が動きを止めた。
「お…最初の王様は…トモちゃーん!」
そう言って美奈は、智子の頭に王冠モドキを被せた。
そして被せながら、
「チャンスだからね」
と耳打ちした。
智子の心臓はドキドキして、他のみんなに聞こえてしまうんじゃないかと思うほどだった。
三人の視線が智子に集中する。
智子はグラスに入ったピンク色の飲み物を一気に飲み干して、深呼吸を一回。
やがて思い切って口を開いた。
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