千物語

松田 かおる

文字の大きさ
上 下
53 / 57

わたしの居場所

しおりを挟む
仕事でミスをした。
ミスと言っても、気がついた同僚がフォローしてくれて回避できたような、小さなものだった。
同僚は、
「貸しイチね。今度スイーツ」
と笑って済ませてくれたけど、胸の奥に小さいトゲが刺さったような気持ちになってしまった。

そんな時は趣味のイラストを描いて、SNSにアップするに限る。
フォロワーのみんなは、わたしの描いた絵を評価してくれる。
「現実逃避」と人は言うかもしれないが、それがわたしの疲れた心の癒しどころのような物だった。



…また仕事でミスってしまった。
これも大したミスではなかったのだけど、その尻拭いを後輩にしてもらう羽目になってしまった。
「本当にごめんね、今度何かおごるよ」
せめてもの詫びにわたしがそう言うと、後輩は
「いいですよーそんなの。お互い様ですから」
と、カラカラと笑って辞退されたけど、わたしの心はグラグラと揺らいだ。

…こんなにミスばかりして、わたしは不要な人間なのかもしれない

そう考え始めるとどんどん後ろ向きな考えになってしまい、自分の背後で雑談をしながら笑っている同僚の声すら「わたしのことを笑っているのでは…」と勘ぐるようになってしまった。

そして仕事だけでなく、趣味のSNSに対しても、
-どうせ『いいね』をつけてくれるのはうわべだけで、本当は少しも『いい』とは思っていないんだ-
と考えるようになってしまい、絵を描くのを止めてしまった。



通勤電車に揺られていると、
「ねぇねぇ、この絵よくない?」
と、立っているわたしの前に座っている女性が話す声が聞こえた。
「そうかなあ、特にいいとも思わないけどなぁ」
相手がそう言うと、
「確かにすごく上手ってわけじゃないけどさ、落ち着く絵柄って言うのかな…ずっと見ていたくなっちゃうんだよね。最近更新してないみたいだけど」
と女性の方が返した。

…一体そんな風に見てもらってるなんて、誰の絵なんだろう。
失礼してスマホの画面を盗み見させてもらったら、わたしがアップしていた絵だった。
「『いいね』とフォローしちゃおーっと」
たったそれだけのことだったけど、『わたしのしていることは認められていたんだ』と思い直すことができた。

翌日、上司に呼ばれた。
「君の仕事のことなんだけどさ…」
『あぁ、お小言をもらうのか…』と思っていたら、
「お客様からとても評判いいよ。丁寧な仕事だって」
と褒められた。

…なんだ、勝手に『居場所がない』と思っていたのは、わたしだけだったのか…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

恥ずかしすぎる教室おねしょ

カルラ アンジェリ
大衆娯楽
女子中学生の松本彩花(まつもと あやか)は授業中に居眠りしておねしょしてしまう そのことに混乱した彼女とフォローする友人のストーリー

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

おねしょ合宿の秘密

カルラ アンジェリ
大衆娯楽
おねしょが治らない10人の中高生の少女10人の治療合宿を通じての友情を描く

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...