千物語

松田 かおる

文字の大きさ
上 下
25 / 43

最後の魔法使い

しおりを挟む
「…とうとう来た」
私は夜空に一際大きく輝くスーパームーンを見上げながら呟いた。

私はいわゆる「魔法使い」と呼ばれている。
しかも「世界で最後の」という前書きがついている。
別に他の魔法使いが「魔女狩り」に遭ってしまった…というわけではない。
この文明が発達した社会に「必要がなくなった」のだ。

魔法が全盛だった昔とは違って、今は何でも機械がこなしてくれる。
 蛇口をひねれば水が出る。
 スイッチひとつで灯りがともる。
 長距離移動はホウキの代わりに飛行機で。
「高度に進んだ文明は、魔法と区別がつかなくなる」とは、よく言ったものだ。
そんな進んだ文明あふれる世の中に、魔法が必要なくなったのだ。

世界中に何人もいた魔法使いも一人、また一人と姿を消していった。
年老いていく者、自ら魔法を捨てた者。
やがて「魔法使い」は、私が最後の一人になってしまったのだ。

私自身、魔法使いであり続ける大きな理由は特にない。
たまたま私が最後の一人になっただけのこと。

なので私が最後の一人になった時、ある決意をした。
「最後の魔法使い、一世一代の大魔法」をかけてやろう…と。
それから私は色々な下準備を進めて、やっと今日、最後の大魔法の準備が整った。

町で一番高い場所にある丘の上に立って、深呼吸をひとつ。
さぁ、最後の魔法使いの最後の魔法の発動だ。
多分、私の持つ魔力の全てを注がないと成功できないだろう。
全神経を最後の魔法に集中する。
そして「ここだ!」と思ったタイミングで、一気に全ての魔力を解き放つ。
私の体から、魔力がどんどん吐き出されていくのが判る。
やがてほとんど全ての魔力を吐き出して、最後の魔法がかけ終わった。
その瞬間、「最後の魔法使い」はこの世からいなくなった。



最後の魔法をかけてから一ヶ月。
世界は今までとほぼ変わらない日常が繰り返されている。
ただひとつ違うことといえば、世界中の人が「小さな魔法」を身につけていること。
とはいっても大それたものではなく、「生活にちょっとしたプラスになる力を発揮する魔法」だ。

あの日私は、「世界中のみんなが魔法を持つ」魔法をかけた。
みんなが魔法を持てば、それはもう魔法ではなく「その人々の個性」になるのだ。

私もほとんどの魔力をなくしてしまって、今では「酸っぱいみかんを甘くする」程度の力しか無くなってしまった。
でも、それでもいいと私は思う。
「魔法使い」だって、きっと最初はその程度の力しか持っていなかったのだから…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

バーチャル女子高生

廣瀬純一
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

処理中です...