千物語

松田 かおる

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冷めたホットサンド

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先週、そこそこの間付き合っていた彼と別れた。

別に喧嘩をしたわけじゃないのだけれど、長いこと付き合っているうちに
「なんとなく違うかも」
という感情が芽生えていたのだ。
彼も同じようなことを感じていたらしく、特に揉めることもなくあっさり別れた。



「…あー、やっちゃった」
土曜日の朝。
ホットサンドメーカーで焼きあがった二人分のホットサンドを見て、思わずわたしはつぶやいた。

今までの癖で二人分作ってしまったのだ。
さすがに一人では一度に食べきれない量なので、作りすぎた分はお昼にでも食べることにした。



翌日、日曜日。
思うところがあって、彼を家に招いて昼食をごちそうした。
二つ返事…というほどではなかったけれど、彼は来てくれた。

早速食事を出す。
「…何これ?」
彼は目の前に置かれた「冷めたホットサンド」を見てつぶやく。
別に意地悪で出したわけではないので、
「まあまあ、いいから食べてみてよ」
と勧める。
彼は気乗りしなさそうに一口かじると、
「マズい」
とつぶやいた。
もちろんそれはわたしも解っている。
改めて暖かいホットサンドを出す。
彼は
「うん、やっぱりこっちがうまい」
と、少し顔をほころばせた。

「ね、食べながらでいいから聞いて?」
わたしはホットサンドを食べている彼に向かって言う。
「わたしも昨日冷めたホットサンド食べたんだけどさ、同じ感想だったのよね」
「……」
「確かにあったかい時と比べたらマズかったんだけど、なんていうか、『冷めて少し味が出た感じ』がしたのよね」
「…それで?」
ホットサンドを飲み下した彼が口を開く。
「…時間が経っても悪くなるだけじゃなく、今までとは違った面も見せてくれるんだな…って思って」
「……」
「そしたら、不意にあなたのことを思い出しちゃって…」
彼はお茶を一口飲んで、わたしの言葉を待っている。
「つまり、冷めちゃったから見えてくるものもあるのかな…って。だからわがままなお願いだってわかってるんだけど…またやり直せない…かな?」

そう続けたわたしの言葉を受けて、彼は少しの間考えるような表情を見せる。

「…俺は、あったかい方のがいいなぁ」
やがて彼が口を開く。
「でも、冷めたものを『同じ具材』で作り直すのもいいとも思う」
「…それじゃあ」
「そういうのもありかなぁ…って」
その言葉を聞いたわたしの顔を見て、
「じゃあ、改めて新しくホットサンドを作りなおして、熱いお茶でも淹れてもらおうかな」
そう言って彼はにこりと笑った。
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