千物語

松田 かおる

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満月の夜に…

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毎日仕事で忙しくしていることもあって、週末は落ち着いて過ごすようにしている。

特に夜は、誰にも会わず、誰とも話さず、一人のんびりと過ごす時間を楽しんでいる。

ベランダ沿いの窓際にテーブルを持っていき、部屋の電気をすべて消して、お気に入りの落ち着いた音楽をかけながら、一人ひっそりとお酒を飲むのだ。

テレビもつけない。
スマートフォンの電源も切っておく。
人工の光はすべて消し、部屋を照らすのは夜空に浮かぶ月の光だけ。
今日のような「満月の夜」は、月明かりが部屋の中を柔らかく照らしてくれるので、それだけで十分だ
青白い中にも暖かみを感じさせる光に照らされて、ひとくち、またひとくちとお酒を進める…

聞こえてくるのはスマートスピーカーから低く流れてくる、お気に入りの音楽。
一週間で一番、リラックスする時間だ。

「『月が綺麗ですね』は、『I love you』の意味」とか言われてるんだっけ?
綺麗なものは綺麗、それだけでいいじゃない…
そんなことを考えながら、お酒をひとくち飲み進める。




…気が付いたら、スマートスピーカーからの音楽が止まっていた。
少しうたたねをしてしまっていた。
アルコールと月の光が、心身ともにほどよくリラックスさせてくれたようだ。
けれども目が覚めたのと同時に、ベランダとは反対側の部屋の入口に、かすかな気配を感じた。
月明かりが届かない闇の中に目を凝らしてみると、一つの人影があった。

…いつの間に、いったい誰が?

少し警戒しながら気配がする方にさらに視線を集中すると、その影がこちらに向かって歩み寄ってきた。
一瞬身構えると、
「おねぇー!」
と、聞きなれた声が聞こえてきた。
月明かりの中に、大学に通っている妹の顔がはっきりと照らし出された。

「どうしたのよ?来るなら来るで連絡くらいしなさいよ」
「したよ。でもおねぇの電話つながらなかったし…」
そうだった、電源切ってたんだったっけ…
そう思い出してスマートフォンの電源を入れなおすと、着信履歴が結構な件数になっていた。
「ごめんごめん。で、どうしたのよ一体?」
「やけ酒に付き合って!」
「ははーん、あんたまた振られたのね?」
「そうよ、だから今夜は付き合って。ほら、ちゃんとお酒とおつまみも買ってきたから!」

…どうやら落ち着いた週末はこれで終わりのようだ。
でもかわいい妹のためだ、それでもいいかもしれない。

私は軽く苦笑いをして、スマートスピーカーに部屋の電気をつけるよう命令した。
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