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しおりを挟む「んー?」
真菜が目を上げると、そこには「これでもか」と言うくらいに真っ赤な服を着た男の背中があった。
サンタクロースだった。
もちろんホンモノのサンタクロースではなく、どこかのお店のキャンペーンか何かでサンタの格好をしているだけなのであろう。
その証拠に、サンタの片手には分厚いビラの束が握られていた。
サンタは振り向いて、突然背中にぶつかってきた酔っ払い女に驚いているのか、それとも何か他の理由があるのか、つけヒゲと目深にかぶったキャップの奥で、ほんの一瞬びくっと驚いたような表情を見せた。
「あらー、サンタさんだぁ。 お仕事大変ねぇ」
と、どことなくいやみったらしい口調で話し掛けた。
大変に酔っ払ってしまっている真菜にホンモノとニセモノの区別がつくわけがなく、真菜はどうやらホンモノのサンタと勘違いしてしまっているようであった。
そして当のサンタは、突然目の前に現れた酔っ払い女に対してどう扱えばいいのかわからないのか、つけヒゲと目深にかぶったキャップの奥で、またどこか困ったような表情を浮かべた。
「…どうぞ」
つけヒゲのせいでくぐもった声で、サンタは手に持っていたビラを一枚、真菜に渡した。
ところが真菜は受け取ったビラを「ふん」と一瞥しただけで、くしゃっと握りつぶしてしまい、
「…こんなビラなんかいらないわよ。 あんた、サンタだったらもうちょっと気の利いたプレゼントよこしなさいよぉ」
と、サンタに言った。
そう言われたサンタがどうしていいのかわからないでいると、真菜は、
「わかんないのぉ? あたしが今いちばん欲しいプレゼントはねぇ、こんなビラなんかじゃなくって…」
そう言ってくしゃくしゃになったビラを道端に捨てて、
「あたしの目の前にすぐ慎也君を連れてきてよ!」
と、つい大きな声で言ってしまった。
そう言われたサンタが、またもどうしていいのかわからずにいると、
「ねぇ、あんたサンタなんでしょ、サンタだったらこれくらいのお願いなんて事ないでしょ? ねぇ、慎也君をすぐここに連れてきてよ」
と、真菜は言った。
もちろんニセモノサンタにそんな事が出来るわけもなく、ただただその場に立ったままでいると、真菜はフンと鼻を鳴らすと、
「もういいわよ。 使えないサンタね…」
そう言ってサンタから離れると、またふらふらと歩き始めた。
酔っ払って歩いていても、真菜の目と耳には、いやでも景色と音が飛び込んでくる。
きれいに飾られたお店のディスプレイ、そこここから流れてくるクリスマス・ソング、そしてあちこちでいちゃいちゃしているアベックども…
-また気分が悪くなってきた-
真菜の胸の奥で、またムカムカが大きくなり始めた。
『明日は休みだし、もう一軒寄って行こうかしら…』
そんな事を考えながら、おぼつかない足取りで真菜は歩いていた。
真菜が目を上げると、そこには「これでもか」と言うくらいに真っ赤な服を着た男の背中があった。
サンタクロースだった。
もちろんホンモノのサンタクロースではなく、どこかのお店のキャンペーンか何かでサンタの格好をしているだけなのであろう。
その証拠に、サンタの片手には分厚いビラの束が握られていた。
サンタは振り向いて、突然背中にぶつかってきた酔っ払い女に驚いているのか、それとも何か他の理由があるのか、つけヒゲと目深にかぶったキャップの奥で、ほんの一瞬びくっと驚いたような表情を見せた。
「あらー、サンタさんだぁ。 お仕事大変ねぇ」
と、どことなくいやみったらしい口調で話し掛けた。
大変に酔っ払ってしまっている真菜にホンモノとニセモノの区別がつくわけがなく、真菜はどうやらホンモノのサンタと勘違いしてしまっているようであった。
そして当のサンタは、突然目の前に現れた酔っ払い女に対してどう扱えばいいのかわからないのか、つけヒゲと目深にかぶったキャップの奥で、またどこか困ったような表情を浮かべた。
「…どうぞ」
つけヒゲのせいでくぐもった声で、サンタは手に持っていたビラを一枚、真菜に渡した。
ところが真菜は受け取ったビラを「ふん」と一瞥しただけで、くしゃっと握りつぶしてしまい、
「…こんなビラなんかいらないわよ。 あんた、サンタだったらもうちょっと気の利いたプレゼントよこしなさいよぉ」
と、サンタに言った。
そう言われたサンタがどうしていいのかわからないでいると、真菜は、
「わかんないのぉ? あたしが今いちばん欲しいプレゼントはねぇ、こんなビラなんかじゃなくって…」
そう言ってくしゃくしゃになったビラを道端に捨てて、
「あたしの目の前にすぐ慎也君を連れてきてよ!」
と、つい大きな声で言ってしまった。
そう言われたサンタが、またもどうしていいのかわからずにいると、
「ねぇ、あんたサンタなんでしょ、サンタだったらこれくらいのお願いなんて事ないでしょ? ねぇ、慎也君をすぐここに連れてきてよ」
と、真菜は言った。
もちろんニセモノサンタにそんな事が出来るわけもなく、ただただその場に立ったままでいると、真菜はフンと鼻を鳴らすと、
「もういいわよ。 使えないサンタね…」
そう言ってサンタから離れると、またふらふらと歩き始めた。
酔っ払って歩いていても、真菜の目と耳には、いやでも景色と音が飛び込んでくる。
きれいに飾られたお店のディスプレイ、そこここから流れてくるクリスマス・ソング、そしてあちこちでいちゃいちゃしているアベックども…
-また気分が悪くなってきた-
真菜の胸の奥で、またムカムカが大きくなり始めた。
『明日は休みだし、もう一軒寄って行こうかしら…』
そんな事を考えながら、おぼつかない足取りで真菜は歩いていた。
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