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じゅぅぅ…
ソースの焦げるいいにおいと音が、店じゅうに広がっている。
とあるお好み焼き屋さん、映画を見終わった二人が軽い夕食代わりに入った店である。
「で? さっきはどうしたの? あんなところで?」
慎也がグラスにビールを注ぎながら真菜に聞いた。
「あんなところって、宝石屋さんのこと? …よっ」
真菜がお好み焼きをひっくり返しながら言った。
「そう、あの宝石屋さんのこと。 なんであんなところにいたのかなぁ、って思ってさ… あ、だめだよそんなに押しつけちゃ」
「何言ってんのよ、押し付けるからおいしいんじゃない。 まぁ、ただボーっとして待ってるのもなんだったから、ちょっと冷やかしで入ってみたのよ、そしたら…」
「見事につかまった、と」
ビールをひとくち飲みながら慎也が言うと、
「ま、そう言うわけ…」
と、お好み焼きにソースを塗りながら真菜が応えた。
「何かお気に入りのものでもあったの?」
何の気なしに慎也が聞くと、
「…結構いいデザインの指輪があったんだけど、ちょっと高すぎて…」
へらでお好み焼きを切り分けながら、真菜は言った。
「じゃぁさ、クリスマスのプレゼントにでもその指輪を買ってあげようか?」
慎也が言うと、真菜はにこっと微笑んで、
「ううん、いいよぉ。 その気持ちだけで十分うれしいわ。 はい、焼けたわよ」
そう言うと、切り分けたお好み焼きを慎也の皿に乗せてあげた。
「あ、ありがと」
お好み焼きが出来あがったので、さっきの店での出来事はとりあえず一時中断となった。
しばらくの間無言でお好み焼きを食べていたが、
「そう言えばさぁ…」
と、お好み焼きを飲み込んで、真菜が口を開いた。
「指輪って言えばさぁ、さっきの映画の前に流してたCMがあったじゃない?」
真菜に聞かれて、慎也はすぐに『あぁ、あれか』と思い出した。
「あー、あのどしゃ降りの小屋の中で指輪を渡す… ってやつ?」
「そーそー、なんだか古臭い作りのCM」
真菜がお好み焼きをひとくち食べながら言った。
「あのCMがどうかしたの?」
「あれさぁ、どう思う?」
「まぁ、よくあんな古臭い作りのCMを今でも流してるよなぁ。 でもかえって貴重かもしれないなぁ」
「…違うわよ。 CMのシチュエーションの話よ。 あたしイヤだな、ああいうのって。 なんかわざとらしくって」
「そうかなぁ? ぼくは結構ああいうのって好きだなぁ。 せっかくなんだから、それなりに劇的にってのも、ねぇ」
「あたしは、フツーに渡してくれるだけでも十分だと思うけどなぁ…」
「そんなもんかなぁ?」
「そんなもんよ」
そこで会話がなんとなく一段落ついたので、二人はまたお好み焼きを食べ始めた。
店の中には相変わらず、ソースの焦げるいいにおいと音が広がっていた。
ソースの焦げるいいにおいと音が、店じゅうに広がっている。
とあるお好み焼き屋さん、映画を見終わった二人が軽い夕食代わりに入った店である。
「で? さっきはどうしたの? あんなところで?」
慎也がグラスにビールを注ぎながら真菜に聞いた。
「あんなところって、宝石屋さんのこと? …よっ」
真菜がお好み焼きをひっくり返しながら言った。
「そう、あの宝石屋さんのこと。 なんであんなところにいたのかなぁ、って思ってさ… あ、だめだよそんなに押しつけちゃ」
「何言ってんのよ、押し付けるからおいしいんじゃない。 まぁ、ただボーっとして待ってるのもなんだったから、ちょっと冷やかしで入ってみたのよ、そしたら…」
「見事につかまった、と」
ビールをひとくち飲みながら慎也が言うと、
「ま、そう言うわけ…」
と、お好み焼きにソースを塗りながら真菜が応えた。
「何かお気に入りのものでもあったの?」
何の気なしに慎也が聞くと、
「…結構いいデザインの指輪があったんだけど、ちょっと高すぎて…」
へらでお好み焼きを切り分けながら、真菜は言った。
「じゃぁさ、クリスマスのプレゼントにでもその指輪を買ってあげようか?」
慎也が言うと、真菜はにこっと微笑んで、
「ううん、いいよぉ。 その気持ちだけで十分うれしいわ。 はい、焼けたわよ」
そう言うと、切り分けたお好み焼きを慎也の皿に乗せてあげた。
「あ、ありがと」
お好み焼きが出来あがったので、さっきの店での出来事はとりあえず一時中断となった。
しばらくの間無言でお好み焼きを食べていたが、
「そう言えばさぁ…」
と、お好み焼きを飲み込んで、真菜が口を開いた。
「指輪って言えばさぁ、さっきの映画の前に流してたCMがあったじゃない?」
真菜に聞かれて、慎也はすぐに『あぁ、あれか』と思い出した。
「あー、あのどしゃ降りの小屋の中で指輪を渡す… ってやつ?」
「そーそー、なんだか古臭い作りのCM」
真菜がお好み焼きをひとくち食べながら言った。
「あのCMがどうかしたの?」
「あれさぁ、どう思う?」
「まぁ、よくあんな古臭い作りのCMを今でも流してるよなぁ。 でもかえって貴重かもしれないなぁ」
「…違うわよ。 CMのシチュエーションの話よ。 あたしイヤだな、ああいうのって。 なんかわざとらしくって」
「そうかなぁ? ぼくは結構ああいうのって好きだなぁ。 せっかくなんだから、それなりに劇的にってのも、ねぇ」
「あたしは、フツーに渡してくれるだけでも十分だと思うけどなぁ…」
「そんなもんかなぁ?」
「そんなもんよ」
そこで会話がなんとなく一段落ついたので、二人はまたお好み焼きを食べ始めた。
店の中には相変わらず、ソースの焦げるいいにおいと音が広がっていた。
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