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家に帰ると、あたしは一直線に本堂に向かった。
すでに本堂はみんな出払った後で、がらんとしていた。
けれどもさすがに一回で運べる荷物の量は限られているので、地区別に区分けされているプレゼントが、まだまだうず高く詰まれていた。
あたしはすがる思いで、プレゼントの山の一角を探り始めた。
山ほど詰まれているプレゼントの中からたった一つのプレゼントを探すのは骨が折れたけれども、小一時間ほどして、
「きのもと みくちゃんへ」
と書いてある小さな包みを見付けた時、あたしは心の底からほっとした。
あたしは電話を取り出して、雄治の家に電話をかけた。
「はい、木之本です」
「もしもし、由加里です」
「あ、由加里さん」
「美久ちゃんの具合がちょっと気になって… どう、具合は?」
「うん、なんとか熱が下がって、今やっと落ち着いたところだよ。 本当に心配かけてごめんね」
と、雄治は相変わらず申し訳なさそうな口調で言う。
「よかった… それじゃもう安心ね」
あたしがホっとした声を出すと、雄治は、
「本当にごめんね。 せっかく楽しみにしていたのに…」
と、更に申し訳なさそうな口調で謝り始めた。
あたしはなおも謝り続けようとする雄治をなだめて、
「そうだ、もしよかったらで構わないんだけど、今から美久ちゃんのお見舞いに行ってもいいかしら?」
と言った。
すると雄治は、
「本当? もしそうしてもらえると、美久も喜ぶよ。 こんな立場だから、こっちから『来てくれ』とは言えないけど、もし本当に来てくれるなら、大歓迎だよ」
と、うれしそうに言った。
「わかったわ。 じゃぁ今から準備して、お見舞いに行くわ。 でも、美久ちゃんには内緒ね。 ちょっと驚かせたいから」
そう言って電話を切ると、あたしはその小さな包みを持って、もう一度本堂を後にした。
アベックだらけの商店街を抜けて、建物の中から楽しそうなクリスマス・ソングの流れてくる幼稚園の前を通り過ぎて、雄治の家に着いたのは、それから一時間くらい経った頃だった。
あたしは雄治の家の玄関の前に立った。
まだ雄治達の両親は帰ってきていないようで、美久ちゃんの部屋の電気だけが、カーテンに隔てられて、柔らかく点っていた。
周りの家は、家中の電気が明々と点されて、楽しそうな雰囲気が染みだしてきているようだった。
あたしは玄関に立って、チャイムを鳴らそうとしたけれど、思い止まってそのままそっと庭に抜けた。
庭を見回すと、たまたま折り畳み式の脚立が庭の隅っこに置いてあった。
あたしはそれを持ってきて、美久ちゃんの部屋のベランダに横付けするように脚立を伸ばして、据え付けた。
そして音を立てないように静かに脚立を昇って、ベランダに立った。
耳を済ますと、少し具合がよくなったのか、中から雄治と美久ちゃんの話し声が聞こえる。
『美久、カゼひいちゃったから、今年はサンタさん、来ないかなぁ』
『大丈夫だよ、美久はいつもいい子にしてるから、きっとサンタさんは来るよ』
『本当?』
『あぁ、本当さ。 だからもう少しおとなしくして、カゼをちゃんと治そうね。 サンタさんにカゼを移しちゃいけないからね』
『はぁい』
よかった、元気になったみたい…
あたしはほっと胸を撫で降ろした。
それから深呼吸を一回して、窓ガラスを小さくノックした。
窓のカーテンが開いて、そこに雄治の顔が現われた。
あたしの顔を見た雄治は、一瞬何が起こったのか分からなかったみたいだけれど、外に立っているのがあたしだと気付くと、すぐに窓を開けてくれた。
あたしは靴を脱いで、開いた窓から部屋に入った。
そしてベッドに入っている美久ちゃんに向かって、
「メリー・クリスマス、美久ちゃん」
と言って、小さな包みを渡した。
始め美久ちゃんは何が起こったか全く分からないみたいだったけれど、しばらくすると小さな目をぱちぱちさせて、
「サンタのお姉さん…本当にサンタさんだったんだ!」
と、本当にうれしそうに言った。
その時あたしは、家から一着失敬してきたサンタ・スタイルで固めていた。
赤い上着に赤い長靴、赤い帽子…
それを見た美久ちゃんは、あたしを本当のサンタだと思ってくれたのだ。
まぁ、ある意味では本物のサンタでもあるけれど…
「そうよ。 美久ちゃんはいつもいい子にしているから、今日はサンタのお姉ちゃんが、プレゼントを持ってきたの」
あたしがそう言うと、美久ちゃんは目をきらきらさせながら、
「ありがとう! サンタのお姉さん!」
と、心の底からうれしそうな声で言った。
それから美久ちゃんと少し遊んで、ほんの少しだけワインをたらしたホットミルクを美久ちゃんに飲ませて寝かし付けて、雄治の両親と入れ替わりに家を後にした頃には、時計はすでに12時を回っていた。
すでに辺りは静まり返っていて、あたしの歩く足音だけが響いていた。
すでに本堂はみんな出払った後で、がらんとしていた。
けれどもさすがに一回で運べる荷物の量は限られているので、地区別に区分けされているプレゼントが、まだまだうず高く詰まれていた。
あたしはすがる思いで、プレゼントの山の一角を探り始めた。
山ほど詰まれているプレゼントの中からたった一つのプレゼントを探すのは骨が折れたけれども、小一時間ほどして、
「きのもと みくちゃんへ」
と書いてある小さな包みを見付けた時、あたしは心の底からほっとした。
あたしは電話を取り出して、雄治の家に電話をかけた。
「はい、木之本です」
「もしもし、由加里です」
「あ、由加里さん」
「美久ちゃんの具合がちょっと気になって… どう、具合は?」
「うん、なんとか熱が下がって、今やっと落ち着いたところだよ。 本当に心配かけてごめんね」
と、雄治は相変わらず申し訳なさそうな口調で言う。
「よかった… それじゃもう安心ね」
あたしがホっとした声を出すと、雄治は、
「本当にごめんね。 せっかく楽しみにしていたのに…」
と、更に申し訳なさそうな口調で謝り始めた。
あたしはなおも謝り続けようとする雄治をなだめて、
「そうだ、もしよかったらで構わないんだけど、今から美久ちゃんのお見舞いに行ってもいいかしら?」
と言った。
すると雄治は、
「本当? もしそうしてもらえると、美久も喜ぶよ。 こんな立場だから、こっちから『来てくれ』とは言えないけど、もし本当に来てくれるなら、大歓迎だよ」
と、うれしそうに言った。
「わかったわ。 じゃぁ今から準備して、お見舞いに行くわ。 でも、美久ちゃんには内緒ね。 ちょっと驚かせたいから」
そう言って電話を切ると、あたしはその小さな包みを持って、もう一度本堂を後にした。
アベックだらけの商店街を抜けて、建物の中から楽しそうなクリスマス・ソングの流れてくる幼稚園の前を通り過ぎて、雄治の家に着いたのは、それから一時間くらい経った頃だった。
あたしは雄治の家の玄関の前に立った。
まだ雄治達の両親は帰ってきていないようで、美久ちゃんの部屋の電気だけが、カーテンに隔てられて、柔らかく点っていた。
周りの家は、家中の電気が明々と点されて、楽しそうな雰囲気が染みだしてきているようだった。
あたしは玄関に立って、チャイムを鳴らそうとしたけれど、思い止まってそのままそっと庭に抜けた。
庭を見回すと、たまたま折り畳み式の脚立が庭の隅っこに置いてあった。
あたしはそれを持ってきて、美久ちゃんの部屋のベランダに横付けするように脚立を伸ばして、据え付けた。
そして音を立てないように静かに脚立を昇って、ベランダに立った。
耳を済ますと、少し具合がよくなったのか、中から雄治と美久ちゃんの話し声が聞こえる。
『美久、カゼひいちゃったから、今年はサンタさん、来ないかなぁ』
『大丈夫だよ、美久はいつもいい子にしてるから、きっとサンタさんは来るよ』
『本当?』
『あぁ、本当さ。 だからもう少しおとなしくして、カゼをちゃんと治そうね。 サンタさんにカゼを移しちゃいけないからね』
『はぁい』
よかった、元気になったみたい…
あたしはほっと胸を撫で降ろした。
それから深呼吸を一回して、窓ガラスを小さくノックした。
窓のカーテンが開いて、そこに雄治の顔が現われた。
あたしの顔を見た雄治は、一瞬何が起こったのか分からなかったみたいだけれど、外に立っているのがあたしだと気付くと、すぐに窓を開けてくれた。
あたしは靴を脱いで、開いた窓から部屋に入った。
そしてベッドに入っている美久ちゃんに向かって、
「メリー・クリスマス、美久ちゃん」
と言って、小さな包みを渡した。
始め美久ちゃんは何が起こったか全く分からないみたいだったけれど、しばらくすると小さな目をぱちぱちさせて、
「サンタのお姉さん…本当にサンタさんだったんだ!」
と、本当にうれしそうに言った。
その時あたしは、家から一着失敬してきたサンタ・スタイルで固めていた。
赤い上着に赤い長靴、赤い帽子…
それを見た美久ちゃんは、あたしを本当のサンタだと思ってくれたのだ。
まぁ、ある意味では本物のサンタでもあるけれど…
「そうよ。 美久ちゃんはいつもいい子にしているから、今日はサンタのお姉ちゃんが、プレゼントを持ってきたの」
あたしがそう言うと、美久ちゃんは目をきらきらさせながら、
「ありがとう! サンタのお姉さん!」
と、心の底からうれしそうな声で言った。
それから美久ちゃんと少し遊んで、ほんの少しだけワインをたらしたホットミルクを美久ちゃんに飲ませて寝かし付けて、雄治の両親と入れ替わりに家を後にした頃には、時計はすでに12時を回っていた。
すでに辺りは静まり返っていて、あたしの歩く足音だけが響いていた。
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