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それから取り留めもない話をしばらくしているうちにお互いに打ち解けてきた頃、雄治が思い出したように腕時計を見て、
「あ、しまった。 もうこんな時間だ」
と、少しあたふたしはじめた。
「あら、誰かとお約束?」
とあたしが茶化すと、雄治は、
「妹を迎えに行かなくちゃいけないんだ」
と、まじめそのものの口調で答えた。
「妹さん?」
「そう、両親が共働きだから、僕が妹を迎えに行く役なんだ」
と答えた。
「ふーん…大変なのねぇ…」
あたしはそう言って、少しの間考えて、
「ね、あたしも一緒に妹さんを迎えに行っていい?」
と、まったくの思い付きで言ってみた。
いくらなんでも、今日初めて会った人にそこまで付き合わせる事はないだろう、我ながら無茶な事言っちゃったなぁ、と思っていたら、
「…うん、いいよ」
と、しばらく考えた後、雄治は特にいやがる様子もなくさらっと言って、
「じゃ、行こうか」
と言って、雄治が席を立ったので、あたしもそれについて行った。
店を出てから、あたし達はとりとめのない話をしながら歩いていた。
けれどもやっぱり話題になるのは、これから迎えに行く雄治の妹の事だった。
「ね、妹さんって、どんな子なの?」
と、あたしが聞くと、
「うん、まぁ、なんて言うのかな…幼稚園児だから夢があるっていうのかな…自分で言うのも何だけど、かわいい妹だよ」
「夢がある?」
「そう。 この時期になると特に大変なんだ」
「どうして?」
「妹は、サンタが本当にいるって信じてるんだ。 だから毎年クリスマス・イブになると、『今年はウチにサンタさんは来るの?』『サンタさんはどこにいるの?』って、何度も何度も聞いてくるんだ。 困ったもんだよ」
と言いながらも、雄治の表情はとってもうれしそうだった。
その様子を一目見るだけでも、雄治が妹をとても大事に思っているのだ、という事がわかった。
だから、『確かにサンタは本当にいるけれど、お寺と兼業で、いつもそこで寝起きしています』なんて夢のない事を言える訳がないので、あたしはそのまま黙っていた。
「あ、着いた着いた」
とある幼稚園の前で雄治は立ち止まると、
「妹を迎えに行ってくるから、少し待ってて」
雄治はそう言って、幼稚園の門をくぐっていった。
雄治に言われたとおり、しばらく門の前で待っていると、しばらくして中から、雄治と一緒に手をつないだ、かわいらしい女の子が出てきた。
「いやぁ、お待たせ。 由加里さん、これが妹の美久。 ほら美久、この人がさっき話した、由加里お姉ちゃんだよ」
そう言って雄治は、美久ちゃんをあたしの前に軽く押し出した。
あたしは腰を屈めて、
「はじめまして、美久ちゃん」
と、にっこり笑って挨拶をした。
すると美久ちゃんはしばらくあたしの顔をまじまじと見つめると、
「あー、サンタのお姉さんだぁ!」
と、うれしそうな口調で言った。
あたしはその一言を聞いて、一瞬ではあるけれど、本気で焦ってしまった。
『もしかしてこの子、あたしの家の事を知ってるんじゃ…』
そんな事を考えながらも、
「…どうして、サンタのお姉さんなのかな?」
と、にっこりした表情を変えずに聞いてみた。
すると美久ちゃんは、
「だって、サンタさんそっくりのお洋服、着てるんだもーん」
と言った。
確かにその時のあたしのファッションは、真っ赤とは言わないけれども、赤を基調とした服を着ていた。
たったそれだけでもあたしをサンタと間違えるくらいなのだから、美久ちゃんは本当にサンタがいると信じているんだろう。
普段はあれほどサンタはいやだと思っているのに、ここまで信じてもらえると、なんだかうれしい気分がした。
「こら、美久。 ダメじゃないか、急にそんな事言っちゃ」
雄治が困ったような口調で、美久ちゃんをたしなめた。
「えー、だってぇー」
と、美久ちゃんは何か不満そうだった。
あたしはそんな美久ちゃんの様子を見ているうちに、『まぁ、本人がそう思っているのを頭ごなしに押さえつけるのも何だし』という気分になって、
「まぁ、いいじゃない」
と雄治に言って、美久ちゃんの方に向き直りながら、
「じゃぁ美久ちゃん、サンタのお姉ちゃんと一緒に、お家に帰ろっか」
と言った。
すると美久ちゃんはにっこりと笑いながら、
「うん!」
と、力いっぱい首を縦に振った。
それ以来、あたしは美久ちゃんのお気に入りになったようだ。
初めて会ったその日でさえも、両親が帰ってくるまでの間、一緒に遊んだだけなのに、あたしが帰ると言うと、美久ちゃんはとても残念そうな顔をして、あたしと雄治を困らせた。
けれどもそのおかげで、自然とあたしと雄治との間も日に日に親しくなっていった。
時間のある時は雄治と一緒に美久ちゃんを迎えに行ったりしたし、雄治が時間の取れない時は、あたしが一人で迎えに行ったりもした。
そんな時でも、美久ちゃんは「サンタのお姉さんだぁ」と、とっても楽しそうだった。
そして気がつけば、カレンダーはクリスマス・イブの日付になっていた。
「あ、しまった。 もうこんな時間だ」
と、少しあたふたしはじめた。
「あら、誰かとお約束?」
とあたしが茶化すと、雄治は、
「妹を迎えに行かなくちゃいけないんだ」
と、まじめそのものの口調で答えた。
「妹さん?」
「そう、両親が共働きだから、僕が妹を迎えに行く役なんだ」
と答えた。
「ふーん…大変なのねぇ…」
あたしはそう言って、少しの間考えて、
「ね、あたしも一緒に妹さんを迎えに行っていい?」
と、まったくの思い付きで言ってみた。
いくらなんでも、今日初めて会った人にそこまで付き合わせる事はないだろう、我ながら無茶な事言っちゃったなぁ、と思っていたら、
「…うん、いいよ」
と、しばらく考えた後、雄治は特にいやがる様子もなくさらっと言って、
「じゃ、行こうか」
と言って、雄治が席を立ったので、あたしもそれについて行った。
店を出てから、あたし達はとりとめのない話をしながら歩いていた。
けれどもやっぱり話題になるのは、これから迎えに行く雄治の妹の事だった。
「ね、妹さんって、どんな子なの?」
と、あたしが聞くと、
「うん、まぁ、なんて言うのかな…幼稚園児だから夢があるっていうのかな…自分で言うのも何だけど、かわいい妹だよ」
「夢がある?」
「そう。 この時期になると特に大変なんだ」
「どうして?」
「妹は、サンタが本当にいるって信じてるんだ。 だから毎年クリスマス・イブになると、『今年はウチにサンタさんは来るの?』『サンタさんはどこにいるの?』って、何度も何度も聞いてくるんだ。 困ったもんだよ」
と言いながらも、雄治の表情はとってもうれしそうだった。
その様子を一目見るだけでも、雄治が妹をとても大事に思っているのだ、という事がわかった。
だから、『確かにサンタは本当にいるけれど、お寺と兼業で、いつもそこで寝起きしています』なんて夢のない事を言える訳がないので、あたしはそのまま黙っていた。
「あ、着いた着いた」
とある幼稚園の前で雄治は立ち止まると、
「妹を迎えに行ってくるから、少し待ってて」
雄治はそう言って、幼稚園の門をくぐっていった。
雄治に言われたとおり、しばらく門の前で待っていると、しばらくして中から、雄治と一緒に手をつないだ、かわいらしい女の子が出てきた。
「いやぁ、お待たせ。 由加里さん、これが妹の美久。 ほら美久、この人がさっき話した、由加里お姉ちゃんだよ」
そう言って雄治は、美久ちゃんをあたしの前に軽く押し出した。
あたしは腰を屈めて、
「はじめまして、美久ちゃん」
と、にっこり笑って挨拶をした。
すると美久ちゃんはしばらくあたしの顔をまじまじと見つめると、
「あー、サンタのお姉さんだぁ!」
と、うれしそうな口調で言った。
あたしはその一言を聞いて、一瞬ではあるけれど、本気で焦ってしまった。
『もしかしてこの子、あたしの家の事を知ってるんじゃ…』
そんな事を考えながらも、
「…どうして、サンタのお姉さんなのかな?」
と、にっこりした表情を変えずに聞いてみた。
すると美久ちゃんは、
「だって、サンタさんそっくりのお洋服、着てるんだもーん」
と言った。
確かにその時のあたしのファッションは、真っ赤とは言わないけれども、赤を基調とした服を着ていた。
たったそれだけでもあたしをサンタと間違えるくらいなのだから、美久ちゃんは本当にサンタがいると信じているんだろう。
普段はあれほどサンタはいやだと思っているのに、ここまで信じてもらえると、なんだかうれしい気分がした。
「こら、美久。 ダメじゃないか、急にそんな事言っちゃ」
雄治が困ったような口調で、美久ちゃんをたしなめた。
「えー、だってぇー」
と、美久ちゃんは何か不満そうだった。
あたしはそんな美久ちゃんの様子を見ているうちに、『まぁ、本人がそう思っているのを頭ごなしに押さえつけるのも何だし』という気分になって、
「まぁ、いいじゃない」
と雄治に言って、美久ちゃんの方に向き直りながら、
「じゃぁ美久ちゃん、サンタのお姉ちゃんと一緒に、お家に帰ろっか」
と言った。
すると美久ちゃんはにっこりと笑いながら、
「うん!」
と、力いっぱい首を縦に振った。
それ以来、あたしは美久ちゃんのお気に入りになったようだ。
初めて会ったその日でさえも、両親が帰ってくるまでの間、一緒に遊んだだけなのに、あたしが帰ると言うと、美久ちゃんはとても残念そうな顔をして、あたしと雄治を困らせた。
けれどもそのおかげで、自然とあたしと雄治との間も日に日に親しくなっていった。
時間のある時は雄治と一緒に美久ちゃんを迎えに行ったりしたし、雄治が時間の取れない時は、あたしが一人で迎えに行ったりもした。
そんな時でも、美久ちゃんは「サンタのお姉さんだぁ」と、とっても楽しそうだった。
そして気がつけば、カレンダーはクリスマス・イブの日付になっていた。
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