1 / 6
-1-
しおりを挟む
「こら由加里、待たんか!」
後ろから呼び止める父の声を無視して、あたしはすたすたと廊下を歩いていた。
どうせ父が何を言おうとしているのかはわかりきっているから、今さら聞きたくもない。
後ろからは相変わらず父があたしを呼び止めようとしているけど、その声は一切無視、そのまま歩き続けて玄関に着いた。
けれども玄関でブーツを履こうとした時、ファスナーがうまく上がらずに手間取っているうちに、遂に父に捕まってしまった。
「由加里、どこへ行くんだ」
そう言って父は、あたしの肩に手をかけた。
やたらと力がこもっていた。
あたしはその手を振り切るような勢いで振り返り、
「買い物よ! 別に家出するわけじゃないんだから、いいでしょ?」
と言ってやった。
けれど父も、
「買い物に行く暇があったら、父さんの話を聞かんか」
と、負けていない。
「どうせいつものアレでしょ? 聞き飽きたわよ」
と言うと、父は
「だったら話が早い、なぜ父さんの言うことを聞いてくれないんだ」
と、さらに食いついてきた。
「いやなモノはいやだって、いつも言ってるでしょ」
「なぜいやなんだ?」
「どうしてもよ! だって恥ずかしいもん」
いつもと同じパターンのくり返しだ。
「何が恥ずかしいんだ? サンタの仕事のどこが恥ずかしいというのだ?」
いったいどこに文句があるんだ、と言いたげに、父が言った。
この歳になってサンタサンタと口に出すこと自体恥ずかしかったけれど、それ以上にそのことを恥ずかしくさせている原因があることに、父は気付いているんだろうか?
「ウチの本職は何よ?」
わざとあたしが言ってやると、父は『何を言ってるんだ?』とでも言わんばかりの表情で、
「寺じゃないか。 由緒正しい浄土宗だ。」
と、涼しい顔で言ってのけた。
…ダメだ。 やっぱり気付いてない…
「あのね、とーさん…」
あたしはこれ以上はないくらいに呆れ果てた口調で言ってやった。
「どこの世界に、寺とサンタを一手に引き受けているウチがあるって言うのよ。 それに、ちっちゃい頃から『寺っ子』とか言われてさんざんバカにされてきた身にもなってみてよ。 大学に行っても『実家がお寺』って言うだけで、もう相手にされないのよ? この上サンタもやってますなんて言ったら、恥の上塗りよ」
けれども父は、本職がお坊さんだけあって、
「言いたい者には、言わせておけばよい」
と、妙に達観している。
「大体なんで、寺とサンタをいつまでも一緒にやってなきゃいけないのよ」
「ウチは先祖代々『世界サンタ連盟日本支部 関東地域第13地区担当』だからな」
あまりにもあたりまえな口調で、父は答えた。
「じゃぁそっちだけにしたらいいじゃないの」
「バカ言うな、サンタはあくまでもボランティアだ。 ウチの本職はあくまでも寺だ」
と、きっぱりと言ってのけた。
…ダメだ、これ以上何を言っても無駄だ。
「…もういいわ… とーさんの言いたいことは、よくわかったわ」
あたしが力なく言うと、父は、
「おぉそうか、わかってくれたか」
と、うれしそうな口調で言った。
けれどあたしは、そう言いながらにこにこ笑っている父に向かって、
「でもこれ以上何を言ってもムダよ! いくら言ってもあたしは絶対、サンタなんかやらないからねっ!」
と、びしっと言ってやった。
それを聞いた父が、何か言おうと口を開いた時、
「和尚様ー、檀家の方からお電話ですー」
と、奥から父を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ほらほら、電話の相手を待たせちゃいけないわよ」
とあたしが言うと、父は、
「仕方がない。 あとでまた、じっくりと話し合おう」
と言いながら、廊下の奥の方へ引っ込んでいった。
「あっかんべーぇ」
あたしは小声でつぶやきながら、父の背中にあかんべをしてやった。
後ろから呼び止める父の声を無視して、あたしはすたすたと廊下を歩いていた。
どうせ父が何を言おうとしているのかはわかりきっているから、今さら聞きたくもない。
後ろからは相変わらず父があたしを呼び止めようとしているけど、その声は一切無視、そのまま歩き続けて玄関に着いた。
けれども玄関でブーツを履こうとした時、ファスナーがうまく上がらずに手間取っているうちに、遂に父に捕まってしまった。
「由加里、どこへ行くんだ」
そう言って父は、あたしの肩に手をかけた。
やたらと力がこもっていた。
あたしはその手を振り切るような勢いで振り返り、
「買い物よ! 別に家出するわけじゃないんだから、いいでしょ?」
と言ってやった。
けれど父も、
「買い物に行く暇があったら、父さんの話を聞かんか」
と、負けていない。
「どうせいつものアレでしょ? 聞き飽きたわよ」
と言うと、父は
「だったら話が早い、なぜ父さんの言うことを聞いてくれないんだ」
と、さらに食いついてきた。
「いやなモノはいやだって、いつも言ってるでしょ」
「なぜいやなんだ?」
「どうしてもよ! だって恥ずかしいもん」
いつもと同じパターンのくり返しだ。
「何が恥ずかしいんだ? サンタの仕事のどこが恥ずかしいというのだ?」
いったいどこに文句があるんだ、と言いたげに、父が言った。
この歳になってサンタサンタと口に出すこと自体恥ずかしかったけれど、それ以上にそのことを恥ずかしくさせている原因があることに、父は気付いているんだろうか?
「ウチの本職は何よ?」
わざとあたしが言ってやると、父は『何を言ってるんだ?』とでも言わんばかりの表情で、
「寺じゃないか。 由緒正しい浄土宗だ。」
と、涼しい顔で言ってのけた。
…ダメだ。 やっぱり気付いてない…
「あのね、とーさん…」
あたしはこれ以上はないくらいに呆れ果てた口調で言ってやった。
「どこの世界に、寺とサンタを一手に引き受けているウチがあるって言うのよ。 それに、ちっちゃい頃から『寺っ子』とか言われてさんざんバカにされてきた身にもなってみてよ。 大学に行っても『実家がお寺』って言うだけで、もう相手にされないのよ? この上サンタもやってますなんて言ったら、恥の上塗りよ」
けれども父は、本職がお坊さんだけあって、
「言いたい者には、言わせておけばよい」
と、妙に達観している。
「大体なんで、寺とサンタをいつまでも一緒にやってなきゃいけないのよ」
「ウチは先祖代々『世界サンタ連盟日本支部 関東地域第13地区担当』だからな」
あまりにもあたりまえな口調で、父は答えた。
「じゃぁそっちだけにしたらいいじゃないの」
「バカ言うな、サンタはあくまでもボランティアだ。 ウチの本職はあくまでも寺だ」
と、きっぱりと言ってのけた。
…ダメだ、これ以上何を言っても無駄だ。
「…もういいわ… とーさんの言いたいことは、よくわかったわ」
あたしが力なく言うと、父は、
「おぉそうか、わかってくれたか」
と、うれしそうな口調で言った。
けれどあたしは、そう言いながらにこにこ笑っている父に向かって、
「でもこれ以上何を言ってもムダよ! いくら言ってもあたしは絶対、サンタなんかやらないからねっ!」
と、びしっと言ってやった。
それを聞いた父が、何か言おうと口を開いた時、
「和尚様ー、檀家の方からお電話ですー」
と、奥から父を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ほらほら、電話の相手を待たせちゃいけないわよ」
とあたしが言うと、父は、
「仕方がない。 あとでまた、じっくりと話し合おう」
と言いながら、廊下の奥の方へ引っ込んでいった。
「あっかんべーぇ」
あたしは小声でつぶやきながら、父の背中にあかんべをしてやった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
すこやか食堂のゆかいな人々
山いい奈
ライト文芸
貧血体質で悩まされている、常盤みのり。
母親が栄養学の本を読みながらごはんを作ってくれているのを見て、みのりも興味を持った。
心を癒し、食べるもので健康になれる様な食堂を開きたい。それがみのりの目標になっていた。
短大で栄養学を学び、専門学校でお料理を学び、体調を見ながら日本料理店でのアルバイトに励み、お料理教室で技を鍛えて来た。
そしてみのりは、両親や幼なじみ、お料理教室の先生、テナントビルのオーナーの力を借りて、すこやか食堂をオープンする。
一癖も二癖もある周りの人々やお客さまに囲まれて、みのりは奮闘する。
やがて、それはみのりの家族の問題に繋がっていく。
じんわりと、だがほっこりと心暖まる物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
マキノのカフェで、ヒトヤスミ ~Café Le Repos~
Repos
ライト文芸
田舎の古民家を改装し、カフェを開いたマキノの奮闘記。
やさしい旦那様と綴る幸せな結婚生活。
試行錯誤しながら少しずつ充実していくお店。
カフェスタッフ達の喜怒哀楽の出来事。
自分自身も迷ったり戸惑ったりいろんなことがあるけれど、
ごはんをおいしく食べることが幸せの原点だとマキノは信じています。
お店の名前は 『Cafe Le Repos』
“Repos”るぽ とは フランス語で『ひとやすみ』という意味。
ここに訪れた人が、ホッと一息ついて、小さな元気の芽が出るように。
それがマキノの願いなのです。
- - - - - - - - - - - -
このお話は、『Café Le Repos ~マキノのカフェ開業奮闘記~』の続きのお話です。
<なろうに投稿したものを、こちらでリライトしています。>
月の女神と夜の女王
海獺屋ぼの
ライト文芸
北関東のとある地方都市に住む双子の姉妹の物語。
妹の月姫(ルナ)は父親が経営するコンビニでアルバイトしながら高校に通っていた。彼女は双子の姉に対する強いコンプレックスがあり、それを払拭することがどうしてもできなかった。あるとき、月姫(ルナ)はある兄妹と出会うのだが……。
姉の裏月(ヘカテー)は実家を飛び出してバンド活動に明け暮れていた。クセの強いバンドメンバー、クリスチャンの友人、退学した高校の悪友。そんな個性が強すぎる面々と絡んでいく。ある日彼女のバンド活動にも転機が訪れた……。
月姫(ルナ)と裏月(ヘカテー)の姉妹の物語が各章ごとに交錯し、ある結末へと向かう。
【完結】四季のごちそう、たらふくおあげんせ
秋月一花
ライト文芸
田舎に住んでいる七十代の高橋恵子と、夫を亡くして田舎に帰ってきたシングルマザー、青柳美咲。
恵子は料理をするのが好きで、たまに美咲や彼女の娘である芽衣にごちそうをしていた。
四季のごちそうと、その料理を楽しむほのぼのストーリー……のつもり!
※方言使っています
※田舎料理です
すみません、妻です
まんまるムーン
ライト文芸
結婚した友達が言うには、結婚したら稼ぎは妻に持っていかれるし、夫に対してはお小遣いと称して月何万円かを恵んでもらうようになるらしい。そして挙句の果てには、嫁と子供と、場合によっては舅、姑、時に小姑まで、よってかかって夫の敵となり痛めつけるという。ホラーか? 俺は生涯独身でいようと心に決めていた。個人経営の司法書士事務所も、他人がいる煩わしさを避けるために従業員は雇わないようにしていた。なのに、なのに、ある日おふくろが持ってきた見合いのせいで、俺の人生の歯車は狂っていった。ああ誰か! 俺の平穏なシングルライフを取り戻してくれ~! 結婚したくない男と奇行癖を持つ女のラブコメディー。
※小説家になろうでも連載しています。
※本作はすでに最後まで書き終えているので、安心してご覧になれます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる