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第1章 沿ドニエストル(Transnistoria:トランスニストリア)境界の森編
ep10 清算
しおりを挟むシェンコ中佐「素晴らしい仕事だった。この地域のすべての住民に代わって、感謝を伝えたい」
「持って帰ってきた武器については、希望があればこちらで正規の価格で買い取らせてもらう」
「…。それ以外は、もう、帰ってもらって構わない。清算と、書類関連の仕事は総務の方へ行ってやってくれ」
「…。ほとんど全く力になれずに申し訳なく思ってる」
紗々「まあまあまあ、そんなこと言わずに」
ドストエフスカヤ「そうっすよ、そもそもここ、兵隊が殆ど東部に行ってていないし、十分やってくれましたよ」
「あと、持ってきた武器は差し上げるんで、そっちで使ってください。これから国境を通過する我々には不要ですので」
シェンコ中佐「ありがとう。この駐屯地は、金欠なので助かるよ」
紗々「で、これがスダコフ、クトゥズのパスポートとかその他身分証、財布です。写真は後でシステムに上げときますね」
シェンコ中佐「ああ、ありがとう」
ドストエフスカヤ「じゃ、行きますわ。上の、誰でしたっけ、シャラポフ大佐にもよろしく言っといてください」
「あ」
ドアに向かおうとして止まるドストエフスカヤ。
「ところでプレゼントがあるんですが。紗々、頼むわ」
紗々「これ、どうぞ」
シェンコの机の上にスダコフとクトゥズなどから外してきた貴金属、時計を置く紗々。時計などが机の上でゴトリと音を立てた。
シェンコ中佐「これは…」
ドストエフスカヤ「トゥマンの幹部が身に着けてた、貴金属ですわ」
紗々「この任務に向けて、動いてくれた方全員への餞別です。我々はもう、同志ですからね!へへ」
「とか言いつつ、まあ、証拠品でもあるんで、われわれのものじゃないで、提出するのは当然と言えば当然ですが」
シェンコ中佐「これ、証拠として預かるぞ…。いいのか」
ドストエフスカヤ「トゥマンにやられた、警官や国境警備隊、その他兵士の家族とかの世話もしてるって聞きましたよ。そういうのに使ってください。後は、装備とか。証拠としての用が済んだら」
「ギャンブルとかカジノで、勝負するのに使ったらだめですよ!増やそうと思わなくていいので!はは」
紗々「そうっす!勝負するなら、投資した方がいいです!インデックスファンドにしてください!あ、当然自国のじゃなくて、まあ、どこの国かはわかるかと思いますが!」
「あと、財布の現金以外には、カードとかも口座を差し押さえればかなりあると思います。もし、上に猫ばばされそうだったらピピャンスクに後で送ってもらえれば、いろいろ知ってる人たちもいるので、スイスとかアメリカの銀行以外だったら何とかなるかもです。以上です」
シェンコ中佐「お前ら…。ありがとう。グッ」
急激に感極まって、涙ぐむシェンコ。
紗々「ああ、なんかもらい泣きしちゃいそう」
つられて幾分目頭が熱くなり、ばつが悪くなり、ドアの方に踵を返したドストエフスカヤ。
ドストエフスカヤ「はい、じゃあ、行きますから。このAKとかは、武器庫にもってけば手続きできるんですよね?」
シェンコ中佐「ああ、武器庫に行けば、手続きできる」
ドストエフスカヤ「では、失礼します(敬礼)」
紗々「失礼します(敬礼)」
シェンコ中佐「…(敬礼)」
ドストエフスカヤと紗々はシェンコに敬礼し、部屋を後にした。シェンコは、ドアが閉まるまでずっと敬礼していた。
ドアの外に出たドストエフスカヤと紗々。
紗々「なんか、めっちゃ喜んでましたね」
ドストエフスカヤ「まあ、あの時計とか最近値段上がってるし、現ナマ入れても数百万はあったからな。大金ちゃあ大金だよな」
紗々「でも、そもそもなんとなく持ってきたものですし、証拠ですから、横領するつもりはなかったじゃないですか。ちょっと恩着せがましかったですかね」
ドストエフスカヤ「まあ、日本の警察とかで証拠品提出しなかったら、超やばいことになるだろうけど、そもそも今回は、超グレーな特殊作戦だしよ。トゥマンだって、犯罪者として裁きを受けたわけじゃなく、なんかこう、フワッとテロリストとして始末されたわけだし。だから、戦利品って扱いもできたんじゃねえかな。そもそも、あの死体もあそこにあっていいものじゃないし」
紗々「なんか、そういうのは、戦利品はちゃんと登録しなくていいんですかね」
ドストエフスカヤ「少なくとも、あまり大金とかじゃなければ許されてるんじゃないか?第二次大戦の時も、ドイツ軍の拳銃とか、時計とか、ナイフとか連合国の兵士が持って帰ってきただろ」
紗々「なるほど。確かに」
時計を見るドストエフスカヤ。
ドストエフスカヤ「やべえ!ちょっと部屋に戻ってチケットの用紙印刷して、荷物取ってくるよ。で、タクシー呼ぶわ!だからさ、銃を、武器庫に持っていってくんない?」
紗々「はいはい!」
それぞれ手続きを終え、基地の出入り口付近に到着した二人。
紗々「あ、ちょっと忘れ物心配なんで、一瞬、部屋見てきます」
ドストエフスカヤ「おう、大丈夫だと思うけど」
出入り口に戻ってきた紗々。タクシーがすでに到着していた。
紗々「忘れ物、大丈夫でした。てか、さっき経理担当と話したら、すごいことになりました」
ドストエフスカヤ「何?」
紗々「駅に着いてからのお楽しみです」
ドストエフスカヤ「はあ?そういうのいいから!」
紗々「まあまあ!」
丁度建物の一つの前を通りかかった兵士の一団にカラチ軍曹がおり、二人に手を振った。
手を振り返す二人。
ドストエフスカヤ「この基地ともさよならだな」
紗々「До всторечи!(またね!)」
タクシーに乗り、駅に着いた二人。
Eチケットを紙のチケットと交換し、プラットフォームに移動。
紗々「ちょっとここで待っててください!」
ドストエフスカヤ「お、おう。迷子になるなよ」
どこかに駆け出した紗々。しばらくして何かの瓶を両手に持って戻ってきた。
ドストエフスカヤ「お前、それどうした?!」
紗々「やばいんです!こっちに来てください!」
続く
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