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第1章 沿ドニエストル(Transnistoria:トランスニストリア)境界の森編

ep1 君の銃は(および前書き)

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~前書き~




ピピャンスク当局の要請により、勤務先のレニングラード州にある警察署から国外への「応援出張」へと、久々に呼び出された紗々。


暫く警察署での比較的平和な仕事が続いていたが、今回の任務は久々の戦闘任務である模様。


普段から世話になっている直属の上司・サモイロワ少佐の頼みもあり、二つ返事で引き受け、意気揚々とベラルーシを経由してウクライナへ入国、モルドバとの国境に向かった。



↑どうしてもモスクワで開かれる「コミック超カンファレンス」に泊りがけで行きたかった紗々の上司のサモイロワ少佐。普段は笑顔しか見せないが、今回仕事の関係で行けない可能性が出て、思わず涙が出てしまう。





↑サモイロワの笑顔のため、速攻で任務を引き受ける紗々。




↑当該地域の大まかな図

ウクライナ、モルドバ、「沿ドニエストル共和国」の国境が存在する地域に到着した紗々に下された命令、それはピピャンスク第9警察署から派遣されてきた武闘派の半改造人間であるアンナ・ドストエフスカヤ中尉と共に、国境近辺の森林地帯に入り込み、欧州で跋扈する人身売買組織の同地における支部「トゥマン(霧)」を殲滅することだった。


その森林地帯こそが、同人身売買組織が「商品調達」と呼ばれる人間狩りを行う場所であった。トゥマンは密入国ブローカーと協力し、EU方面へ密入国しようとする女性や子供を誘拐。欧州各国に売り飛ばしていたのだった…。


かなりの曲者であるドストエフスカヤ中尉との絆を育みつつ、トゥマン殲滅に向けた下調べや、作戦準備を行なっていく紗々。




↑ドストエフスカヤ中尉はまだ30代前半にも関わらず、胆力で歴戦の将兵をも圧倒する。




↑猫を被る紗々


二人は、現地のカウンターパートである、これまた曲者のシェンコ中佐と会議でバトルを繰り広げたりしつつ、さらに多くの人々を巻き込んで作戦準備を整えるのだった。





↑キレて書類を投げるシェンコ中佐。典型的な職業軍人で熱い男だが、アンガーマネージメントにも多少問題があるといえる。


ドストエフスカヤ中尉の直属の上司である、ピピャンスクのレールモントワ少佐と、サモイロワ少佐の「暗躍」もあり、当日様々な相対する勢力からの支援を受けられることになった二人。いよいよ密入国者に扮して、国境地帯の森林に乗り込むのだった…。




~以下本文 ep1~







AKS74Uの弾倉をチェックし、銃本体にはめ込むドストエフスカヤ中尉。



ドストエフスカヤ「よしよしよーし、弾倉よし!」



紗々「うわ!それ、まじで当たんないですよね!」



ドストエフスカヤ「へ、まあ狙って撃つ銃じゃねえからな!」



「…ってみんな言うけど、そんなに当たらないかな?警察じゃ、みんなこれだったよ。短機関銃(?)」


紗々「ともかく、ロシアとかで警察がその銃をサブマシンガンとして持ち歩いているのがやばい。主力小銃と同じ口径ですよね?犯罪者を生きたまま捕まえる気ないですよね」


ドストエフスカヤ「いやいや!逆に日本もさ!こういう大口径の方がよかったんじゃね?」
「職務質問ゼッタイ応えてくれるよ」


紗々「確かに」



ドストエフスカヤ「あと、ビ⚪︎・ラディンがこの銃大好きだったよな」



紗々「ビ〇・ラディンはずっと洞窟で指揮を執ってたし、銃撃たないんじゃないですか?74Uは全然当たらないですよ!」



※AKS74U:AK74にフォールディングストックを付け、銃身を切り詰めたモデル。戦車兵やヘリパイロットが所持していたが、ソ連およびロシア警察などによっても短機関銃として装備されている。アサルトライフルとしては射程が短く、短機関銃としては威力が大きすぎるという代物。



ドストエフスカヤ「まあ、あいつの74Uはほとんどオブジェみたいなもんなんだろうな。まあ、私も実は中長距離の銃撃戦、あまりやったことないんだよな。警官だし。だから不便さがよくわからん」



「あと、私、射撃は昔からあまり得意じゃないんだよな」



「ていうか、この辺だとAKS74U以外に調達する短機関銃の選択肢あまりなくない?逆にほかになにがあるの?」



紗々「ス、スコーピオンとか、ステーチキンとか、あるんじゃないですか」



ドストエフスカヤ「そんなのこの辺の市場でみたことねえぞ。MP5のコピー兵器のがまだあるかもな」



紗々「いや、こないだありましたよ!」



ドストエフスカヤ「ふーん、で、今日のお前の銃は?噂では普段からマカロフじゃなくてリボルバーって聞いたけど…スコーピオンにしたの?」







ナガンリボルバーをチラ見せする紗々。



※ナガンリボルバー:ロシア帝国時代に採用され、ソ連でも1950年代まで軍および警察で装備されていたリボルバー拳銃。ダブルアクションとシングルアクションのものがある。



ドストエフスカヤ「ナガンなの?まじで?」



「お前それ、私、博物館でしか見たことねえわ!元西側の警官なんだからよ、MP5とか持って来いよ!」



紗々「警棒もあります」



ドストエフスカヤ「そんなもの薪にしろ!薪!」



紗々「新卒の時から、一番使い慣れたものが一番なんですよ!MP5なんか普通の警官は撃ったことありませんよ!」

 

「あと大丈夫です、私、不死身ですから!」「いざとなったら、ナイフとか、いや、拳で静かに、一人ずつ消せばいいんです」「小銃弾なんて、我々にとっちゃ、パチンコと一緒ですよ」「喧嘩だったら、最後は鈍器ですよね」「私の拳は鈍器より強いですから、私の拳が勝負を決します」



ドストエフスカヤ「はは!頼りにしてんよ!ゾンビちゃん」



紗々「ほいほい!まあ、私は少尉の防弾チョッキみたいなもんですからね」

「それにしても今回のやつら、事前情報によると激ヤバ外道軍団って感じですよね」



ドストエフスカヤ「おう、まさに鬼畜ド外道軍団だな」

「しかも元警官とか軍人が主要メンバーだからな。実は私、今回の誘拐団の一人を知ってるんだよな」



紗々「まじすか?!」



ドストエフスカヤ「おう、スダコフってやつでよ、私が新入りだった時の班長で最初は面倒見のいいやつだったよ。当時は軍曹だったな」



紗々「最初は?」



ドストエフスカヤ「まあ、働いてたら徐々に奴の本質が分かってきてよ。賄賂を取ったり、汚職をしてる典型的な汚職警官でさ。それに加えて、麻薬取引や人身売買にも加担してたんだ」



「ある時、当時のスダコフの上司と私、同僚でスダコフの犯罪の証拠を上げて、告発して逮捕しようとしたんだが、スダコフはさらに上の上司や、政治家とつながっててよ」



「私たちが逆に濡れぎぬ着せられて、刑務所に入れられてな」



紗々「やばいですね!腐ってる!」


ドストエフスカヤ「いやあ、警官は普通、警官用の刑務所に入るんだけど、私は普通刑務所にいれられてよ」


紗々「警官は普通刑務所に入ると生き残れないんじゃないんですか?!」


ドストエフスカヤ「この話は、またしてやるよ」


紗々「気になる!はい。てか、スダコフの顔、覚えてます?」


ドストエフスカヤ「おう!大丈夫だ。そうだ、最後にスダコフの野郎と会ったのは、留置場かな。あの野郎、『馬鹿な女だ。俺の女にしてやってもよかったのにな。なんで警官になった?手前の正義は刑務所で死ぬ』とかなんとか、言ってたな」


紗々「クソ野郎!ぶっころす!」


ドストエフスカヤ「まあ、スダコフとかも悪の組織の歯車の一つに過ぎなかったんだろうな…とにかく、たくさんの人が苦しんでいる。スダコフだけでも摘み取ろう」



紗々「はい、スダコフをぶっころして終わりにしましょう」



「中尉はスダコフをぶっころしたいでしょうから、私は手を出さないで、サポートに徹します」



ドストエフスカヤ「はは、そうだな。まあとにかく、私が1マガジン三十発撃ち切るまで手を出すなよ」







紗々「はいはい、お任せします。弾が当たるといいですね」

「ふあー、眠…。」



ドストエフスカヤ「お前まじで眠そうだな、コーヒーが必要だなあ」



紗々「はい、なんか今回、森の中にいる敵兵の掃討は味方勢力にまかせてるじゃないですか。これほとんどハイキングですよ。やることないですもん。歩く以外」



実際のところ、紗々とドストエフスカヤは敵を掃討する味方勢力に緩く囲まれつつ、目標地点にスムーズに移動していた。



ドストエフスカヤ「そうだな。しかもあいつら静かだよな。本当に敵を殺ってるのか?」



紗々「ヘリの音も多少しますし、サイレンサー付けて攻撃してるから全然聞こえないんじゃないですかね」


ドストエフスカヤ「でもよ、私らのところに敵が現れない、音も聞こえない、ってことは、味方さんたち、めちゃくちゃ強い、いかれポンチ共ってことだよな?」


紗々「ちょっと怖いですね。まあ、いざこっちに攻撃してきたら、チュドンですが」


ドストエフスカヤ「まあ、あいつらが味方でよかったよかった!お前も味方でよかった!」


紗々「ですねですね!」「あーハイキング!クソネミー!」「おんや?」



「ドドドドドドドドドドドド」



紗々「お!ちょうど近づいてきましたよ」



轟音とともに上空から降り注ぐ光で、森の中が照らされる。







紗々「眩しい!夜目が効かなくなっちゃうよー!」


ep2 に続く
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