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神獣フェンリル(前)

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 暫くして俺は意識を取り戻した。
 
 「あれ?俺生きてる?」

 あれだけのことがありながら生きていた俺の生命力恐るべし。
 そう思いながら起きあがろうとしたがその時に気づいた。
 
 「ここ・・・どこだ・・?」

 あたりを見渡すとそこは先ほどまでいたはずの大都会とは言えないような木に覆われた森にいた。

 「あれれれ。おかしいな。夢か・・・?」

 何故自分がここにいるのか分からずに頭を抱えようとしたが手が思うように動かないので確認しようとしたら驚いた。
 「な、なんだこれ!?」

 体がモッフモフだった。
 真っ白なサラサラしたモフモフの毛。
 これが自分の体なのかと困惑した。
 自分が一体何なのか確認するために俺は近くの川へと移動した。

 そして水面に移る自分をみて驚いた・・・。

 「な、なんだこれ!?」

 水面に移る自分の顔は人間であった山本和也のものでは無く白い狼・・・いや━━それよりももっと位の高いような・・そう!言うなればフェンリルの様な姿だった。

 ****

 自分の顔を確認した俺は再び頭を抱えていた。
 「一体全体どうなってるんだ。」

 まさか自分がフェンリルみたいな狼になろうとはそんなこと予想できるはずがない。
 まさか本当に異世界転生してしまったのかはたまた夢なのか?そんな疑問と葛藤していた俺の耳に女性の甲高い怒鳴り声が聞こえた。

 「何やら聞こえてくるな。」

 狼になった分耳がいいのか遠くの声まで聞こえてくる。
 仕方ないからとりあえず行ってみるかと何もしないより何かした方がいいと言う考えのもと俺はその声の主を探しに行くことに決めた。

 ***
 3キロほど走った頃だろうか?
 声の主と思われし女性を発見できた。
 見るに高貴な佇まいに高そうな洋服。
 間違いないこの世界で言う貴族のお嬢様的な感じなのだろうな。

 声の主を確認した後すぐ横に目をやると以下にも悪者顔の盗賊が4人ほどいた。

 「なるほどー。ありがちな展開だな。」

 そう思いながらも流石に見てしまったものには助けないと男が廃るので俺はその女性に加勢することを決意して茂みから勢いよく飛び出た。

 「その辺にしたらどうだ?」

 飛び出た俺はそう盗賊に言うと4人の盗賊は口をポカーンと開けて佇んでいた。

1分ほど流れた静寂から解放されようやく1人の盗賊が口を開いた。

 「な、な、なんで神獣がこんなとこにいるんだ!!!」

 神獣・・・?何の話だ?っと不思議そうに頭を傾げていたら別の盗賊も口を開いた。

 「その風格に白いツヤやかな毛並み。そして今にも気絶しそうなほどの威圧感。間違いねえ。こいつは四神獣の一角のフェンリルだ!!!」
 
 「やべぇです兄貴!!神獣なんて相手したらあっしら一瞬で殺されてしまいます!」

 俺の姿を見た盗賊たちは体を震えさせながらそう話していた。
 しかし、そうか。
 俺の読みは正しかった。
 俺はフェンリルなのだ。
 ならちょっとフェンリルらしくして━━

 「あーあーごほん。 我は神獣フェンリル。速やかにこの森から去るのなら命だけは取らないでおいてやろう。
 直ちにこの場から去れ」

 アニメで見たフェンリルっぽくそういうと盗賊たちは一目散に逃げていった。

 「ふぅ。これでとりあえずひと段落だな。」

 と思った時に気づいた。
 まだお嬢様がいたな。
 忘れてたわ。
 話しかけようとして振り向くとお嬢様はビクビクとまるで今から食べられると思っている子供の様な顔をしていた。
 
 「あーあー。怖がらせてしまったのなら済まない。私はここから去るとしよう。」

 そう言い残し立ち去ろうとした俺をお嬢様は引き止めた。

 「ま、待ってください・・・!」
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