彼女を救うためなら死んだって構わない。

猫ら

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1.『タナトス病』

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 それは余りにも突然な宣告だったんだ。

「これはタナトス病じゃな。残念だがタナトス病ならどうしようもできん。以って1年じゃ。」

 治癒士や薬士ありとあらゆる職種の人たちに見てもらったが皆、口を揃えてこう言う。

「タナトス病は治せない。」

 俺の妻エリスは今、不死の病を患っている。
 『タナトス病』
 それは何処からともなくやってきて気まぐれに人に発症し殺していくいわば呪いの様な病気。
 どんなに優秀な治癒士や薬師あまつさえ魔女にすら治せない病。
 気まぐれに人を殺すその症状が死神を彷彿とさせることから死の神タナトスの名を取ってタナトス病と名づけられた。

タナトス病の主な症状は体の硬直から始まる。
体の自由が効かなくなり次第に石のように硬くなる。
その過程を経た後徐々に意識がなくなり昏睡へと至り発症後、大凡1年ほどでこの世を去る事になる。
これが必ず死に至らしめる死神の呪い、
これがタナトス病の全てだ。

空が黄昏れる夕暮れ時に俺は1人俯いてテーブルに向かい項垂れていた。

「クソッ。どうすれば。」

どうすれば、何をすればエリスを助けられるのかをない頭を使って考える。
だが、いくら考えようともそれを解決する為の策は何一つ浮かばなかった。
不死の病という事だけでどうすることも出来ない。
だが、こんなとこでみすみす彼女を死なせたくはない。
残された時間が短いからこそ今過ぎゆく1秒1秒が大事なんだ。
そして短い時間だからこそ焦りが生まれる。
そんなことを1人で考えていると部屋に置かれた木製のベットの上から彼女が声を掛けてくる。

「私のためにごめんねカイル。」

その言葉にハッとなって振り返って見ると彼女は苦しそうに泣いていた。
自分が俺の重りになっているのではないか。
俺を悲しませているのではないか。
と自分を責めるかの様に彼女は涙を流しながら俺へと懺悔の言葉を述べる。

「ち、違う!君のせいじゃない!」

その涙につられるかの様に俺の目頭も気づかずうちに熱くなり雫はヒタヒタと溢れ出る。

「俺が必ず助けるから!君を・・・守るから」

そういって俺はベットに横たわる彼女の上に覆い被さるようにしてぎゅっと強く抱きしめた。
エリスを死なせたくない。
これで終わりだなんて思いたくない。

だが───不安や大切な人を失う恐怖は俺の中から一向に消えることはなかった。

俺の腕の中で彼女はひたすら泣き叫んだ。

「私、死にたくないよう・・・。
 まだあなたと...これからも一緒に生きていきたい。」

泣いているせいか彼女の声は微かに震えて掠れていた。
それはまるで子供の様にか弱く。
あの時好きになった強くて優しくてちょっとだけ男勝りな君とは全く違う君だった。
そんな彼女を見た俺はたった一言だけ彼女に言う。

「大丈夫。俺とエリスはずっと一緒だ。」


君の温もりを忘れない。
これからもこれまでのように共に生きて行こう。
俺が絶対君を守るから。
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