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5話 馬車の中

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    今まで歩いていた道を一瞬の速さで駆け抜ける馬車。
 歩かなくてよくて、でもちゃんと目的地につけるなんて馬車ってこんなに有難い乗り物だったんだな。
 きっと勘当されずに貴族のまま生きていたらこんな身近にあった有り難みに気づくことは無かっただろう。
 その時俺は少しだけ、貴族じゃなくなって良かったと思えた。
 馬車に揺られながら窓から吹く風を顔に当てて俺達は街へと向かっていた。

   「あのー、失礼ですがお名前はなんて言うのですか?」

   「名前・・・?俺のですか?」

   「は、はい。助けて頂いたのにお名前すら伺っていなかったので・・」
         
  そう言えばお互いまだ名前を知らなかったな。
    
   「アギト・アストラル。それが俺の名前です。」

   「アギト・アストラル・・・何処がで聞いたような・・・ってまさか!アストラル家の御子息様ですか!?」

  しまった。忘れてた。
  俺の家名ってすごく有名なんだった。
  なんて言ったって勇者の末裔だからな。

   「も、元ですよ。今は父に勘当されちゃっててもうアストラル家では無いんですよ。」

   「貴方ほどの実力者が何故勘当なんて・・・」

  ああ、まずいな。 
  父上に家名を語るなと言われたのにそのことを忘れてついアストラル家の家名を出してしまった。
  これ以上突っ込まれないようにと、
  そう思った俺は慌てて別の話に話を切り替えた。

   「そ、そんなことより!貴方のお名前もお聞きしたいですねーー!」

  これ以上俺の話が広がる前に話題を切り替える。
  俺の話はぶっちゃけどうでもいいしな。

   「これは大変失礼致しました。
私はアリス・グランデと申します。」
         
  ん?グランデ・・・って・・エルムンド王国の公爵家の名前じゃないか!
  てことはつまりアリスさんは公爵家の御令嬢・・・!
  それはかなりの大物だな。
  てなると・・・今向かっているのはエルムンド王国か。
  いや、待てよ・・もしかすると父上にも繋がっているかもしれない・・・
  そうなれば俺がアストラルの名を語ったことが父上にばれてしまうことになるが・・・。
  そうはなりませんようにと今はただひたすら祈っていようっと。
  でもそうかエルムンド王国か・・・これは運がいいな。
   
   「公爵家の御令嬢様でしたか。これは大変失礼致しました。」

   「いえそんなに畏まらずとも・・先程と変わらず接して頂ければ大丈夫ですよ。」

  アリス様はそう言って俺に天使のような笑顔を見せてくれた。
  俺がアストラル家の人間って事で少しは俺に対しての警戒を解いてくれたのかな。
  それはそれで良かった。
  このまま警戒されてる状態だったら色々不便だったからね。

   「では遠慮なく先ほどと変わらず接しさせて頂きますね。」

  エルムンド王国は俺たちアストラル家があるリアルス王国の隣国に位置する国だ。  
  そしてあのレオンの生まれ故郷でもある。
  エルムンド王国はまだ剣の文明が途絶えて無かった頃の遺物、つまり剣等の古代遺物がよく発見されている国だ。

  だが、剣は歴史の異物。
  それはつまり──剣自体に価値がなく人々の恨みの対象の代物だからか発見されて直ぐに魔法で消し炭にされて処分されてしまう。
  となると、今まで発見された剣はもう無いだろうがもしかするとまだ発見されていない別の剣があるかもしれない。
  これは楽しみだな。
  この剣の技をこんな棒ではなく剣で使えたら一体どれほどの威力になるのだろう。
  そう考えると楽しみで仕方がない。

  しかし、一時はどうなるかと思った。
  家を追い出された時は絶望に叩き落とされたしゴブリンに捕まった時は死ぬかと思った。 
  でも今はこうして生きている。
  辛いことも痛いことも経験したけど生きてればいいことはきっとある。
  今俺は本気でそう思えるよ。
  だからあの声の人には感謝しないとな。
  この剣の技があったから俺はまだ生きていられるのだから。

   
  
  
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