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3話 初めての魔物
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どのくらい眠っていたのか分からないが俺は意識を取り戻した。
重たい瞼をゆっくりと開いて目に入る物を見る。
視界がぼやけていてあまりよくは見えないが火のような赤く燃え上がるものがあった。
だが、次第に視界も回復していき辺りの様子をしっかり確認することができた。
「焚き火・・・?」
辺りを見ると炎を囲むように円になってゴブリン達が踊っていた。
数も増えている。
さっきまで5匹程度だったはずなのに今目の前にいる数は15匹程。
「ま、まずい。こいつら俺を食う気だな。に、逃げないと・・・」
そう思い立ち上がろうとしたが・・・体が動かない・・・!
自分の体をよく見ると縄で木にぐくるぐると縛り付けられていたのだ。
まずい。逃げれない。
どうにか縄を解こうと必死になって体に力を入れるがびくともしない。
そうして逃げようとしていると1匹のゴブリンがこちらに気づいた。
「ゴブッ!ゴブゴブ!!」
ゴブリンの鳴き声をあげながら俺の方へと指さした。
するとその俺のことを指差すゴブリンの指先の方へと他のゴブリン達も一斉に振り返る。
「ああ・・・まずい。」
俺が目を覚ましたことをゴブリン達に勘づかれてしまった。
こうなればもう逃げることが出来ない。
「俺の人生もここでお終いか。父上には勘当され弟には馬鹿にされあまつさえ魔法にすら馬鹿にされたやつの最後が魔物に喰われて終わるのか。」
自分のその状況を考えてその情けない滑稽な姿に少しばかり笑いが込み上げまでくる。
次生まれ変われたらちゃんと魔法を使える体にしてくださいよ神様。
自分の死を理解して神様へ願い事をする始末だ。
「もういいよ。どうとでもしやがれ!」
俺を眺めるゴブリン達に対しての最後の足掻きを見せた。
言葉で威嚇することしか出来ないが
全てから見放された俺の最後がゴブリンに喰われて終わりなんて実に似合ってるもんだなと自分の最後を相応しいものだと思った。
そう考えている間にもゴブリン達は俺の方へと歩み寄ってくる。
そんなゴブリン達を見ながら。
どうせ戦う術を持たない俺はもうここで死んだ方がマシだと自分を罵った。
そしてとうとう俺はその時を迎えることになる──。
「「「ゴブッ!!」」」
ゆっくりと歩み寄っていたゴブリンが豹変し俺に飛びかかってきた。
ゴブリン達は俺を自身の手に持つ棍棒を使いこれでもかと言うくらいに振り下ろす。
何度も何度も何度も何度も。
初めて味わう痛みの感覚───。
「がはっ。」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
頭が割れそうだ。
しかし───その痛みにも次第に慣れてきた。
というより、意識を失いかけて痛覚が麻痺してきたのだと思う。
朦朧とする意識の中自分の死を理解して目をゆっくりと閉じる。
その合間に見えたのは俺の飛び散る血液だった。
───そして直ぐに俺の意識は無くなった。
********
何とも言えないくらい心地いい浮遊感。
そんな感覚にとらわれていた俺の耳に透き通るように綺麗で聞くだけで落ち着くそんな声が聞こえてくる。
≪君は力が欲しいかい?≫
力?何だそれ。
俺に力なんかあるわけ──。
でもそうだな、貰えるとするなら欲しい・・・かな。
≪君は力を手にして何をする?≫
何をするって・・そんなの決まってるじゃないか・・。
勇者になってこの世界を魔王の手から救って・・・それで・・・俺のことを認めさせるんだ。
父上に・・・レギトに・・・。
──って、魔王はもうないんだっけか。
≪ははは。勇者とはまた大きくでたね。でも、君は自分をここまで追い詰めたこの世界が憎くはないのかい?
こんな理不尽な状況を作り出したそんな世界でも救おうって君は本気でそう思えるのかい?≫
理不尽・・・?
確かにこの世界は理不尽だらけだね。
才能あるものにはどう足掻いたって勝てないし・・・魔法を使えないだけで家から勘当されちゃうし・・・
でも・・・だからこそ・・・この世界は面白いと思うんだ。
何が起こるか分からないのが人生だからね。
≪ははははは。うんうんそうだね。君すっごく面白いね。気に入ったよ。君にならこの世界を任せることができる。今そう確信したよ。≫
≪では君に力を与えよう。ただ、一つだけ言っておくとこれは魔法の力では無い。今は存在しない剣の力だ。≫
剣・・・?
剣の文明は1000年前にとっくに無くなったはずじゃ・・・。
≪いいかい?必ずこの力を駆使して世界を救って。後のことは任せたよ。≫
そう言い残しその声は聞こえなくなった。
そして俺の意識は元の世界へと戻り──次第に覚醒する。
「何だったんだあれ・・・って傷が無くなってる!」
体をあちこち触るが意識を失う前はあったはずの傷みも傷もその全てがなくなっていた。
だが、辺りに広がる飛び散った血は未だにそこに存在した。
と、辺りを見渡しているとその存在を忘れてしまっていた。
「「ゴブッ!!」」
俺が起き上がった事を確認してゴブリン達が再び俺の方へと飛びかかってくる。
だが──そんなゴブリン達の動きが何故か先程までとは比べ物にならないくらい遅く動いていた。
なんだこれ?ゴブリン遅くないか?
その目の前の異様な現象に驚いた俺にさっきあの空間で聞いた声が耳に流れ込んできた。
≪いいか?ゴブリンが持つあの棍棒を奪い取るんだ。そうすれば自ずと体が教えてくれる。≫
どこから聞こえているのか分からないが声がする。
だが、今はこの声の指示に従った方がいい気がした。
俺はすぐに行動に移した。
飛びかかっているゴブリン達の中の1匹に焦点を絞り──振り上げた棍棒を奪い取った。
そして俺はその奪いとった棍棒を自分の頭の上へと振り上げるとある言葉俺の脳裏に浮かぶ。そして咄嗟にその言葉を叫んだ。
「──ハルト流剣技。・・・一閃!」
そう叫んだ刹那───俺の体はゴブリン達の背中側へと移動していた。
ボタボタボタボタと飛びかかっていたはずのゴブリン達の肉体が地面へと落ちる。
「え・・えっ・・?勝った・・・?」
その状況を見て俺は少し固まった。
絶対に勝てるはずがないと思った相手が倒れていたからだ。
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