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始まり
1-11 学校初日 5
しおりを挟む姫様が試合を終え、戻ってきた。
「シャルロット様、やり過ぎですよ」
「私も……そう……思う……」
シラは腕を組み、うんうんと頷き肯定する。
姫様は、理由はから定かではないが、本気に近いレベルの魔法を使用していた。
「あっ、はい、お父様を罵る声が聞こえましたから」
なるほど、それで火がついたのか……入学試験のときに僕もやり過ぎたので、これ以上切り込むことができなかった。
「それならいい……でも……加減大事……」
シラも同じ判断のようだ。
僕とは違い、彼女は絶妙に手加減する腕を持っている。
「うーん、そうですね。あの人の実力を見て、手加減しましたが……」
頷き、話を変える。
「それで、私の戦いっぷりはどうでしたか? 短かったですが……」
僕は即答する。と言うよりも、この言葉が瞬時に出てきた。
「シャルロット様容赦ないですね」
「そ、それは、少し、相手を憎く思っていましたから……」
慌てて姫様はそう言い繕う。
しかし、シラは口を開く。
「姫様……おっかなかった……」
「そんなに……ですか?」
「……ん」
シラの肯定にいっそう表情が歪む。
「これからは、気をつけなければですね」
こうして、静かな空気に包まれたまま、初日は終わりを迎えた。
○●○
黒が主体の小さな部屋。飾りが全くなく簡素である。そんな部屋にローブ姿の男二人が話している。
「おい、王城襲撃が中止になったのか?」
一人の男がそう疑問を口にした。
「ああ、俺はそう聞いた」
あと一人の方もそう聞かされただけで何の情報もない。
不穏な空気が辺りを包む。
「……何か……あったのか?」
そう恐る恐る訪ねてくる。
「詳しいことはまだ説明されていない」
知らない故に話すことができない。
しかし、何故かは経験上考えられる。
「そ、そうか……」
「俺の勝手な予想だが、良いことと悪いことの二つが考えられる」
彼は目を見開いた。
少しでも考えられる情報を聞きたいようだ。
「一つ目は、目標の変更だな。国を乗っ取るから、誰かを攫うに切り替わったとかが考えられる」
「そ、そうか……それで二つ目は……」
「二つ目は、悪魔だな……」
「悪……魔……?」
彼はどこかで聞いたことがあった。
しかし、どんな話だったのか。
はたまた、どんな存在を指しているのかは、思い出すことが出来なかった。
当然だ。酒場でするこの組織の定番の話。そう眉唾の話だと真剣に受け止めない。
「知らないか……いや、覚えてないか……正直、聞かないほうが良いぞ」
そう言いながら引きつった笑いを見せる。
「教えてくれ‼」
彼は何があっても恐れないと、言わんばかりの目と言葉でそう語るので、もう一人の男は渋々話した。
「ウソ……だろ……」
これが積極的に話さない理由だ。
普通の場で話したら誰もがこうなるはずだ。
恐怖が為に目を見開き、事実を疑うその表情。
「なっ、話さなかった方が良かっただろ?」
「いや、これで良い」
男は口を開けたまま、何も話せずにいた。
怯えて何も言えなくなると思っていただけに、その言葉は驚きだった。
しかし、この反応ができるのはその殺気、その恐怖を肌で感じていないからに違いない。
「良いか? ヤツと対峙した瞬間にこちらの負けだ」
「分かっている! そんな化物に近づきたくねえ」
「俺たちの実力じゃ勝ち目はない。そして、ヤツは恐らく王城にいると思う」
それを話した瞬間、彼は目を閉じ、俯いた。
「俺ら新人は、それを知らずに王城襲撃を命令されていたのか……」
「まあ、聞いたら士気が下がってただろ」
「ああ、そうだが……」
あの悲劇からずっと情報を探ったが、何一つとして、集まらなかった。あの強大な魔法師ならば、必ずその力を見れば噂になるはずだ。
しかし、その悲劇からも情報が皆無だった。
王はあの戦力を手放した?
しかし、あっさりと王が手放すはずがない。
なんとしてでも、死守するはずだ。
あの最凶の黒の悪夢を。
まるで、そのときだけの、夢のような、幻想。
背後に立ち、刃物を突きつけるような、恐怖。
我らもヤツとの戦いは否が応でも避けたいところだが、あの国に復讐しなければならないと、上が決めた。
つまり、我らもその意志を示さねばならない。
「ああ、次の任務は生きた心地がしないな」
誰に尋ねるわけでもなく、天井に言葉を紡いだ。
「同感だ。だが、負けるわけにはいかねえ」
それを手で掴むように放たれた言葉には、力があった。
対峙することの愚かしさは十分はこの男は見てきた。感じてきた。しかし、それよりも、仲間たちの、友の仇を打つことこそ、使命。己の実力では、不可能だと分かっていても、抗うしかない。
これが残ったものの総意であり、使命を果たすことこそ、変えがたい正義であると、彼らは信じて止まない。
窓が無く、光が入って来ない黒の部屋。
彼らの憎悪が染めたようなその壁は、夜の闇よりも深い黒。
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