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始まり
1-1 入学試験 1
しおりを挟む入学試験と言うものがあるらしい。
学校なんて、僕の選択肢にすらなかった。
それ故に、魔法師育成学校って、魔法を学ぶところ程度でしか知識がなかった。
命令を受けたあと、陛下に直接会いに行き、入学試験があることを聞いた。
そして、様子を見てこい、と言われ来たのである。
ここ、魔法師育成学校の実演場は、まるで闘技場のように、観客席がぐるりと、一周ある。
この国のなかでも大きな建造物の括りに収まる規模。経済力の高さが見てわかる。
聞くに、ここで、戦闘訓練をやるのだと言う。
僕は、免除されているので参加する必要はなく、姫の方も、実力が認められているため、参加していない。
最初に魔力量を図るわけだが、めぼしい人を探してほしい、と、言われている。
しかし、僕は、魔力量の平均そして、高い量などが、全く分からない。
調べる時間もなかったために、仕方がないといえば、仕方がない。
とりあえず、魔力の数値が見えるように、近くに寄ることにした。
「さあ、皆さん。こちらで測ります」
と、呼びかけるショートヘアの女の教官は、僕を一瞥するだけだった。
まさか、と思い心の中で、その疑問の種を呟く。
教員にまで、僕のことを隠している? と。
国はここまで隠すのかと、半分呆れる。
僕が少し離れているのもあるが、姿が見える範囲だと思う。見えなかったってことはないと思う。
「一列ずつに並んでください」
魔力測定では、四台ずつ並んだ計測器に教官が一人ずつ付き、結果を紙に書いている。
それを見せてもらうのも良いのだが……陛下は、教官にすら僕の正体を話さなかった。やはり、何か意図があるのでは? と、考えるが、何一つとして思いつかない。
その影響で人に聞くことを積極的にしようとは思わない。
魔法発動は感知される可能性があるため使えない。となると、選択肢は、少し遠くから盗み見る、しかなくなる。
「あなたは参加しないのですか?」
と、さっき、一瞥してきた教官が話してくる。
やはり、と言ったところだろうか、何も知らないようだ。
「僕は遠慮します」
間を開けず、即答する。
平然と返せた自分を褒めたい。
しかし、さらに続く質問は計測を見逃してしまうため、応答が雑になる。
「入学試験を受けにきた人ですか?」
「いいえ、違います」
簡潔に答える。
長いこと人と話す機会がなかったこともあるのかもしれない。
「となると、スパイですか?」
視線を計測器から教官の表情へ移すと、変貌していることに気がついた。。
落ち着きのある優しそうな先生から、悪魔を彷彿とさせる表情になった。とても、怖い。
スパイ――今年は姫が入学する。
最大限の警戒に当たるのは、至極当然である。
しかし、早急に、誤解を解く必要がありそうだが、この教官は、名簿であろう紙を持っている様子はない。
しかし、名前を言う。
「ミスラです」
――――聞き覚えくらいはあるはずだ。
「はい?」
呆気にとられているようにも見える曖昧な表情。
突然名前を呟いて困惑しているのだろうか?
はたまた、聞き覚えのある名前だったか?
「だから、ミスラと言います」
もう一度繰り返し、さらに続ける。
「入学試験は、免除されているはずですが……」
その言葉で完全に思い出したのだろう。
「そ、そうでしたね……ご、ごめんなさい」
と、少し引くぐらい、激しく狼狽した。
どうやら、思い出してくれたようだ。
「それで同級生になる者の様子見を、と思いまして」
いつの間にか、あの形相が消えてなくなり、優しさに溢れる教官本来の表情になっていた。
よし、これで問題解決、と。
「良い心がけですね! 勉強を教える気にました!」
先程とは、打って変わって愉快に言葉を発する。
申し訳ない限りではあるが、しっかり予習――と言うそうだが――をしすぎたために教わることは、僅かだろう。
想定よりもはるかに成功してしまった。
これはまずい。
「よろしくお願いします! ミスラさん!」
否が応でも明るさを感じさせるその声音。それは警戒心が緩くなったと、十分に感じられる。
「ん?」
チリっと、肌に突き刺す感覚。
目の前の教員とは違い僕は警戒を怠らなかった。
「どうかしましたか?」
教官は頭に、はてなを浮かべている。
感じ取れなかったのだろうか?
そのことでも驚きつつ、視線を移す。
突然、測定を行っている方から、魔法の発動を感知したのだ。
もう一度教官の方を向き言う。
魔法感知に気を取られて、返事がぎこちないものになってしまう。
「こ、これからよろしくお願いします」
だから、僕は、全力で笑みを作り、答えた。
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