隠されし魔法詠唱者

白羽翔斗

文字の大きさ
上 下
2 / 12
始まり

1-1 入学試験 1

しおりを挟む

 入学試験と言うものがあるらしい。
 学校なんて、僕の選択肢にすらなかった。
 それ故に、魔法師育成学校って、魔法を学ぶところ程度でしか知識がなかった。

 
 命令を受けたあと、陛下に直接会いに行き、入学試験があることを聞いた。
 そして、様子を見てこい、と言われ来たのである。


 ここ、魔法師育成学校の実演場は、まるで闘技場のように、観客席がぐるりと、一周ある。
 この国のなかでも大きな建造物の括りに収まる規模。経済力の高さが見てわかる。
 
 聞くに、ここで、戦闘訓練をやるのだと言う。


 僕は、免除されているので参加する必要はなく、姫の方も、実力が認められているため、参加していない。
 
 最初に魔力量を図るわけだが、めぼしい人を探してほしい、と、言われている。

 しかし、僕は、魔力量の平均そして、高い量などが、全く分からない。
 調べる時間もなかったために、仕方がないといえば、仕方がない。

 とりあえず、魔力の数値が見えるように、近くに寄ることにした。

 
「さあ、皆さん。こちらで測ります」

 と、呼びかけるショートヘアの女の教官は、僕を一瞥するだけだった。

 まさか、と思い心の中で、その疑問の種を呟く。
 教員にまで、僕のことを隠している? と。
 国はここまで隠すのかと、半分呆れる。

 僕が少し離れているのもあるが、姿が見える範囲だと思う。見えなかったってことはないと思う。

「一列ずつに並んでください」

 魔力測定では、四台ずつ並んだ計測器に教官が一人ずつ付き、結果を紙に書いている。

 それを見せてもらうのも良いのだが……陛下は、教官にすら僕の正体を話さなかった。やはり、何か意図があるのでは? と、考えるが、何一つとして思いつかない。

 その影響で人に聞くことを積極的にしようとは思わない。

 魔法発動は感知される可能性があるため使えない。となると、選択肢は、少し遠くから盗み見る、しかなくなる。
 
「あなたは参加しないのですか?」

 と、さっき、一瞥してきた教官が話してくる。
 やはり、と言ったところだろうか、何も知らないようだ。

「僕は遠慮します」

 間を開けず、即答する。
 平然と返せた自分を褒めたい。

 しかし、さらに続く質問は計測を見逃してしまうため、応答が雑になる。

「入学試験を受けにきた人ですか?」

「いいえ、違います」

 簡潔に答える。
 長いこと人と話す機会がなかったこともあるのかもしれない。
 
「となると、スパイですか?」

 視線を計測器から教官の表情へ移すと、変貌していることに気がついた。。
 落ち着きのある優しそうな先生から、悪魔を彷彿とさせる表情になった。とても、怖い。

 スパイ――今年は姫が入学する。
 
 最大限の警戒に当たるのは、至極当然である。

 しかし、早急に、誤解を解く必要がありそうだが、この教官は、名簿であろう紙を持っている様子はない。

 しかし、名前を言う。

「ミスラです」

 ――――聞き覚えくらいはあるはずだ。

「はい?」

 呆気にとられているようにも見える曖昧な表情。

 突然名前を呟いて困惑しているのだろうか?
 はたまた、聞き覚えのある名前だったか?

「だから、ミスラと言います」 

 もう一度繰り返し、さらに続ける。

「入学試験は、免除されているはずですが……」

 その言葉で完全に思い出したのだろう。

「そ、そうでしたね……ご、ごめんなさい」

 と、少し引くぐらい、激しく狼狽した。
 どうやら、思い出してくれたようだ。

「それで同級生になる者の様子見を、と思いまして」

 いつの間にか、あの形相が消えてなくなり、優しさに溢れる教官本来の表情になっていた。

 よし、これで問題解決、と。
 
「良い心がけですね! 勉強を教える気にました!」

 先程とは、打って変わって愉快に言葉を発する。
 申し訳ない限りではあるが、しっかり予習――と言うそうだが――をしすぎたために教わることは、僅かだろう。

 想定よりもはるかに成功してしまった。
 これはまずい。

「よろしくお願いします! ミスラさん!」

 否が応でも明るさを感じさせるその声音。それは警戒心が緩くなったと、十分に感じられる。

「ん?」

 チリっと、肌に突き刺す感覚。
 目の前の教員とは違い僕は警戒を怠らなかった。

「どうかしましたか?」
 
 教官は頭に、はてなを浮かべている。
 感じ取れなかったのだろうか?

 そのことでも驚きつつ、視線を移す。

 突然、測定を行っている方から、魔法の発動を感知したのだ。

 もう一度教官の方を向き言う。
 
 魔法感知に気を取られて、返事がぎこちないものになってしまう。

「こ、これからよろしくお願いします」

 だから、僕は、全力で笑みを作り、答えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

真☆中二病ハーレムブローカー、俺は異世界を駆け巡る

東導 号
ファンタジー
ラノベ作家志望の俺、トオル・ユウキ17歳。ある日、夢の中に謎の金髪の美少年神スパイラルが登場し、俺を強引に神の使徒とした。それどころか俺の顔が不細工で能力が低いと一方的に断言されて、昔のヒーローのように不完全な人体改造までされてしまったのだ。神の使徒となった俺に与えられた使命とは転生先の異世界において神スパイラルの信仰心を上げる事……しかし改造が中途半端な俺は、身体こそ丈夫だが飲み水を出したり、火を起こす生活魔法しか使えない。そんな無理ゲーの最中、俺はゴブリンに襲われている少女に出会う……これが竜神、悪魔、人間、エルフ……様々な種族の嫁を貰い、人間の国、古代魔法帝国の深き迷宮、謎めいた魔界、そして美男美女ばかりなエルフの国と異世界をまたにかけ、駆け巡る冒険の始まりであった。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...