天真爛漫な転生

佐伯 翠

文字の大きさ
上 下
39 / 40
幼少期編

39.瓜二つ

しおりを挟む

慌ただしく日が過ぎていき、ついにリアンの誕生日=3歳のパーティーの日を迎えた。この数ヶ月の間、兄姉たちに会ったりということもあったが、リアンは週4日の作法勉強をこれまで1つも弱音を吐かず行ってきた。イルシェにも太鼓判をおされるほど流れるように礼をすることが出来るようになり、王族として歩き方も様になっている。その姿は麗らかでまったく3歳には見えない。
そんなリアンは今、椅子に座らされてじっとしている。髪を結われているのだ。生まれてから髪を切ってないので、今では肩甲骨ぐらいまで伸びている。きれいなサラサラな髪は後ろで1本にまとめられており、サイドが編み込まれている。

「リアン様の髪はとっても美しいですねぇ」
「本当ですね。このまま陛下と同じぐらいまで伸ばしてみたらいいのに…。きっと陛下と同じように似合うと思いますよ!」
「そ、そうかな…」

この世界は髪を伸ばした人が結構いて、特に貴族に多い。平民は肉体労働をするひともいるため、仕事の邪魔にならないように切ってしまうことが多いそうだ。髪を伸ばしている中でもアシュトンはカッコ良く背も高いため、長髪がとても良く似合っている。まさに白馬に乗った王子様みたいな感じだ。アシュトンという国の顔が長髪なため、真似をしようと最近は平民でも伸ばす人が多いようだ。
しかし、リアンはこれ以上髪を伸ばしたら女の子みたいと言われるのではないかとあまり乗り気ではない。

「やっぱり、ぼくもそろそろかみをきろ…」
「ドンッ」

髪を切ろうと言おうとしたら、大きな音を立ててカローナが入ってきた。カローナもパーティーに出席するため、髪がふんわり巻かれており碧色のドレスを着ている。落ち着いた色のドレスを着ていることもあり、いつもの可憐な雰囲気と違い、奥ゆかしい雰囲気を漂わせている。

「おかあさま、きょうもいちだんとおきれいですね」

リアンが褒めると、カローナは嬉しそうに頬を緩ませた。

「ふふふ、ありがとう。嬉しいわ」
「そういえば、おかあさまどうしてそんなにいそいでいたんですか?」
「あっ、そうだったわ!リアン、今髪を切ろうかなとか言ってなかった?」

『良く聞こえたなぁ。最後まで言ってないのに…』

「はい、ぼくもそろそろかみをきろうかと…」
「ダメよ」
「えっ?」
「ダメよ」
「…だめですか?」
「うん。だってこんなに美しいサラッサラな髪なのに切るとかもったいないじゃない」
「どうしてもですか?」
「そう、どうしても」

カローナを見ると、絶対に譲らないと目で訴えてる。もう、こちらが折れるしか無さそうだ。

『髪を伸ばして何が良いのやら…。まぁ、もっと大きくなったらもう一度お願いしたらいいかな…』

「わかりました。きるのはしばらくがまんします」
「あ、ありがとう、リア~ン!」

カローナは余程嬉しかったのかリアンに抱きついてきた。

「く、くるしぃ」
「カローナ様、リアン様のご決断は私どもにとっても大変喜ばしいことですが、今抱きつかれてはせっかくのお召し物にシワがついてしまいます」

『ただ少し我慢するって言っただけなのにご決断なんて大袈裟な…』

リアンはこれから髪を切りたいと言いづらい状況に追い込まれていることにこのときは少しも気づいていなかった。

「あっ、そうよね、嬉しすぎてこのドレス着てるの忘れてたわ。リアンも素敵よ。似合っている」
「あ、ありがとうございます」
「そうだ!リアン、鏡で今の姿、見てみる?」
「?」

そういえばこちらの世界では鏡というものをハッキリと見たこと無かった。そしてよくよく考えてみると、この世界での自分の姿を見るのは初めてだった。
前世にはお店の窓ガラスなどがあったら反射するので立ち止まって髪いじったりする人がいただろう。鏡の代わりといってはなんだが、もちろんこちらにも窓がある。しかし、城に付いているのはすりガラスみたいなもので、外から城内部が覗けないような仕組みになっている。そして、王子という立場もあり、身の回りの世話は大体メイド達などがやってくれるので、自分が身だしなみにいちいち注意しないで良かったので、この世界にも鏡というものはあるがここでは高級品なので使ったことがなかった。

「はい、こっちよ」

連れられてカローナの部屋に行くと、布がかかった大きな姿見があった。割れないように部屋の奥にあったので、前に訪れたときには気づかなかった。

「おおきいですね」
「ふふふ、それは特注品だもの。こんなに大きな鏡があるのはなかなか無いんじゃない?ほら、いくわよ」

カローナが布を取るとそこにリアンの姿が映った。3歳という年齢では平均な身長なんだが、サラサラの金髪にカローナと同じの碧色の瞳のぱっちりした目、そしてぷっくりした唇。

『前世と全然変わってないじゃん!』

髪の色や長さ、瞳の色はさすがに変わっていたが、顔のパーツは鼻がアシュトンに似て少し高くなったぐらいでほとんど変わっていない。逆に言えば、旬に金髪のかつらを被せて、碧色のカラーコンタクトをつければリアンと瓜二つなのだ。

『せめて、お父様みたいにカッコ良くしてほしかった…前とほとんど変わらない顔ならまた女の子に間違われる可能性も否めないなぁ…。で、でも、成長したらお父様に似るかもしれないし!』

ところでリアンを見て「かわいい」と言っていた人たちは、子どもということに対してかわいいと言っていたのか、リアンの顔に対してかわいいと言っていたのか、これから成長していったら分かることだろう。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

アリシアの恋は終わったのです。

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

処理中です...