勇者の如く倒れよ ~ ドイツZ計画 巨大戦艦たちの宴

もろこし

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第四話 変貌するZ計画

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■1935年10月
 ドイツ海軍本部

「現在建造中のビスマルク級には大きな問題があります。それは日本から入手した図面と比較しても明らかです」

 帰国したヴェネッカー中佐らは日本での空母赤城見学の顛末を余すところなく報告した。

 日本の戦艦の図面を勝手に購入した経緯については一部より批判もあったが(くれとは言ったが購入する事になったのは外務省の交渉の結果でありヴェネッカーのせいではない)、海軍関係者には概ね好意的に受け入れられた。

 まだこの時点では海軍本部の関係者は状況を楽観視していた。

 たしかにビスマルク級や次のH級は第一次世界大戦の頃のままの古い設計を引きずっているかもしれない。とは言っても今更どうにもならない。

 日本から得られた知見はその次の計画に生かせばよいだろう。彼らの認識はその程度だった。

 だがこの話が偶々ヒトラー総統の耳に入ってしまった事で大問題に発展する。

 総統という地位にいるにもかかわらず、とにかく兵器の細かな仕様にまで口を挟みたがるのがヒトラーの性分である。今回の話を聞いたヒトラーは当然ダボハゼのように食いついた。

「ビスマルクとティルピッツの設計を変更せよ!H級も他国に負けないように至急設計を変更するのだ!」

 自国の最新戦艦が実は旧式で欠陥を抱えている。しかもその事実を事もあろうに日本人に指摘された。その事を知ったヒトラーは激高し海軍担当者を怒鳴りつけた。

「総統閣下、それは非常に困難かと……」

 ヒトラーに怒られつつも担当者は難色を示した。

 ビスマルクとティルピッツは既に変更不可能な所にまで建造が進んでしまっている。H級も既にビスマルク級を拡大した形で設計が完了している。今から新たに設計からやり直せば建造計画が大幅に遅れてしまうのは火を見るよりも明らかだった。

 だがそんな言い訳を聞いてもヒトラーの怒りは収まらない。

「ビスマルク級は仕方がない。だがH級は日本人の設計そのままで造ればよいではないか」

 とうとうヒトラーの鶴の一声で、H級は天城型の設計をほぼそのまま流用し再設計する事になってしまった。

 もっとも完全にそのままという訳ではない。さすがに時代遅れの副砲廊は廃止となり、代わりにビスマルクと同様の副砲塔と高角砲塔が配置された。機関も元のH級設計案と同じオールディーゼルに変更されている。

 こうしてH級戦艦は日本とドイツの合の子戦艦として誕生する事となった。その艦容は日独のデザインが混ざり合ったものとなり、他のドイツ艦と一線を画したものとなっている。

 H級は当初6隻の建造が計画され、1940年までに戦艦H(ウルリッヒ・フォン・フッテン)、戦艦J(ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン)の2隻が就役を果たす。



 尚、Z計画に含まれるグラーフ・ツェッペリンとペーター・シュトラッサーの2隻の空母は、元々はごく普通の全通甲板の空母として建造される予定だった。

 だが海軍に代わって空母のオーナーとなった空軍総司令官ヘルマン・ゲーリングが空母赤城の写真を見てしまったことで運命が変わることとなる。

「この形の空母を建造せよ!」

「ゲーリング閣下、あの形状では航空機の運用に困難が予想されます。そもそも日本海軍も改装を予定しているらしいので……」

「いや、我が帝国にはあの三段空母の形が相応しい。私にはどうしてもそう思えるのだ」

 なぜかゲーリングは赤城の三段になった飛行甲板をいたく気に入ってしまった。結局、彼の鶴の一声で2隻の空母は設計が変更され、改装前の赤城と同じような三段の飛行甲板をもつ空母として誕生することとなる。

 日本やイギリスでは運用上の問題ですぐに廃れた多段式の飛行甲板であるが、不思議なことになぜかドイツ海軍では問題なく運用されたという。



 こうして多段式の飛行甲板はドイツ空母の大きな特徴となった。この影響からか戦後に日本で作られたSFアニメでもドイツをモチーフにした勢力の宇宙空母が多段式の飛行甲板を装備している。



【後書き】

 いくらドイツがZ計画を実現しても史実通りでは設計がアレなので、平賀さんとヒトラーの無茶で無理やりテコ入れしました。これでようやくH級以降ならば各国の新型戦艦とまともに殴り合いが出来るようになります。

 ちなみに空母については、本作の世界では居ても居なくても変わらないくらいの脇役なのでネタに走ってます。
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