何でも起こるこの世界で

ヤギー

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生贄村(6)

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「砂代くん的にはさ、姉とか逃げたマナナンガルを殺したいと思ってるの?」

 しばらくの沈黙を破った。

「⋯⋯どっちかと言えば殺したくはないです。でもそんなことは言ってられないですね。ちゃんと殺し切って終わらせます」
「そんなこと、言ってられると思うけど」
「え?」
「好きなようにしたらいいじゃん。⋯⋯まあ、土壇場で裏切ろうとか考えてるんだったらいいんだけどね」
「裏切るなんて⋯⋯」
「まあ、勇気が出ないんだったらその場の流れに身を任せてても解決する問題だとは思うよ」
「⋯⋯」
「もし魔が差すタイミングが来たら考えてみなよ。自分がその時どうしたいのかさ」

 何となく、その場面のヴィジョンが私の中にはある。起こり得る可能性の一つってだけだけど思いついたのだ。

「不思議なことを言いますね」
「てきとうなことを言ってるだけだよ。⋯⋯まあ、それはいいとして、今回の仕事が終わったら砂代くんはどうするの?」
「どうするとは?」
「怨霊の恨みの対象に村の出身である砂代くん自身も含まれてるなら、自殺しちゃうのもあり得るのかなって思って」
「よく考えが回りますね。いや、死ぬ気はないです。俺の分の怨霊は残るのかもしれないですけど、それとは和解できる気がするんです。感覚ですけどね」
「そうなんだ。趣味とかないの?」
「今は漢字ドリルにハマってますね。俺、学校に行ったことないから勉強するのが楽しいんです」
「おー、いいじゃん」

 心から良いと思う。
 収入があって、やりたいことがある。それは生きていく土台があるということだ。

「どうせなら、ハッピーエンドを迎えられるといいね」
「本当に、そう思います」

 砂代くんは、言葉を噛み締めるように深く頷いた。




 目的地のコンビニが見えてきた。
 広い駐車場には車は殆ど停まっていない。コンビニから遠い所に二台のワゴン車が停まってあったのでその近くに駐車した。
 
「隣の車かな」

 ワゴン車の、一つ飛ばして右にバックで停めた形。
 
「そうっぽいですね。降りましょうか」

 車を降りると、同時にワゴン車の運転席のドアも開かれ人が降りてきた。眼鏡を掛けた長身の男性。ぱりっとしたスーツを着ていて厳格そうな印象を受けた。
 記憶をソートしてプロフィールにあった近しい人物の名前を思い出す。

「一戸さんですか⋯⋯?」

 遠慮がちに聞くと、眼鏡の奥の目が鋭くなった。

「そういうあなたは望月さん、そしてこちらは砂代さんですか」

 責めるような低い声が少し怖い。

「そうです」
「綺麗に駐車してますね。女性の割に」
「え? そうですかね」
「まあ、偶然でしょうけど」

 ああ、プロフィール通りだ。

「他の人はどこに?」
「皆さんコンビニで立ち読みしてますよ。貴重な時間を無駄にしない為にね」
「あ、はい」

 私の苦手なタイプだ。女性嫌いな所じゃなく、サラリーマン特有の正しさという免罪符で、悪気なく悪意を持って攻撃してくる所が。
 今となってはその人種を気にする必要はない。それでもトラウマはそう簡単には拭えないようだ。
 コンビニの方を見ると、雑誌を読む一人の女性と目が合った。その女性が並んで立ち読みをする二人に目を向けると、その後三人一緒にコンビニから出てくる。
 
「あ、来るみたい」

 目が合った女性を先頭にしてこちらに向かって来る。

「望月真奈様ですね」

 こんな寂れたコンビニには相応しくない豪華な意匠のお嬢様ワンピースを着た上品ぽい女性。

「倉木さんですか?」
「はい! わたくしが倉木来火でございます!」

 ニコニコと嬉しそうに答えた。

「おっそいわよ」

 隠す素振りもなく悪態をつくちびっ子。

「時間より早いけど。桜庭さん」

 ふん、と鼻を鳴らした。

「で、あなたが工藤さん」
「文也でぇす。俺のことはフミヤって呼んでねぃ、まなちゃん」
「あ、はは」

 これはこれで苦手だな。

「砂代朝樹です」

 丁度よく砂代くんが差し込んでくれた。

「さて、では、早速今日の手筈を説明します」

 仕切り出した一戸さんに全員が注目する。

「ここから三百メートル程離れた場所に例の村があります。そこまで徒歩で行き、村に入り次第自由行動とします。道中いないと思いますが、敵との遭遇も考えられるので十分警戒して歩いてください。村に着いたら捜索範囲が被らないようにして分担します。これは現場を見てから決めましょう。注意事項として、敵の数が多くなることが予想されますので一体一体の見極めを徹底して、場合によっては交戦を避けることも視野に入れて立ち回ってください。私からは以上ですが、皆さんから発言あればお願いします」

 淀みなく小慣れた進行。聞いてる側も定められた法を遵守するかのように当然の所作として黙していた。
 法の前には歳も性格も違いはない。世間擦れしてなさそうな女性も、跳ねっ返り抜群そうなお子様も、世間を舐めてそうな不良も同じようにルールが拘束していた。

「はい。私はエアガンによる遠距離魔法攻撃が可能なので、接近すると危なそうな敵を率先して対応していくので、そういう敵は私に任せてください」
「はい。俺も同じくボウガンで遠距離攻撃ができまっす。装備、持ち替えればナイフとかもいけますんで、遠慮なく頼ってください」

 桜庭さん、工藤さんが発言する。多少の自我を見せつつも、決めていたような言葉を並べた。社会のルールが働いてるのをひしひしと感じる。
 そんなのを見せられたら抵抗したくなっちゃうな。
 はい、と二人に続いて手を挙げる。

「ちょっとトイレに行きたいんで、コンビニ寄ってきますね」

 呆れと驚きの反応。倉木さんだけはなぜか目を輝かせている。
 場違い感と達成感を味わってコンビニへ一人向かった。
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