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面接
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扉越しにノックの音が鳴る。どうぞ、と促し扉が開かれると、若くて美人な女性が姿を現した。
「失礼します!」
元気良く一礼し、部屋中央のパイプ椅子の横まで歩み寄る。
「英山ミユキです。本日はよろしくお願いします」
「はい。お座りください」
着席する。
近くで見ると緊張してしまうくらい美人だが、彼女はこっちよりも緊張した様子だ。
「はは。こうして改まった場だと緊張してしまうけど、うちは人を選べる程大きい会社じゃ無いからね、気軽な感じでいいですよ」
今日面接するのは彼女を入れて三人。面接と言っても、最初から三人とも合格はほぼ決まりで、今から始まるのは履歴書から適当に話を広げていくだけのただの世間話だ。
「早速始めますか。⋯⋯趣味はテニスですか。へえ、テニスサークルに所属と。この活動を通して身になったこととかあれば教えていただけますか?」
「はい。テニスサークルではテニスを通してコミュニケーション能力を高めることができました。合宿の際も、特殊な環境下で仲間とぶつかり合い互いの力を引き出し合うことを学びました」
「大会には出場されましたか?」
「してません」
大会に出ないのに合宿とかやるんだ。まあいいか。
「得意なこと、忍耐力とありますが、具体的に何かこういう出来事があった、とかあれば教えてください」
「はい。私、よくセクハラされるんです。肩とか髪とかお尻とか触られたりするんですが、私はそういったことに耐えられる心を作って来ました」
「なるほど。まあうちにはセクハラとかはありませんが、心を鍛えるということは大切ですね。⋯⋯はい、ではこのくらいにしましょうか」
「はい。ありがとうございました!」
そうして一人目が終わった。
しっかりして良い子そうだったな。美人だし。
少し時間を置き、二人目を招き入れた。
「二川コウイチです」
座って、スタート。
「特技、カメラを撮ること。これは写真ですか?」
「いえ、映像の方ですね。私はどんな状況下でもカメラを回し続けることができます」
「へえ、どんな状況下でも。それって例えば?」
「カメラって持つ技術がないとブレるんですよ。ですので例えば揺れるバスの中とかは結構静止するのに力が要るんですが、そんな状況下でも私は使える映像を撮ることができます」
「なるほど」
「その他にも寝転ぶ被写体と同じように横になっての撮影や、何なら時間が止まっていようが使える映像を撮ることだってできます!」
「情熱があるんですね」
最後のはちょっと意味がわからないけど、熱中できるものがあるのは良いことだ。
「ありがとうございました」
二人目、終了。
三人目、入室。
「⋯⋯です」
「ん? あ、すみません、もう一度お願いします」
「山川ゲンキです⋯⋯」
「はい。お座りください」
名前の割に元気がないな。表情も暗い。
今年三十歳、経歴の空白が目立ち、資格もなし。こんな人でも人材は人材だ。それに、一つ気になることがある。
「すみません、この特技の所に書いてある、時間を止めること、とは何のことでしょう?」
「あ、それは、その、その通りのままです」
「その通りって、比喩とかじゃないって意味?」
「あ、はい」
え? いや、虚偽だろ。
「やって見せましょうか?」
「え、はい」
そう言うと山川さんは目をカッと見開いた。
そしてまた普通に戻った。
「やりました」
「やったって、証拠がない⋯⋯」
言いかけて、山川さんが持っている紙に目を向けた。
それは履歴書。俺が今の今までファイル越しに見ていたものだ。それが今、抜き身で山川さんの手にある。
「え、本当に?」
「今度は戻します」
また目を見開く。
瞬きする間もなく履歴書は俺の手元のファイルに収まっていた。
「すごっ。本当にトリックとかじゃないんですね?」
「はい」
聞いた所で見抜く目はないから意味のない質問だった。
「わかりました。それでは以上で面接は終了となります。ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました」
立ち上がって、山川さんが出ていくのを見つめた。
座り、三人の履歴書をもう一度見る。
それぞれの能力を加味し、一つの構想が湧いた。
「新しい事業、始めるか」
こうして、俺の会社はAV会社となった。
「失礼します!」
元気良く一礼し、部屋中央のパイプ椅子の横まで歩み寄る。
「英山ミユキです。本日はよろしくお願いします」
「はい。お座りください」
着席する。
近くで見ると緊張してしまうくらい美人だが、彼女はこっちよりも緊張した様子だ。
「はは。こうして改まった場だと緊張してしまうけど、うちは人を選べる程大きい会社じゃ無いからね、気軽な感じでいいですよ」
今日面接するのは彼女を入れて三人。面接と言っても、最初から三人とも合格はほぼ決まりで、今から始まるのは履歴書から適当に話を広げていくだけのただの世間話だ。
「早速始めますか。⋯⋯趣味はテニスですか。へえ、テニスサークルに所属と。この活動を通して身になったこととかあれば教えていただけますか?」
「はい。テニスサークルではテニスを通してコミュニケーション能力を高めることができました。合宿の際も、特殊な環境下で仲間とぶつかり合い互いの力を引き出し合うことを学びました」
「大会には出場されましたか?」
「してません」
大会に出ないのに合宿とかやるんだ。まあいいか。
「得意なこと、忍耐力とありますが、具体的に何かこういう出来事があった、とかあれば教えてください」
「はい。私、よくセクハラされるんです。肩とか髪とかお尻とか触られたりするんですが、私はそういったことに耐えられる心を作って来ました」
「なるほど。まあうちにはセクハラとかはありませんが、心を鍛えるということは大切ですね。⋯⋯はい、ではこのくらいにしましょうか」
「はい。ありがとうございました!」
そうして一人目が終わった。
しっかりして良い子そうだったな。美人だし。
少し時間を置き、二人目を招き入れた。
「二川コウイチです」
座って、スタート。
「特技、カメラを撮ること。これは写真ですか?」
「いえ、映像の方ですね。私はどんな状況下でもカメラを回し続けることができます」
「へえ、どんな状況下でも。それって例えば?」
「カメラって持つ技術がないとブレるんですよ。ですので例えば揺れるバスの中とかは結構静止するのに力が要るんですが、そんな状況下でも私は使える映像を撮ることができます」
「なるほど」
「その他にも寝転ぶ被写体と同じように横になっての撮影や、何なら時間が止まっていようが使える映像を撮ることだってできます!」
「情熱があるんですね」
最後のはちょっと意味がわからないけど、熱中できるものがあるのは良いことだ。
「ありがとうございました」
二人目、終了。
三人目、入室。
「⋯⋯です」
「ん? あ、すみません、もう一度お願いします」
「山川ゲンキです⋯⋯」
「はい。お座りください」
名前の割に元気がないな。表情も暗い。
今年三十歳、経歴の空白が目立ち、資格もなし。こんな人でも人材は人材だ。それに、一つ気になることがある。
「すみません、この特技の所に書いてある、時間を止めること、とは何のことでしょう?」
「あ、それは、その、その通りのままです」
「その通りって、比喩とかじゃないって意味?」
「あ、はい」
え? いや、虚偽だろ。
「やって見せましょうか?」
「え、はい」
そう言うと山川さんは目をカッと見開いた。
そしてまた普通に戻った。
「やりました」
「やったって、証拠がない⋯⋯」
言いかけて、山川さんが持っている紙に目を向けた。
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「え、本当に?」
「今度は戻します」
また目を見開く。
瞬きする間もなく履歴書は俺の手元のファイルに収まっていた。
「すごっ。本当にトリックとかじゃないんですね?」
「はい」
聞いた所で見抜く目はないから意味のない質問だった。
「わかりました。それでは以上で面接は終了となります。ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました」
立ち上がって、山川さんが出ていくのを見つめた。
座り、三人の履歴書をもう一度見る。
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