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第8話
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「いや、こっちこそ、なんかごめん」
わたしが慌ててかぶりを振るのに対して、志水くんはゆっくりと首を横に振った。
「すごくなくはないんだろうけど、個人的に、まだ満足したくない。勉強もバスケも、もっと上の世界ににいる人たちと競ってるつもりでやってる」
「意識高いね」
「俺、その言葉好きだよ」
「ごめん。皮肉とかじゃなくて」
「いいよ。本当に好きだから」
「でもさ、なんでそんなに頑張れるの?」
「中学のときはさ、勉強もバスケもかなりできる方で、自分はできる人間だと思ってた。でも、模試の判定がなかなかよくならなくて、もっと上の学校を受けるつもりだったけど、びびってうちの学校を受けた。それと、勉強で受験しなくたって、どこかの高校からバスケのスポーツ推薦のオファーが来るんじゃないかとも期待してたんだけど、それも来なかった。だから、高校入学したときには心が空っぽな感じで、何やってるんだろう、っていう気持ちだった。一年生の最初に受けさせられた実力テストで一位獲って、仮入部したバスケ部でも俺が一番上手くて、すげぇ言いかた悪いけど、引きずられちゃダメだって思った。見下してるように聞こえるかもしれないけど、多分、ちょっと見下してるのかもしれないけど、でも、ここでぬるま湯に浸かったら、半端なことしたら、また同じことの繰り返しになるって思った。だから、周りを見ずに上を見て努力するようにしてる」
志水くんの話を聞きながら、わたしの視線は志水くんからゆっくりと逸れていく。
なんだか、自分があまりにも情けなくて、とても小さな存在に感じられる。
わたしは平均であろうとした結果、言い換えれば、平均でありさえすればいいと慢心していた結果、数学でつまずいた。志水くんに引っ張り上げてもらわなければ自力でそこから浮上することなんてできなかっただろう。
そして、勉強以外では努力のスタートラインにすら立っていない。やる気を欠く吹奏楽部は当然のように地区大会で敗退して、三年生の夏はあっさりと終わってしまっていた。
普通ってそんなものだろうと思いながら、努力しなかったことにも、負けたことにも、不思議なくらい何も感じなかった自分がいた。
信号が青になって、志水くんが歩き出して、わたしの足はなぜか一ミリも動き出そうとはしなくて、志水くんにポンと肩を叩かれる。
「大丈夫? 熱中症とかじゃない?」
「うん。大丈夫。大丈夫だから」
志水くんというよりも、自分自身にそう語りかけて、わたしは小さな一歩を踏み出して横断歩道の白線を踏む。駅に着いてからも、電車に乗ってからも、志水くんはわたしの体調を幾度となく心配してくれていた。確かにわたしはうわの空で、いかにも体調が悪いように見えただろう。でも、その理由を志水くんが理解することは絶対にできない。
わたしが慌ててかぶりを振るのに対して、志水くんはゆっくりと首を横に振った。
「すごくなくはないんだろうけど、個人的に、まだ満足したくない。勉強もバスケも、もっと上の世界ににいる人たちと競ってるつもりでやってる」
「意識高いね」
「俺、その言葉好きだよ」
「ごめん。皮肉とかじゃなくて」
「いいよ。本当に好きだから」
「でもさ、なんでそんなに頑張れるの?」
「中学のときはさ、勉強もバスケもかなりできる方で、自分はできる人間だと思ってた。でも、模試の判定がなかなかよくならなくて、もっと上の学校を受けるつもりだったけど、びびってうちの学校を受けた。それと、勉強で受験しなくたって、どこかの高校からバスケのスポーツ推薦のオファーが来るんじゃないかとも期待してたんだけど、それも来なかった。だから、高校入学したときには心が空っぽな感じで、何やってるんだろう、っていう気持ちだった。一年生の最初に受けさせられた実力テストで一位獲って、仮入部したバスケ部でも俺が一番上手くて、すげぇ言いかた悪いけど、引きずられちゃダメだって思った。見下してるように聞こえるかもしれないけど、多分、ちょっと見下してるのかもしれないけど、でも、ここでぬるま湯に浸かったら、半端なことしたら、また同じことの繰り返しになるって思った。だから、周りを見ずに上を見て努力するようにしてる」
志水くんの話を聞きながら、わたしの視線は志水くんからゆっくりと逸れていく。
なんだか、自分があまりにも情けなくて、とても小さな存在に感じられる。
わたしは平均であろうとした結果、言い換えれば、平均でありさえすればいいと慢心していた結果、数学でつまずいた。志水くんに引っ張り上げてもらわなければ自力でそこから浮上することなんてできなかっただろう。
そして、勉強以外では努力のスタートラインにすら立っていない。やる気を欠く吹奏楽部は当然のように地区大会で敗退して、三年生の夏はあっさりと終わってしまっていた。
普通ってそんなものだろうと思いながら、努力しなかったことにも、負けたことにも、不思議なくらい何も感じなかった自分がいた。
信号が青になって、志水くんが歩き出して、わたしの足はなぜか一ミリも動き出そうとはしなくて、志水くんにポンと肩を叩かれる。
「大丈夫? 熱中症とかじゃない?」
「うん。大丈夫。大丈夫だから」
志水くんというよりも、自分自身にそう語りかけて、わたしは小さな一歩を踏み出して横断歩道の白線を踏む。駅に着いてからも、電車に乗ってからも、志水くんはわたしの体調を幾度となく心配してくれていた。確かにわたしはうわの空で、いかにも体調が悪いように見えただろう。でも、その理由を志水くんが理解することは絶対にできない。
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